「名前、まだか?」

リゾットの言葉に、名前は慌てて部屋をあっちからこっちへとバタバタ走り回る。


「も、もう少し!!」


突然リゾットに「出掛けるから支度をしろ」と告げられ、名前は大慌てで自分の身支度と荷物の準備を始めた。
余りに突然だったのに、リゾットが自分の支度をほとんど終えて言うものだから、起き抜けの名前が「あこれも」と鞄に詰めるのが間に合わなくても仕方ない。


「リーダー、みんな支度出来たって」

「そうか」


へらへらと笑うメローネも、今日は街に馴染む姿をしていた。
リゾットも頭巾を被らず、タイトなTシャツに黒いパンツを合わせ、ジャケットを羽織っている。


「それで、みんなでどこに行くの?」

「どこに行くかも知らずにその荷物か?」


支度を終えた名前の荷物を見て、プロシュートが笑いを浮かべる。


「だって、リゾットがしばらく帰れないかもって言うし…」

皆で街に出かけて、その足でリゾットの任務に着いて行くように言われた。
何日帰れないのだろうと考えてつめた荷物は、大きなボストンバックをパンパンにさせていた。



「今日はオレが持ってやる」

重たい荷物を、プロシュートが軽々と持ち上げて、空いた方の手をスッと名前に差し出した。


「セニョリータ、お手を」

いつもと違うスーツをスマートに着こなすプロシュートが手を差し出して微笑むだけで、彼から醸し出される色気に名前の心臓が跳ねる。


「ど、どうしたの、皆…なんか優しすぎ!!」


恥ずかしがる名前の言葉を、プロシュートは笑って濁す。


「行こうぜ名前」

ペッシが名前の背を押して、名前はプロシュートの手にそっと手を乗せる。
名前が恥ずかしくて肩を竦めると、「ベネ」とプロシュートが笑った。

「最初はオレらだったな」
言葉の意味を考えるより早く、ペッシは名前がプロシュートに差し出した手と反対の手を取って歩く。
二人と手を繋いでチーム全員で歩く久々の外の空気に、名前は涙を浮かべて喜んだ。


暗殺チームが、ぞろぞろと全員で外に出るのは本当に久しぶりだった。

名前に至っては、外出そのものが久しぶりだった。


街に出て路上で売られる可愛い花の髪飾りに見とれる名前に、プロシュートが笑ってそれをプレゼントした。
髪にそれを飾ってやると、名前は幸せそうに笑う。
「似合うぜ」

プロシュートが困ったように笑ってそう言った。
その後、初めて見る大きさのフカフカなパンを見てお腹を鳴らすと、ペッシがそれを買ってくれた。

「美味いか?」

「うん!ディ・モールト美味しい!!」

メローネの口真似をする名前に、ペッシが「上手いうまい」と笑う。


「名前、オレの真似なんてディ・モールト嬉しいけど…喉も渇いたんじゃなーい?」

ペッシが買ってくれたパンを一緒に食べていると、それを見ていたメローネがそう言って名前の手を引いてカフェに入る。
プロシュートが持ってくれていた荷物は、いつの間にかギアッチョが持っていた。
ギアッチョはメローネとは逆側に立って、そっぽ向いたまま名前の手を握った。



「メローネ、私…お金ないよ?」

心配する名前に、メローネは笑って「知っている」と答えた。


「折角みんなで出掛けた記念に、オレがご馳走してやる!ベリッシモ珍しいから、有り難く頂戴しろよ?」

メローネはそう言ってウインクをすると、オシャレなラテアートが施されたカプチーノを名前に差し出した。
可愛いハートが描かれたそれを、名前は「勿体ない」と眺めて、たっぷり堪能してから飲み干した。
恥ずかしげもなくハートを頼むところが、メローネらしい。


「ドルチェもあるぜ?ジェラートが美味いって聞いたぜ」


名前は目を輝かせて、ギアッチョにオススメを聞く。
ギアッチョは自分の好みではなく、名前が好きそうなものを的確に選んだ。

すぐにイライラするくせに、本当に色々な人をよく見ているギアッチョに、名前は「やっぱりギアッチョは好い人だね」と笑う。
いつもは怒るギアッチョも、今日は怒らずに「チッ」と舌打ちをしただけだった。
カフェから出る時、メローネがレジで売っていたカラフルなチョコレートを買ってくれた。

「ありがとう!」


嬉しそうに笑う名前を、メローネは抱きしめた。

「名前…」

「ん?」


ギアッチョが「おい」とメローネに呼びかけると、メローネは「ドキッとした?」と茶化して離れた。


「往来で何やってんだバカ」

名前がホルマジオの声に振り返ると、ギアッチョはイルーゾォに名前の荷物を渡していた。


「名前、オレら仕事あるから行くな。気を付けて行けよ」

ギアッチョがハグで名前に挨拶を交わし、メローネも名前をもう一度抱き締めて手を振った。


「名前、オレらも行かなきゃなんねーんだ」

タバコを吹かしてカフェから名前達が出てくるのを待っていたプロシュートとペッシが、名前にそう告げてハグを交わす。


「全員が仕事なんて…何かあった?」

不安げに瞳を揺らす名前を、プロシュートは抱き締めて笑った。

「大丈夫だ」


名前がペッシへ視線を移すと、ペッシは真っ直ぐ名前を見返して頷いた。

「分かった」と強がる名前は、プロシュートとペッシに手を振った。



「リーダーが買い出しから戻るまで、オレらの番だな」

笑うホルマジオに手をひかれて、名前は反対の手をイルーゾォに差し出した。


三人で手を繋いで歩いている時、名前はパントマイムをする人を見た。

走る電車から飛び降りるパントマイムは、初めて見た。と言う名前に、ホルマジオとイルーゾォは顔を見合わせた。


「そりゃパントマイムじゃなくて…」

ホルマジオは何かを考えて「スタントだ」と笑っていた。
喧嘩だろうと思っても、今日はそういった騒ぎに関わりたくなかった。



イルーゾォとホルマジオに連れられて店に入ると、そこはオシャレなブティックだった。

「お、これ似合いそうだな。着てみてくれよ」

ホルマジオが、フワフワの綺麗なワンピースを手に取って名前に差し出す。

頼むように言われて断れず、名前は店員に促されるままに試着室へ入った。

こんな綺麗で高価な服が自分に合うのかと、名前は不安で気後れする。
素早く袖を通し、おずおずとカーテンから顔を出して「どう?変じゃない?」とイルーゾォとホルマジオに心配そうな顔を向ける。

馴れない格好が余程恥ずかしいのか、そう言って頬を染める名前に、イルーゾォとホルマジオは目を見開いて固まった。

「…ベネ」

「別人みたいだな」

イルーゾォが笑って靴を差しだし、可愛らしいそれを履いて鏡の前に立つと、名前が見知らぬ姿の自分がそこにいた。


「「決まりだな」」

イルーゾォとホルマジオは声を揃えて頷いて、店員に「これ全部くれ」と告げる。


「こんな高価な服貰えないよ!!」


試着する時に見えた金額は、自分が手にしたことのない金額だった。


「いいんだよ、みんなに頼まれてたからな」


イルーゾォが笑って名前の手を取る。

「何で…」


名前は不安で体を強ばらし、その手は緊張と不安で冷たくなっていた。


「名前」

イルーゾォは手を引いて名前を抱き締めた。

「名前、大丈夫だ。何があっても」


不安気に震える名前の手を引いてイルーゾォが店の扉を開くと、そこにはリゾットが立っていた。


「名前、風邪ひくなよ」

ホルマジオは、髪飾りをくれた時のプロシュートのように眉を寄せて笑った。


「ホルマジオ…」

名前が伸ばした手は、リゾットが名前の手を引いて歩き始めたために、ホルマジオに届かなかった。


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