少年はぼんやりと外を眺めていた。
見知らぬ女が言うには、自分は大怪我をして海から引き上げられたのだと言う。
恐らく、遊んでいる間に落ちたのだろう。
少年の気に入りの場所は確かに崖が近かったから、そこから落ちたのだろうと思った。
痛みに腹を押さえて見れば、落下する際に突き刺さったらしい木片でついた傷から血が滲んでいた。

(赤いな…)

テレビでは、エイリアンの血液は緑だと言っていた。
少年は緑よりも黄色なんじゃないかと考える。
宇宙には酸素がないのだから、酸素を運ぶ組織も必要ない。だから、黄色の血液なのではないか、と、そう推測していた。
まぁどちらにせよ、赤い血が流れる自分はエイリアンではないらしい。


「貴方、何歳?」

電話を片手に問い掛ける女に、少年は「15歳」と答えた。
何の話をしているのかは分からなかったが、少年は窓から外を眺めて、早く帰りたいと考えていた。
お気に入りの場所で、誰の干渉も受けずに考え事をしたかった。









「ジョルノの命令だし、名前の為だから」

「グラッツェ、充分だ」

「さっさと始めっぞ」

ジョルノからの指示で、リゾットを欠いたリゾットチームとナランチャとアバッキオは、アジトから歩いて50分くらいの地点に来ていた。


「この中で途切れたの」

名前につられて、一同はその先を睨んだ。
リゾットが消息を絶ったその場所は、街から少し外れた火山の麓。
先日は湿っていた泥が乾き、代わりに空気が湿度を増してじっとりと息苦しい。


「名前、足元気をつけろよ」

「うん」

イルーゾォの手をとって、名前はしっかりと頷いた。
昨日のパニック状態からは大分立ち直った名前を振り替えながら、プロシュートはタバコを噛み潰して鬱蒼と生えた木々を睨んだ。


「あちぃ…」

じめじめした空気が纏わりついて、髪も服もベタベタする。
ここが任務地からアジトへの最短ルートだと言うことは分かるが、自分だったらこんな所通りたくない。


(それだけ早く帰りたかったっつーことか)


呆れるほど名前にベッタリで、いい加減ちょっと文句を言いたくもなる。
何にしても、取りあえず本人を探すより他ないのだ。


「多分この辺り」

「OK、それじゃあ俺だな」

アバッキオが名前の隣に並び、「ムーディーブルース」の声と共にスタンドが発現する。
前もって聞き出していたジョルノからの証言を元に、リゾットが通った時間に辺りをつけて遡る。
余裕を見て、アバッキオは予想時間より少し早めの時間からさかのぼり始めた。
ムーディーブルースの額のタイマーが、カシャンカシャンと音を立てるのを、一同は固唾を飲んで見守る。


「お…おい、これは…」

ムーディーブルースが変換した姿を見て、名前は瞠目した。
頭の芯から揺さぶられるような、そんな気分だった。









「坊や、何してるの?」

「鏡はないのか?」

「あぁ、割っちゃったのよ」

少年は首を傾げた。
女の家の、どこにも鏡がない。
女性宅に鏡がないなんて、聞いたことがない。


「そろそろ帰りたいんだけど」

「ダメよ。大人が迎えに来るまで帰らせられないわ。今警察に連絡してるから」


少年はソファーに腰掛け、当分帰ることは出来そうにないと思った。
自分を迎えにくる大人が居るとは、何故か全く思えなかった。
もう少し傷が治ったら、勝手に逃走しよう。
少年は外を眺めて、ぼんやりそう事を考えた。


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