「あれ、リーダーは?」
共同スペースに顔を出したイルーゾォは、ホルマジオに声をかける。
この時間、いつもならリゾットは椅子に座って新聞を見ているはずだ。
「そう言えば知らねぇな…お前ちょっと部屋を見てこいよ」
「またオレの能力をバカみたいな事に使わせる気か!?」
ホルマジオが鏡を差した事で、イルーゾォはムッと口を曲げる。
「ホルマジオが小さくなって見に行けばいいだろ?」
眉をピクピクさせて言うイルーゾォに、「言うようになったじゃねーか」とホルマジオは立ち上がった。
「リゾットに気づかれないように、先に見つけた方が勝ちだ。いいな?」
イルーゾォの襟元を掴んで低く言うホルマジオの手を払いのけ、イルーゾォは「負けて吠え面かくなよ?」と不適な笑みを浮かべる。
「チッ……気づかれずに近づいて、どちらかがリゾットの肩を叩いたら終わりだ。まぁオレだろうがな…」
「言ってろ」
二人が同時にスタンドを出現させ、イルーゾォは鏡の中へ駆け込み、ホルマジオは音を立てないように名前とリゾットの部屋へ向かった。
「………困った」
リゾットはベッドに腰かけたまま動けずにいた。
隣では名前が気持ち良さそうに眠っている。
「………」
ジッと名前を見つめ、顔にかかった髪を起こさないように後ろへ払う。
くすぐったかったのか肩を竦めて微笑む名前に、リゾットは僅かに頬を赤らめた。
昨晩、手を繋ぐのが好きだと笑う名前の手を取り、色々な話をした。
主に名前がここに来てからの話だったが、名前は本当に楽し気に話していた。
(拘束していたはずだったんだが…)
怯えて震えろとは言わないが、もう少し違う反応をするのが普通だと苦笑して名前の話を聞いていたリゾットは、目を擦りながら話を続ける名前に「眠いなら寝ろ」と告げた。
「うん」と言いつつも手を離そうとしない名前に、リゾットが「眠るまでここに居る」と言うとまるで子どものように満面の笑みを浮かべて頷いた。
「お休み」
今度こそハグを交わして横になる名前は、しっかりリゾットの手を握って眠った。
そうして朝を迎えたのは、リゾットが手を離そうとしても名前が手を離さないから…ただそれだけである。
座ってウトウトし、寒くなって目を覚ます。
名前の手を離そうとし、起こしてしまいそうで諦める。
これを数回繰り返して朝を迎えたリゾットは、完全に寝不足だった。
起こしてでも離してもよかったのだが、リゾットもそこまでしてこの手を離したいと思わなかった。
「オレはバカか…」
それでも、それすらも悪くないと思ってしまう。
今まで暗殺を繰り返す度に抜け落ちた大切なものが満たされ、死んでいた自分が息を吹き返すように感じられていた。
起こさないようにそっと体をベッドの端に横たえ、名前の額にソッと唇を寄せた。
「お休み…名前」
もう限界だと訴える眠気にあがらう事もせず、落ちてくる瞼に従ってリゾットは眠りに落ちた。
そのギリギリまで、名前が幸せそうに眠るのを見つめたまま。
「おい、声をかけるんじゃねーのかよ」
ベッド際に立つホルマジオが、隣に立ち竦むイルーゾォにヒソヒソと話しかけた。
「……無理だろ」
まさかこんな事になっているとは露ほども思わなかった二人が、ベッドで眠るリゾットを見下ろす。
眠っているとは言え、隣に立たれても起きないリゾットは暗殺者としていかがなものか…。
そんな彼の手は名前の手を握りしめ、もう片側の手は名前の腰に回されていた。
身体こそ寄り添っては居ないものの、これではまるで恋人同士だ。
「この二人いつの間にデキたの?」
不意に背後から聞こえた声に振り返ると、メローネがワナワナと震えている。
ホルマジオから送られたアイコンタクトに、イルーゾォは頷き返す。
「出せよ!!」
「うるさい。許可しない」
メローネは鏡から見える二人を指差して必死に訴えるが、イルーゾォはただ眉を寄せてため息をつくだけで取り合う様子はない。
仕方ないとホルマジオを振り返っても、肩を竦めるだけだ。
「しょーがねぇな、メローネ。お前二人を起こすだろ?」
「起こさねぇよ!!むしろ間で寝てみたい」
「「変態か」」
ウフフとハシャイで鏡から二人を見つめるメローネを眺め、二人は別の鏡からリゾットの部屋を出た。
再び共同スペースへと戻ってソファーに腰掛け、リゾットが目を覚ますのを待つことにした。
「出してくれよー!!」
メローネの声が、鏡の世界に空しく響いていた。