※キャラの何人かが女装です。(あくまでギャグ小説です)
苦手な方はご注意下さい。










「イルーゾォ!早くしないと置いていくぞ!?」

「もういっそ置いていってほしい……」

「え?イルーゾォ行かないの?」


張り切るリゾットに後ろ向きな答えを返したイルーゾォは、寂しげに眉を寄せる名前の言葉にため息をついて立ち上がった。
表情をころころ変えるだけで人間を動かしてしまうのは、名前の特殊能力だと言われた方がかえってスッキリしそうだ。それくらいチームの誰もが彼女の表情の豊かさに捕らわれている。
いや、無邪気さのなせる技か?
DIOがスタンド能力を名前が無意識に垂れ流しているのだと言っていたが、確かにチーム内には名前を傷付けないよう常に気にかけている傾向がある。
ただ、嫌な気は誰もしていない範囲なので、それを誰も気に留めない。



「姉貴、イルーゾォも行くって!」

「今度その呼び方してみろ、いくらオメーでもぶっ飛ばすからな…」

「何よ、これはルールよ!?」


今にも「ヒャッホーーー!!」と声を上げて走り出しそうなほどテンションの高い名前は、一晩ウズウズしながら過ごしたホテルを元気よく飛び出した。
その後ろを歩くのは、酷く怒り狂った様子のプロシュートと、落ち込んだ暗い顔のイルーゾォである。
プロシュートに関して言えば相当機嫌が悪いのだが、名前は物怖じせずに笑いかける。


「私はお姉ちゃんが出来たみたいで嬉しいのよ」

「…それで機嫌とられて堪るかってんだ」


「往生際が悪いぜ?プロシュート。
姉貴ポジション引いちゃったのはプロシュートでしょ?」

「うるせーよ、変態メローネ。
テメーはDIO様直々に妹役授かったくせによぉ!」


「生足ミニスカにしてみました」


キュルンとウインクして見せたメローネは、短いプリーツスカートの端を小さく摘んだ。
気持ち悪いことこの上ないが、この格好でまともにナンパできない。
それがDIOとジョルノの狙いだろう。
確かに女装しているのではナンパなんか出来ない。
……彼の感覚が普通ならな。



「日本人として名前の意見を聞かせてくれよ。
なんてナンパされたら、一夜のアバンチュールを過ごしたくなる?」

真に往生際が悪いのはメローネである。



「テメーの格好見て喋れよな…クソが」


イライラと眉間のシワを深めるギアッチョは、唯一いつもと同じような格好をしている。
ラフなTシャツにダークカラーのパンツを合わせ、足元もスニーカーだ。
自分自身の格好に文句はないが、現状に文句があることはその眉間の渓谷の深さにありありと表れている。


「メローネ、ナンパなんて許さないからな!?」

「えぇ!?ケチケチするなよリーダー!!」



キッとメローネを睨んだリゾットも、平時よりテンションが浮ついている。
キリッと引き締めている表情がわざとらしくてどうしよう。
そんなリゾットは渋めの色のパンツに白いシャツを合わせている。
背負っているリュックサックはまだしも、いつも黒い服(?)を着ているせいで、白いシャツに違和感が激しい。
というか、まさかのリュックサックチョイスにプロシュートとジェラートは目を細めて頭を押えた。
そんなリゾットはそんな二人には目もくれず、ススッと音もなく名前の前に立ち、そっと肩を抱く。


「名前。後でこっそり二人で抜け出そう」

「え…そ、そんな……」


いつもなら笑ってリゾットをかわす名前が今日はポッと頬を染めた。
常から考えればあり得ないことである。
そんな様子に目を剥いたのは、昨日いっそ清々しいほどアッサリとアプローチをかわされたメローネだ。
自分のアプローチを何の躊躇も疑いもなくバッサリ切り捨てた名前が頬を染めているのだ。
甘い言葉一つも言わない、無骨で不器用なリゾットに。


「リゾット、テメーも落ち着けよ。しょーがねぇなー」


暴走しそうなリゾットを止めるのは、いつだってどこでだってホルマジオを置いて他にいない。
特に、今日のプロシュートは姉貴ポジションであるが故。
サンダルをペタペタ鳴らして歩くホルマジオは、ゆったりしたシャツを被って膝丈のパンツを穿いている。
季節的にも見た感じにもバカンスを満喫する普通の男に仕上がっていた。



「残念。オヘソがセクシーで、かつフワフワの袖が可愛かったのに……なんだかフツーになっちゃったな」

「名前、ホルマジオのへそがセクシーとか止めて。いいおっさんだぞ」

「ばーか、男は歳を重ねて色気を増すんだよ」

「色気??感じねぇなぁ」



ジェラートのツッコミに振り向くと、いつも通りジェラートとソルベが連れたって眉を寄せていた。
ソルベとジェラートは珍しく襟付きのシャツを大きく開襟している。
黒いタンクトップに合わせた柄シャツも珍しい。
いつも通り肩を組んで歩くとうっとおしい賑々しい柄だが、そうしていると普通のホモカップルだ。
とてもイタリアーノの暗殺者には見えない。


「しっかし、この設定。かなりの無理を感じるな」

「だな、まさかの“修学旅行を装え”だもんな」


説明しよう!!
DIOがリゾットチームに課したルール。それは、日本に集団で来ていてもおかしくない団体を装えというもの。
リゾットとホルマジオを引率者として、男と女をバランスよくグループにすることで、彼らは修学旅行中の集団を装っているのだ!!!!!



「名前、後で先生とあの店に行こう」

「リゾット先生…だめです、皆にばれちゃうわ」

「先生、私の名前に何か用ですか?」

赤くなってリゾットの誘いを断る名前背後から、“私の”と語気を強めて乱入したのはメローネである。
さっきまでのご機嫌な笑顔は為りを潜め、その双眸はリゾットをきつく睨みつけていた。


「ぁ……いや、大した用ではないんだ」

「先生、まさか旅行に浮かれて生徒に手を出したりしないですよね?」

「そんなつもりじゃ…別に、浮かれてなんか…」

「どもるなんて、あやしぃー…」

「メローネ、先生がそんなことするはずないでしょ?早くいこ?」



そんなわけで、設定を利用した茶番劇が盛り上がりを見せているわけである。
メローネを無理やり引っ張ってリゾットから離れた名前は、リゾットを振り返って声には出さずに「ごめんね」と謝った。
完璧主義なまでに作りこまれてはいるが、完全アドリブの茶番である。
重ねて言おう。


旅行にはしゃぎすぎた大人たちの、茶番である。


この状態の中、冷静に冷ややかな視線を送るのはイルーゾォとプロシュート。そしてペッシだ。
くじで配役を決めたにも関わらず、狙ったように再び女装させられているプロシュート兄貴は眉を寄せて長く鬱陶しいスカートを握り締めた。


「おかしいだろ。修学旅行ってのはそもそも、同学年で行くもんだろうが…。
どうして姉貴ポジションと妹ポジションが用意されてるんだ?」

「修学旅行の事はわからねぇですが…
どうなんすかねー…。でも、間違いなくくじは公平にひきましたぜ?」

「そうだよなぁ。あれに仕掛けはなかった。ただの普通の紙切れ…。
だが、もし狙ったものを引かせる事が出来るとしたら…??
ひいたくじを、オレ達の誰にも気付かせずに入れ替える事が出来たら???」


ペッシと一緒に顎に手を添えて唸るプロシュートを眺め、イルーゾォは自分の服装を眺めてため息をついた。
膝下までの丈のスカートが頼りなく、仕方なく履いた黒いレギンスが暑苦しい。
風が吹くたびに揺れるスカートは、プロシュートが言う通り仕組まれていた結果だとしても、それはDIOとジョルノがイルーゾォを選んで故意に女役に抜擢したという認めたくない結果に繋がる。
それはくじ運が悪かったというよりも悲しいことに思えて仕方ないのだが、プロシュートにはそこに考えが至らないようだ。
それほどくじの結果を認めたくないのだろう。


「オレ。イタリアに帰ったらもっと体ムキムキに鍛えるわ…」

「ん?イルーゾォにしてはやる気だな?」

「ホルマジオみたいにごつい顔だったら良かったのに」

「あれ。それって、ほめてねーよなぁ??」


かくして暗殺チームの奇妙な修学旅行が、今回も騒々しく幕を開けた。


/



26


- ナノ -