「ソルベとジェラートはまだ帰らないのか?」
リゾットは食事をとるメンバーを見て、そう言うなり眉間にシワを寄せた。
「二人して何やってんだ」とぼやくリゾットに、メローネが「ナニやってんだろ。誰かと同じで…」と拗ねて、食卓でメタリカと血の惨劇が繰り広げられる。
「変な言いがかりは止めろと言ったはずだ」
名前の隣で眠ってしまったのを目撃されて以来、メローネが事あるごとにその話を持ち出してきて煩わしい。
他のメンバーも本当はどうだったのかと気にはするものの、リゾットの怒りを買うだけなのが目に見えているだけに口には出来ない。
「あぁ!!またメタリカした!?」
自分のパスタを皿に盛った名前が、血塗れの食卓テーブルを見て悲鳴をあげる。
「……っ誰が掃除すると「メローネだろ」
わなわなと怒りを露にする名前にリゾットが即答すると、「ならいい」と頷いてしまうあたり、悲しいが名前はかなり暗殺チームに馴染んでしまったと言える。
とは言うものの、かなりの頻度で繰り返されるメローネのメタリカに馴れるなと言うのも難しい話ではある。
「とは言え…悲しいぜ、バンビーナ」
プロシュートの呟きに、素知らぬ顔のリゾットを除くメンバー全員が大きく頷いた。
「名前、またジェラートとソルベのも作ったのか?」
「おかわり」と勇んでキッチンへ入ったイルーゾォが、山盛りにパスタをのせて出てきた。
細い身体のどこにそれが入るのだろうか。
「うん…」
しょんぼり頷く名前に、「ボスに殺られたんじゃ?」とは誰も言えない。
少し前から二人はボスの事を嗅ぎ回っていたし、そのことをメンバーも知っていた。
「まだ任務終わらないのかな」
「……遠方だったからな」
リゾットが重ねる嘘に、名前は疑いもせず頷く。
二人が姿を消して、早くも5日が経過していた。
「ジェラートが見つかった」
メローネは言葉少なくジェラートの死をリゾットに伝えた。
リゾットは部屋から慌てて出ると、急いで扉を閉めた。
改めてメローネに向き直り、「それで?」と続きを促す。
「それと、これが…」
『罰』と書かれた紙を、メローネから受け取ったリゾットは怒りが沸き上がるのを感じていた。
「何処で見つかったんだ?」
リゾットの言葉に、メローネは珍しく顔をしかめた。
「この家のソファーだ」
グッと唇を噛むメローネへ、リゾットは言葉を返す事が出来なかった。
(ジェラートが死体で、この家で見つかった!?)
家には名前を見張る為、2人は確実に家にいる。
暗殺者である2人に見つからず、大人の男の死体を運び込めるのだろうか。
「見つけたのはオレとギアッチョだ。名前じゃなくて良かった…。今他の奴らがジェラートの部屋に運んでるぜ」
メローネの言葉にリゾットは無言で頷いて、部屋を振り返った。
今日は、名前は自室を掃除していたのが幸いした。
何も知らない名前は、鼻歌を歌いながら部屋を掃除していた。
「ソルベは…」
その言葉に、メローネは無言で首を振った。
しかし、次の事件は直ぐに起きた。
「宅配便です」
ギアッチョは自分の耳を疑った。
この家に住んで、未だかつて宅配便がきた事などない。
暗殺者が宅配を頼んだり、他人に住所を気軽に教えるなんてあり得ない。
むしろここの住人は、誰もこの家の住所を覚えていないんじゃないだろうかとすら思える。
そんな家に…
「宅配便だと!?」
雑なサインで宅配便の男を追い返して、四角い荷物を部屋に運び込んだ。
ーいつもと違う事は、自分の部屋ですること。
ジェラートの件から、何かあっても名前の目に入らない様に皆で決めたルールだ。
「…?何だこりゃ」
包みを開いて出てきたのは、四角い額縁に入った謎の物体だった。
1人で見ても分からず、部屋から出てカプチーノを飲むメローネを見つけて部屋に戻った。
「何だこりゃ…」
ギアッチョと全く同じ反応をメローネがした時…。
「宅配便です」
「はーい」
新たな荷物が届き、名前が受けとる気配にギアッチョとメローネは慌てて部屋を飛び出した。
リゾットと並んで荷物を受け取る名前から、ギアッチョが荷物を奪い取る。
「触るな!こ、これオレのだ!!」
「うわっ…ご、ごめん」
ギアッチョの行動に驚く名前の隣で、リゾットは険しい表情を浮かべた。
ギアッチョの奇行が、その荷物の異常さを暗に示している事に気づいたのだ。
「ごめんね、名前。女性には刺激が強いからさ」
ニンマリと怪しい笑みを浮かべるメローネを見て、名前は怪訝な表情を消して唇を尖らせた。
「メローネ、また変なものを部屋に転がさないでね。掃除してあげないよ」
一体メローネの部屋で何を見たのか気になる所ではあるが、荷物の開封が先だ。
たまたま帰宅したホルマジオも連れたって、メローネはギアッチョの私室に籠った。
その後、次々と運び困れた荷物を全て開封したホルマジオ達は、その余りに残酷な光景に絶句した。
「リーダーを呼んでこい…」
その後その荷物を見たリゾットの指示で、名前が風呂に入ったのを見計らって全員が集められた。
そして、全員がその荷物の正体に愕然とした。
輪切りにされたソルベのホルマリン漬けが、そこにはあった。
しかもただの輪切りではない、ソルベは生きたまま足から輪切りにされたのだろう。苦悶の表情で絶命している。
「あり得ない…」
「無理だろ、ボスを殺るなんて…」
ペッシに続いてイルーゾォがガクガクと震えて膝を着いた。
ギアッチョは唇が切れる程に歯を食いしばって、顔を真っ青にしていた。
2人だってスタンド使いなのだ。
そんな彼らが意図も容易く捕らえられ、殺されたのだ。
無理もない反応だった。
「…リゾット、そろそろ部屋に戻らねぇと」
僅かに青い顔でプロシュートがそう言ってリゾットを見やると、リゾットはただでさえ白い肌をさらに白くさせたまま「…あぁ」と短く答えた。
(オレ達はもう逃げられない)
誰もがハッキリとそう感じていた。
だからこそ、全員はただ一人の無事を望んだ。
「頃合いを見て…名前を解放しよう」
誰からともなく話が出て、反対する者がいるはずもなかった。
首輪付きの闇に、光は捕らえられない。