名前はこれまで、「絶対に戦いに首を突っ込むな」とジェラートと最初に交わした約束だけは守ってきた。
だからこそ、着かず離れずの距離を守ってきた。
手に握りしめていた糸が、相手の死によって消える時の悲しみは計り知れない。
慌てて物陰から死んだ相手の魂をスタンドで結んで、ブチャラティチームが立ち去るのを待った。

新入りのジョルノに見つかりかけた時は、もうダメかと思った。

スタンド能力を常に発動させているため、今まで結んできた暗チメンバーの魂はスタンド使いにはきっと見えてしまう。

そうなれば、名前が暗殺チームとの関係を否定するのは不可能だ。

アバッキオが「行くぞジョルノ!」と声をかけてくれたお陰で、名前は九死に一生を得たのだ。






そんな名前も岩影で、今にも飛び出したい気持ちを必死に堪えていた。

「ひょっとしてオレは…自分が気づいていない以上に!!
オレが求めるべきものに!近づいているのかッ!」


「リゾット…」

ガタガタ震える体を抱いて、必死に飛び出したい衝動を押さえる。

役に立たない事など分かっている。
自分が飛び出した所で、何にもならない。



「まさか…あれは……」

ホルマジオが隣で息を飲む。
プロシュートもペッシも、イルーゾォもギアッチョも目が飛び出すんじゃないかと思う程に丸く見開いていた。


「駄目だぞ、名前…行くなよ?」

まだ具合が悪いのだろう。
メローネが脂汗をかいて名前を引き止める。
涙を堪えて膝を抱える名前を、メローネは優しく撫でる。


「ベネ…いい子だ」


メローネが先ほどから何度周囲に視線を走らせても、ここには「女」が居ない。
子ども達が離れた場所でサッカーをしているのが微かに見えるだけで、名前以外に女は見当たらない。
メローネのスタンド、ベイビーフェイスには女が必要だ。

「くそ…」

メローネが悪態をついた所で、状況は変わらない。

リゾットはボスらしき人物にとどめを刺すべく、メタリカを纏って姿を消す。

「これで最後だ」


全員が手に汗を握った、その瞬間だった。




ードルルン…





ナランチャのエアロスミスの弾が、リゾットに命中する。


「リゾットっ!!」


飛び出そうとする名前を、メローネが押さえつける。

「ダメだ!!離れるぜ!相手がエアロスミスじゃあ、ここも危ない」

力で名前を無理矢理担ぎ上げ、そこから走って離れる。
まだ消えきらない毒がメローネを襲う。


「くそ…ジョルノみてーな能力を持ってる奴さえ味方なら!!傷さえ塞いだらリゾットを助けられるのに…」


メローネの愚痴も、名前にはそれ所ではなかった。

名前は確かに見た。
リゾットがボスを掴み、ナランチャのエアロスミスの銃弾をその身に受ける瞬間を。
ボスをすり抜けてリゾットにだけ弾が当たる、その瞬間を。


「あれがボスの能力…」


血に染まるリゾットを、名前は救えなかった。















「……ごめんなさい」

名前は何度目かも分からぬ謝罪を口にする。
ブチャラティチームが立ち去った後、抱き抱えたリゾットは冷たくなりはじめていた。


「もう良い」

リゾットは久々に見る名前の姿に動揺した。
まるで子どもの様だと思っていた名前は、哀愁漂う雰囲気と確固たる決意で大人のような顔をしていた。
初めて見た時にまだ未開発だったスタンドは、寸分の狂いなく名前の意のままに動く。


「リゾット…冷たい」

ポタリポタリと、透明な滴がリゾットへ落ちて弾ける。
リゾットは、自分の無力さを呪った。
あんな突き放し方をしたのに、再び自分の所へ帰ってきてくれた名前を、今は抱き締める事も出来ない。

「メローネ…」

リゾットはメローネに視線を送って、名前に背を向けた。
リゾットの暗黙の指示に頷いて、メローネは名前を抱き締めた。
自分で頼んだものの、見たくない光景だった。



「泣くな…助けるんだろ?」

メローネの言葉に、名前はしゃくりあげながら頷いた。




「どうすれば…皆を助ける事が出来る?」

名前の言葉に答えたのは、ずっと沈黙していた名前のスタンドだった。


「リレガーレノ意味ヲ説明シマスカ?」


瞬間、名前はリゾットの体をメローネに預けて走り出した。

走り出した名前は、リレガーレの意味に気づいていた。
そうあって欲しいと、何度も願っていた力が、自分の手に有ることを瞬時に理解していた。

そして、その為に必要なことも。



「何だお前」

突如現れた血塗れの女を、臆するでもなくいぶかしむのは、ボスの手で息絶えたレオーネ・アバッキオだった。

「自分のワガママで貴方の人生をねじ曲げる私を、許して下さい」


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