「名前、お前宛にボスから指令がきた」
リゾットが不愉快さを隠しもせず、端整な顔を歪ませて名前に一枚の紙を手渡した。
暗殺チームに居ながら未だに殺しをしたことのない名前に、一体どんな指令がきたのかとメンバーの視線が集まる。
―指令
暗殺チーム所属名前は、パッショーネ元ボス・ディアボロのアジトに潜入し、反乱計画の有無を報告すること。
尚、制服はこちらから支給する。
同行は一人までなら許可する。
細かに指定された内容に、名前は眉を寄せた。
元・ボスのディアボロに反乱疑惑がかけられ、それを名前と暗殺チームの誰か一人の二人で調べろという内容だろう。
それが……。
「制服?」
何の為の制服なのだろう。
とりあえず指令書を燃やして、「制服かぁ」とだらしない顔をしたメローネの脛を蹴り飛ばした。
「誰が名前に着いて行く?」
当然、焦点はそこになる。
「オレが行こうか?」
ホルマジオが手を上げる。確かにリトルフィートなら、潜り込むにはうってつけだ。
「オレでも良いけど、別件の指令があるからなぁ…」
「イルーゾォが行けないなら、ホルマジオでほぼ決まりだな」
リゾットがそう言って話が終わりかけた時、「制服を届けに来たんですが…」とフーゴが部屋の戸を小さく開けて覗いた。
「何度もチャイムを鳴らしたんですがね…」
「あぁ、壊れてるんだ。忘れてた」
チャイムが壊れたのを忘れられる頻度でしか来客の無い暗殺チームのアジトに足を踏み入れたフーゴは、あからさまに「帰りたい」と言わんばかりの表情でリゾットに紙袋を差し出した。
「名前さんと、同行人分の制服です」
フーゴの説明に、暗殺チームは首を傾げる。
「名前の分ってのはわかる。名前に下された指令だからな。
だが…同行する奴にも制服があるのか?」
ギアッチョに矛盾を指摘され、フーゴは首を横に振った。
「ボクもそう思うが、詳しい話は聞かされてない」
「あぁ?んなわけねーだろ…ちょっとくらい聞いてるだろ!?」
首を振るフーゴに詰め寄るギアッチョを他所に、リゾットはなるほどと頷いた。
「聞かされてない」の説明で通す為の"フーゴ"なのだ。
パンナコッタ・フーゴは、ブチャラティチームを一度離脱し、ボスからの指令をこなしてパッショーネに復帰したとは言え、彼自身の信用レベルはまだ低い。
これが周囲の、フーゴに対する認識だった。
ボスのジョルノから「聞かされてない」と言って周囲が納得するのは、ブチャラティチームにはフーゴしかいないはずだ。
「本当に知らないなら仕方ない」
リゾットはがなるギアッチョを片手で制して、「悪かったな」とフーゴを玄関まで送った。
わざわざ危険な指令をこなしてまでチームに戻ってきた男が、ちょっとやそっと詰め寄ったくらいで情報を漏らすわけがない。
「いぇ、それでは失礼します」
リゾットがフーゴを見送って部屋に戻ると、名前とメローネが紙袋の攻防戦を繰り広げていた。
「どんな制服なんだ?」
メローネがウキウキした様子で急かし、名前は紙袋を抱きしめてリゾットの背後に回り込む。
「変態メローネっ!リゾット助けてー!!」
名前に助けてと言われれば、リゾットは助けない訳にはいかない。
リゾットにギロリと睨まれたメローネは、まるで蛇に睨まれたカエルの如く固まった。
「それで、どんな制服だった?」
メローネが動きを止めたのを確認して、リゾットは名前を振り返る。
「それが…」
何が入っていたのか頬を染めて口をつぐむ名前を、リゾットは前触れもなく抱きしめた。
「おいリゾット!!」
慌てて駆け寄ってきたプロシュートとイルーゾォに引き剥がされ、リゾットはしぶしぶ名前を離す。
「ビックリした…リゾットって突然だよね」
「それで、名前…その中は何が入ってたんだ?」
真っ赤になって目を丸くした名前を再び抱き締めようとしたリゾットの前に割り込んで、プロシュートが先を急かす。
埒があかない。
「う、うん…それが…」
説明するより見せた方が早いと袋から取り出されたのは、フワフワの可愛らしいレースが贅沢にあしらわれた…
「メイド服?」
「ディ・モールト、ベネ!!最高だボス!!オレは今、心からボスに感謝した!
名前、今晩それを着てオレを試乗してみな「メタリカっ!!」
メローネが刺繍針を吐き出すのを眺めながら、プロシュートはふと浮かんだ疑問に名前を振り返った。
「名前、同行人の奴の制服は?」
「そういえば」と再び一同の視線を一身に受け、名前はもう一つの制服を取り出した。
先ほどの制服より大きく、暗殺チームのメンバーの身長を意識して選ばれている。
これならば、誰が着ても違和感なく入るだろう。
ただし…
「スカート…?」
彼らが女だったなら。だ。
「なぜか両方女物なんだよね」
しかし、明らかに長身を意識されたロングスカートと、名前の身長にピッタリであろう膝丈のスカートだ。
「誰が行く…?」
名前の呟きに、全員が顔色を変えた。
「名前、似合うじゃないか」
リゾットが褒めて、名前は嬉しそうにはにかむ。
普段、暗殺チームというチームの特性上女らしい格好はあまりしない名前は、鏡を見て照れ臭そうにはしゃぐ。
「スカート丈もピッタリだね。似合ってる」
ジェラートがニコッと笑って褒め、名前はますます嬉しそうに「グラッツェ」と頬を緩めた。
たっぷり名前を褒め称え、リゾットは落ち込む"同行人"に視線を移した。
「……お前も、似合ってるぞ?」
「気を使うなら見ないでくれ……」
今にも泣き出しそうなプロシュートは、いつも綺麗に結い上げている髪をおろし、ロングスカートに顔を埋めて座り込む。
「兄貴…」
ペッシもさすがに声をかけあぐね、うんうん唸りながら立ち尽くす。
「プロシュート兄貴…」
名前がちょこんと隣に座り込み、膝を抱えるプロシュートの腕に手を添える。
「あ、姉貴か…」
「名前、オレは今!初めて名前に殺意が芽生えた!!」
涙目で掴みかかるプロシュートに、名前は「キャー」と笑顔で叫ぶ。
「プロシュート兄貴、やっぱり美人だよね」
「嬉しくない!!」
「プロシュート兄貴と行けて安心だったんだけど…嫌なら一人で行こうか?」
「ズルい女だ、お前は…」
プロシュートは頭をがしがしかき混ぜて、名前を見つめた後大きなため息をついた。
「ここでお前だけ行かすと男が廃る。オレも行く」
「兄貴ぃ!!」
名前の勝利だと、そこに居た誰もが思った。