名前は食事を終えて、お見舞いとして貰ったジェラートを手にソファーに腰かけた。
沢山あったドルチェも、少しずつ減って今や残りも僅かだ。

「名前、隣に座ってもいいか?」

「ソルベ、ジェラート!座って座って!!」

端に避けようとする名前を真ん中に座らせ、ソルベとジェラートは彼女を挟んで座った。
相変わらず定位置に座らせてくれる二人に、名前は嬉しそうに笑いかける。

「暇そうだな」

「リゾットが皿洗いを手伝わせてくれないんだもん」

ソルベの質問に肩を竦めると、二人は「そりゃしょうがねーよ」と笑った。

「お前は病み上がりだからな」

「スタンドの暴走は病気じゃないよ」

ムッと頬を膨らませる名前を、ジェラートがギュッと抱き締める。

「病気よりタチが悪いぜ」

名前がいつまでもあの"凄惨な過去"に捕らわれているのかと思うと、ソルベもジェラートも気が気ではなかった。
たった数日の間に衰弱する名前を、二人は最初からずっと目の当たりにしていたのだ。
ソルベにもジェラートにも、それは深い傷を残していた。


「ごめんね」

「無事に戻って来てくれたんだ、気にするな」


ポンポンと頭を撫でると、ジェラートは前に向き直ってソファーに背を預けた。

「……オレ、リゾットが泣いてるのあの時始めてみたんだよな」

「あぁ、オレも」

目を覚ました名前を抱きしめ、首に顔を埋めて隠すように…しかし確かにリゾットが泣くのを見た。
そこに居た全員が、初めての事に息を飲んだ事を今もはっきりと覚えている。


「あいつ…本当に名前が好きなんだな」

ソルベの呟きに、名前とジェラートは思わず固まった。
名前は真っ赤に、ジェラートは顔を強張らせていた。

「なんだよ、ジェラートは気づいてただろ」

「そうだけどよ」

過ごした時間が濃いければ濃いほど、相手への思い入れは深くなる。
そういう意味では、ソルベとジェラートの名前への思い入れは"ただのチームメイト"のそれを遥かに超越していた。

「盗られちまうのかと思うと、やっぱ寂しい」

「前は『絶対にくっつく』って言い張ってたじゃねーか。喜んでやれよ」

落ち込むジェラートの頬を、ククッと笑うソルベが撫でる。

「何?途中から何の話か分からなくなったんだけど…」


盗る盗られるの辺りから何の事を言っているのか分からなくなった。
眉を寄せる名前に、ジェラートはハァとため息をついて手を握った。

「まぁ…いい。オレ達は名前の味方だし」

「厳密に言えばリゾットだって味方だけどな」

茶化すソルベをジェラートはキッと睨み付け、「そうだけどな」と呟いた。
そこから二人はその話を止めたから、ジェラートが何に複雑な顔をしていたのかは分からない。





「名前」

皿を片付け終えたリゾットが顔を出し、名前はパッと笑って駆け寄る。
名前が抜けて隙間の空いたソファーに残されたジェラートとソルベは、ソッと真ん中に座り直した。


「じゃあもう寝るね」


「ああ、おやすみ」
「おやすみ」

二人とハグをして、名前はリゾットとダイニングを後にした。
パタンと閉まる扉を見ながらジェラートが「名前が幸せならいいんだけどよ。寂しいな」と小さく呟いて、ソルベは目を細めてジェラートの肩に手を回した。









「明日はお休みだよね?」

「ああ」

良い機会だからと、ジョルノに長期休暇(強制)を言い渡された名前は、ここのところ毎日を家で家事をして過ごしていた。
それすらもあんまりするとリゾットに怒られるので、誰かが休みになるのを指折り数えるのが日課になっていた。

リゾットは部屋の扉を開け、「じゃあ明日は一緒に居れるね」と喜ぶ名前を先に部屋に入れる。
エスコートもずいぶん板についてきた。


「何して遊ぶ?」

よっぽど毎日退屈していたのだろう。
はしゃぐ名前の頭を引き寄せてキスしたリゾットは、ふんわりと笑みを浮かべた。

「明日は行きたい所がある」

「一緒に行ける?」

「あぁ」

置いて行かれる心配をした名前は、リゾットの返事に「やった」と笑う。
久々にリゾットと出かける名前は、すぐにクローゼットを開けて明日の服装の検討を始めた。


「もっと早く言ってくれたら、可愛い服を買いに行ったのに」

「すまん」

服持ちでもない名前は、悩むと言っても悩む程の服を持っていない。
数着の服を並べて「うーん」と頭を抱えても、手持ちの服が増えるわけもない。
今ならアウトレットモールもセールをしている時期だし、つい先日メローネが休みだったのに。
「あの時買いに行けば良かった」と今さら後悔した所で、もう遅い。


「名前ー、起きてる?」

ノックと同時に部屋に飛び込んだメローネは、リゾットを見つけて慌てて踵を返した。
扉を閉め、ノックし直す。

「なんだそれは」

「だってリゾットに怒られるしぃー」

「今さらそれくらいで怒るか?」

口を尖らせても可愛くないと突っ込まれながら笑うメローネは、紙袋を手に名前を呼ぶ。


「何?」

「いやー、ホルマジオとプロシュートとイルーゾォとオレからプレゼント」

何とも奇妙な組み合わせのメンバーが気になるが、名前は紙袋を受け取った。

「何のお祝い?」

「快気祝いって所かな?」

フフッと笑うメローネの含みのある言い方に眉を寄せた名前は、紙袋を覗き込んで目を丸くした。


「服?」

「ピンポーン。必要だろ?」

あまりにもタイミングが絶妙で、名前はメローネを見つめたまま言葉を探して固まった。
ジェラートとソルベといい、メローネといい、何かを知っているのだろうか。


「もしかして何かあるの?」

不安げに表情を曇らせる名前の頬を指でなぞって、メローネはソッと髪にキスをした。

「悪い事にはならないさ」

紙袋を抱きしめて未だ不安げにうつ向く名前に、メローネは小さな袋を差し出して握らせると「おやすみ」と部屋へ戻って行った。

小さな袋には、ペッシとギアッチョからの小さなメッセージカードと髪飾りが入っていた。

"明日も明後日も、名前にとって良い日になりますように"

ペッシの字で綴られたメッセージの隣に、ギアッチョが名前だけ書いたメッセージカード。
名前は大切に袋に戻し、リゾットに言われてシャワーを浴びるとベッドに潜り込んだ。
もぞもぞと頭を出してもう一度カードを取り出し、ペッシとギアッチョの癖のある字を眺めた。

(みんな何を知ってるんだろ…)


「まだ起きてたのか」

浴室から出てきたリゾットに笑われて、名前は口を尖らせた。


「リゾットも何か知ってるの?」

眉を寄せる名前のカードを覗き込んで、リゾットは「あぁ」と小さく笑った。

「明日教えてやる」

「今知りたい」

「それは駄目だ」


ムゥッと拗ねる名前にキスをして、リゾットは隣に潜り込む。

名前が目を覚ました翌日には、当初の計画通り二つに分けていた部屋を一つに戻した。それ以来、二人は毎日こうして一つのベッドに眠る。
安心すると同時に、甘くくすぐったくて少し恥ずかしい。


リゾットに背を向けていた名前はクルリと向き直り、リゾットの胸にぐりぐりと頭を寄せる。

「ダメ?」

「あぁ」

「どうしても?」

「そうだな」

「ケチ…」


口を尖らせながらも抱きつく名前に、リゾットは薄く笑ってキスをする。

「明日は早く出る。もう寝ろ」

「んー…」

しばらく不満に頬を膨らませていた名前も、小さくあくびをして眠たげに目を瞬かせた。

(明日は…メローネ達がくれた服に、ペッシとギアッチョがくれた髪飾りをしよう。
リゾットがくれたブレスレットをして…。
あれ?自分で買った物ないや…)


ゆっくりと心地好い微睡みに意識を沈めて、名前は温かなリゾットの体温を感じながら眠りについた。


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