「チャオ」

「「チャオ」」



名前は身だしなみを整えて、仲良くソファーで寄り添うソルベとジェラートと挨拶を交わす。

軽くハグをして頬を寄せる挨拶くらいなら、メローネ以外の誰とでも出来る程度には打ち解けた。
(これは決してメローネと打ち解けてないわけではなく、メローネがハグをするといつまでも名前を解放しない為に、リゾットに禁止されただけである)



「昨日は掃除ご苦労様」

「あんなに綺麗な廊下初めて見たぜ」


絶賛するジェラートに気を良くした名前は、フフンと得意気に笑った。

「結局ホルマジオとイルーゾォも手伝ってくれたんだけどね、かなり気持ちよくなったでしょ?」


名前も自分の仕事の出来栄えに満足気に頷いて、ソルベとジェラートに同意を求める。
「本当はリゾットに褒められたかったんだけどね」と唇を尖らせて呟いた名前に、ソルベは目を丸くした。


「驚いたぜ…名前、そうだったのか」

「いや、リゾットは確かに良い男だぜ、マジで…」


二人が何を言っているのか理解出来ず、名前は首を傾げる。


「リゾットに恋してるんでしょ?」

「………恋?」



名前は眉間にシワを寄せて聞き返した。



「分かんない。でも、仕事くれたのはリゾットだから、リゾットに認められたら合格って感じでしょ?」


焦りもせず、照れるわけでもない名前に、ジェラートは再び目を丸くした。





「……名前、好きな人いたことある?」

「ジェラート…仮にも成人してる人間に、それは失礼だろ」

ソルベのツッコミを、ジェラートは片手で制して「どう?」と名前に詰め寄る。


「失礼だな」

「ホラな」


「皆の事だって、ちゃんと好きだし!」

「「!!!!!!?」」



恋愛などとは絶縁状態で生活させられてきた名前には、恋情が分からない。

「恋をしてみたい」だとか、「いつか王子様みたいな人と」と言う、恋に恋をする痛い乙女のような妄想が名前の精一杯だった。
イメージしていた王子様からは程遠いリゾットに、自分が恋をしているのかと言われても分からない。


ただ分かるのは、「皆が好き」だという気持ちだけだった。



「やっぱり…」


ジェラートはソルベに、「ほらな」と得意げな視線で語る。
ソルベは信じられないと固まったまま名前を凝視していた。


「名前、いつか…自分の気持ちに収集が着かなくなって苦しくなったら、いつでもオレに相談してきな」

ジェラートの意味深な言葉に名前は首を傾げたが、真剣な表情のジェラートにただ素直に頷いた。


「みんな名前が可愛くて仕方ないみたいだから、ちょっかい出されねーよぅに気を付けろよ?」


ニヤニヤとソルベがそう言うと、「そんな訳ない」と名前は首を横に振った。

「私は監視されてるだけだよ」

それは紛れもない真実。
現に名前はメンバーと楽しく過ごす度…心を許す度にそう自分に言い聞かせていた。
ただ、それでも隠し事ができない性分だから、名前はいつも自分の気持ちに正直でいた。


「あー……あのな名前。変な話だが、例えばオレらが闇ならお前は光だ」


名前がきょとんと黙って自分を見るのを待って、ソルベは続ける。


「汚い事もする自分達に、真っ直ぐ笑いかける名前に、オレらは救われるんだぜ?
光に照らされりゃ、闇は小さくなる」


まだ何かを言い返そうとする名前の言葉を、ジェラートは「まぁそう言う事!よしっ、今日の仕事は?」と立ち上がって止めた。


「今日は洗濯をするよ。良い天気だから」


いまいち釈然としないが、「これでこの話は終わり」と言外に言われては仕方ない。

気持ちを切り替えて、名前は立ち上がった。

「皆の分も、ベッドのシーツ洗おう!!」



ソルベがベッドから剥ぎ取って持ってきた全員分のシーツを、普段クリーニングを使う為にあまり出番のない洗濯機に詰め込んで洗う。
糊を使うべきか考えて、名前の好みで使わない事にした。

洗濯機を回す間に、自分のと(勝手にやっていいかちょっと悩んだが)リゾットの布団を干した。


太陽の下で、二枚の布団をバシバシと叩く。
太陽の匂いに混じって、リゾットの匂いがする。
名前はリゾットの匂いに、何故か少し緊張した。



「ふーん、オレも干そうかな…」

布団を叩く名前を後ろから眺めてソルベが呟くと、ジェラートが「オレのもよろしく」とはにかんだ。
なるほどジェラートがソルベに向ける顔は、皆にむける顔と少し違って見える。

しぶしぶ立ち上がるソルベも、ジェラートには特に優しいように見える。



「あいつらデキてるんだぜ」と耳打ちしてきたメローネの言葉を思い出す。
「デキてる」の意味を聞いたら、恋人同士だと答えが返ってきた。

皆と居る時と異なる穏やかな空気が、幸せそうに見えて羨ましい。


「何だかいいね」


笑う名前に、ソルベとジェラートは「何が?」と声を合わす。

「仲が良くて羨ましい」


そう言えば、二人のように四六時中一緒に居たり、計らずも声を合わせたりするような誰かが居たことがない。
名前は初めて、それを寂しいと思った。




























「名前、シーツ洗ってくれたのか!?グラッツェ!!」

畳まれたシーツを嬉しそうに抱えたイルーゾォが、夕食の為に客間に飛び込む。


ードンッ


扉のすぐ側に立っていたペッシにぶつかって、洗い立てのシーツを落としかけてイルーゾォは慌てた。
その瞬間、視界に映った光景にイルーゾォは無言で立ち尽くした。

よく見るとペッシもイルーゾォが見ている方向を見て固まっている。
その隣にプロシュート、反対隣にはギアッチョも固まっていた。


「おい、ここで立ち止まるな。入り口…」

リゾットがイルーゾォの後ろから部屋を覗いて同様に固まる。


「何だ、あれは…」


立ち竦む皆の目前には、ソファーに座ってうたた寝をするソルベとジェラート。

そして、その間で二人に手を握られて幸せそうに眠る名前が居た。





「あれ、どーゆうこと?」

リゾットの後ろで、メローネが恐る恐る指を差す。


「おぉ、珍しい光景が…」


ホルマジオの反応が一番軽い。


「名前の寝顔、ベリッシモ可愛い」

若干着眼点が変わったメローネの発言に、最初に固まっていたプロシュートがようやく口を開いた。

「メローネ、名前に近づくなよ」

リゾットを押し退けて部屋に入ろうとするメローネを、リゾットが反射的にガッチリ捕まえる。


「ソルベとジェラートが間に人を挟むなんて…」

「つーか、何で寝てんだよ」


驚きを隠せないペッシの横で、ギアッチョがギリギリと苛立ちを見せる。




夕日に赤く染まっていく部屋の入り口で、7人は名前が目を覚ますまで立ち尽くしていた。


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