名前が不安に満ちた顔で振り返り、メンバーはグッと頷いた。
ジョルノがリゾットのチーム(主に名前)に課した指令は、今回こそは失敗が許されないらしい。
今までが失敗続きなだけに、名前は今にも泣きそうな顔でもう一度振り返る。

「あぁ…、名前のあの顔、犯罪だよね」

うっとりと頬に手を当てるメローネに、プロシュートとギアッチョが冷ややかな視線を向ける。

「いや、お前の方が犯罪顔だから…」

ちげーねぇ。
イルーゾォが呟き、ソルベとジェラートが頷きながら名前とメローネの間に立ちふさがった。
リゾットが居たら、より面倒な事になったに違いない。
それでなくとも、背中が大胆に開いたドレスを着せられた名前をメローネから防衛し、リゾットが怒り狂うのを諫めるのでメンバーはまだ任務開始前の現在すでにヘトヘトだった。


「何かあってもオレらがフォローしてやるから、胸張っていけ」

「あ、あ…兄貴ぃぃい!!!」

「泣くな、メイク崩れる!」


最早、末っ子の入学式を見守る父兄の気分である。
震える名前の前の扉を、イルーゾォとホルマジオが開く。
明るい廊下よりも更に明るい(と言うか、既に“眩しい”の領域)部屋へ、名前がグッと口元を力ませて入っていく様子を、なんちゃって父兄は片手を拳にして見守った。


「さて、オレらも準備だ」

「遅れるとテレンスにど突かれっぞ」

既に遅れているので、十中八九ど突かれるのだが、その辺りは生贄に差し出しておいたリゾットが上手く解消してくれている…と願いたい。
末っ子と称される名前が頑張っている部屋をチラリと振り返り、プロシュートはキッチンへと急いだ。







「あの、名前と申します。その…今日はよ…よろしくお願いします」


ししどろもどろに挨拶する名前は、来賓に強張った笑顔を向けた。
挨拶の練習を申し出たのに、ジョルノとDIOに「必要ない」と切り捨てられたのだ。
何か考えがあっての事らしいが、当の当事者である名前は全くの蚊帳の外で何の説明も受けていない。


「すみません、せっかくお招きしたのにむさ苦しい男ばかりではつまらないかと思い、ウチの紅一点を呼んだのですが…何分新人でして」

「そんなに緊張する必要はない。ただの食事会だ」


申し訳なさ気な顔を取り繕って説明するジョルノに、来賓の男は笑顔で返す。
どうやら怖い人ではないらしい。と、暗殺チームとしてどうなのかと思われるような反応を示す名前は、ホッと息をついた。
そもそも、いつもの指令ではこんなに格上の扱いを受ける人間の相手はしない。名前には初の出来事なだけに、練習不足が不安で仕方なかった。



「失礼します」

畏まった声がノックに続き、振り返るとリゾットが頭を下げていた。
先程「そんなに背中を出すなんてけしからん!!」と怒り狂っていたが、どうやら仕事との分別はついているらしい。流石はリーダーと言ったところか。
続いて台車を押してイルーゾォとホルマジオが入ってくる。仲間の姿に安心する名前に、イルーゾォが小さく微笑んで返してくれた。ずっとそんなに穏やかな笑みを浮かべていたら素敵なのに。とは口が裂けても言えない。妙なネガティブスイッチを押しかねないから。


「先ずは前菜でごさいます」

イルーゾォが静かな調子で説明し、ホルマジオが素早く飲み物を注いでいく。
こなれた二人の動きに感心しつつ、名前はぽけっとそれを眺める。
ホルマジオもイルーゾォも、どうしてそんなに馴れているんだろう。
こんなにも緊張している自分に対し、リゾットはもちろん、ホルマジオとイルーゾォの落ち着きっぷりにほんの少し悔しい。


「…さん。名前さん」

「え、あっ!…はい!!」

「全く、あなたって人は」

慌てて背筋を伸ばした名前にジョルノはため息をついたが、来賓の男は対照的に人の良い笑みを浮かべた。


「あの、すみません。緊張でぼんやりしてしまって」

ちょっと無理がある言い訳だ。
肩を震わせて笑っていた男は、名前が眉を下げたのを見て慌てて手を振った。


「フフフ…、すみません。とてもギャングらしくないお嬢さんですね」

誉められているのか、ギャング失格だと言われているのか分からない。


「私にも、アナタに似た妹が居りました。おてんばでそそっかしくて、でもとても可愛い、自慢の妹だったんですよ」


ニッコリ笑う男に、名前は頬を染めて小さく笑った。
自慢の妹がいくつの時の記憶かは知らないが、おてんばでそそっかしいその子と重ねられる気恥ずかしさが堪えられない。
助けを求めるようにリゾットを伺えば、「お前もオレらの自慢だぞ」と言わんばかりのどや顔で頷かれた。
誰か、あの表情貧相な彼のどや顔にツッコんでやってくれ。無表情なのに輝かしいって、どういう矛盾だ。


「彼らはアナタの仲間ですか?」

表情で会話する名前達に気づいた男が、穏やかな調子で訪ねる。
うっかり仕事を忘れて、暗チ独特のコントでも始まりそうな空気に、最早ジョルノは気が気でない。珍しく焦るジョルノには見向きもせず、名前はまた頬を染めて頷いた。


「はい…。その、私が心細くないよう、ジョルノ…ボスが特別に手回しして下さったみたいで…」

もちろん嘘である。
こういったときの咄嗟の嘘をつく機転の早さは折り紙付きだ。


「一応、護衛等も出来ますので、それも兼ねております」

名前の嘘に乗ったジョルノが笑い、男は怪しむ様子もなく頷いた。


「とても仲が良いのですね」

思わず「いや、幼稚園や小学校の仲良しグループじゃないんだから!」とツッコみたくなるコメントである。
微妙な顔をしたジョルノに対し、名前は笑顔で「はい!」と返した。幼稚園児であれば満点の、とても元気な返事だ。



「仔羊のスペッツァティーノでこざいます」


優雅な手付きで皿を並べるプロシュートは流石兄貴としか言いようがない。
チラリと流し目で名前を伺い、励ますためか僅かに口角を吊り上げる。
なるほど、これで世の中の女がたらし込まれるのだろう。とんだスケコマシだ。いや、立派なイタリアーノと言うべきか。


「美味しい!」

だいぶ和やかになった空気の中で、名前は思わず声を上げ、慌てて口を塞いだ。
肩を竦めてジョルノを伺い「やれやれ」とでも言い出しそうな彼の姿に、名前は誤魔化すような笑みを返す。


「いや、本当に美味しいですね」

男が名前に同意したことで、どうやら許されたらしい。
ジョルノが「シェフに伝えておきます。彼も喜ぶでしょう」と笑い、名前はホッと胸を撫で下ろした。
常々から料理上手だとは思っていたが、本当にテレンスは料理が上手い。
どうやらDIOとジョルノに出すために相当訓練したらしい。(させられたのか、自ら志願してしたのかは謎である。)
味も分からない重苦しい空気の食事会になるかと思ったが、予想よりは味わえる。
美味しい料理に舌鼓を打ちながら、名前の任務はまだ続く。


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