「で、任務って何ですか?」

出先に降り立った名前は、今にも走り出しそうな勢いでDIOを振り返った。輝かしい満面の笑みで笑う名前は珍しく少し明るい色の服を着ている。
旅行のために新調したものだ。
ジョルノには大変嫌そうな顔をされたが、先日の食事会の任務で使ったドレスを売って手に入れた一張羅だった。
新しい服を着て、その姿で早くどこかに出かけたくて仕方ない。


「そう急ぐな。私は一応ついて来ただけだ。お前達が任務の要なのだから、そう勢いで行動されては困るのぞ」


夜の大地にプライベートジェットで降り立ったDIOは、美しく月光に照らし出されて微笑む。
その妖艶さに息をのみながら、リゾットチームはDIOの言葉に耳を疑った。
今、何と仰いましたか??
訪ねようと思っても、喉が張り付いて声にならない。
パクパクと口を動かす名前を眺め、DIOはフフッと笑みをこぼした。


「私は観光。お前達は任務だと言ったのだ」

「あ…あんまりだぁぁ…」


激高するにも力が出ない。
怒りよりも絶望が名前を支配していた。


「う…嘘だろ。オレ、楽しみにしてたのに!!」

「メローネ、お前が楽しみにしてたのは女だろう?」

「どこに行っても女にしか興味ないもんな」

「今回は特別気になってたんだよ!!!」


まぁそれは分からないでもない。
ここの国の女性は、こと外国において人気が高い。
控えめでお淑やか。かつこの国は治安も良い。
そう…ここは………。




「だって“ジャッポーネ”だよ!?」




そう、ここは“日本”。
最早半泣きになったメローネはなおも地団太を踏みながらプロシュートに食いつく。


「日本人口説きたかった!!大和撫子っ!!」

「がっかりしているお前を喜ばせるのは癪に障るが、仕事は明日の夜だ」

「名前!!リゾット!!ちょっと出掛けてくるわ」

「「「「「「「「お前を一人にしたりしない」」」」」」」」


全員の意見が一致した。
ペッシまでもが思わず口を突いてでたようにそう言い、メローネにジロリと睨まれて慌てて口を塞いだ。
もう遅いけどね。


「その台詞、死に際に言われたら感動するけど…オレ達いい大人だぜ?夜の遊びに仲間でゾロゾロ行くわけねーだろ?」

「黙れ変態」

「ギアッチョ、そんなんじゃメローネを説得は出来ないわよ?」


名前はニッコリ笑ってメローネを見つめ、ツカツカと歩み寄る。
その様子に戸惑うメローネも、名前が目の前で立ち止まる様子を見守った。


「メローネ」

「な…なんだい?」

「誰が…“良い”大人なの?暗殺者のメローネさん?」


つまりここには良い大人なんて存在しないわけでありまして。
ニッコリ無邪気な笑みを浮かべる名前に、メローネはただ口をもぐもぐさせることしか出来ない。


「私、皆と遊ぶの楽しみにしてたんだーーー!!!」


どこに行っても仲間至上主義で、嬉しいような悲しいような…。
うきうきとはしゃぐ名前に、メンバーの誰もが何とも言えない表情を浮かべる。
嬉しいような、悲しいような。



「名前がオレの彼女になってくれるなら問題ないんだがなぁ」
「やだメローネ、寝言は寝てから言ってよね!」


バシンと叩かれてうなだれるメローネに、DIOはちょっと眉を寄せて「あそこまでいくと感心するしかないな」と呟いた。
メローネが本気で言っているとも思い難いが、名前はDIO以上に本気にしていない。
カラカラと豪快に笑い飛ばして、「そんなこと言ってご機嫌とらなくても、ちゃんとメローネとも一緒に遊ぶつもりだよ」なんて言うもんだから、メンバーを振り切ってナンパに出かけることも出来やしない。


「名前、あんまりテンション上げて、変な所に走っていったり他人にご迷惑をおかけしたりしないようにしろよ?」


諦めたようにタバコをふかすプロシュートがそう言いつけると、名前は頬をプゥと膨らませて子ども扱いを嫌がる。
誰がどこからどう見ても、その反応こそが子ども扱いされる所以なのだが、本人は気がつかないらしい。
もちろんチームのメンバーがそれを指摘するはずもない。


「ところで」


成り行きをニヤニヤと見守っていたDIOが、テレンスから何やら書類のようなものを受け取ると、一言で集まった視線に口の端を吊り上げて向き合う。
夜の風がバタバタとその書類を煽る音だけが響く。
緊張感が漂い、つばを飲み込む音すら耳障りだ。


「今回の旅行では、私とジョルノが決めたルールに従ってもらう」


ルールの後出しなんて、ジャンケンの後出しの百倍はずるいと思う!!
むっとしたメンバーを片手で制し、リゾットが「断る権利は?」と短く問うと、DIOは実に楽しげに笑みを浮かべて「フフ」と笑った。


いや、正直に言おう。
とても美しい!!

この世のものとは思えぬ(まあ人間ではないのだけれど)妖艶な笑みを浮かべ、白磁のように白く美しい肌や月の光に煌めく金糸のような髪。
何よりも闇にも輝くような…人を惹きつけ、魅了し、骨の髄から従えてしまうような、暗殺を生業とするそこにいる誰よりも深い闇を捕らえているような赤い瞳。

全てを預けてしまいたくなるような感覚に襲われさえするその瞳に囚われ、名前はゴクリと喉を鳴らしてリゾットを見た。



「もちろん断る権利はあるにはある」

「…あいまいだな」

「旅費を払うことが条件だそうだ」

「ルールの説明を頼む」


DIO様。
それは断ることは不可能って奴だぜ。

メンバーは今回の旅行こそ修学旅行だと考えを改め、日頃の行いに対する見直しを心に誓った。
賢さが1上がった。


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