「やられてばっかじゃ駄目だ!やり返さないと!!」
メローネの言葉に、名前は何を言っているんだとばかりに首を傾げた。
キョトンとした名前を見て、メローネは憐れみすら含んだ視線で頭を抱える。
「名前…。オレらのプリンチペッサ。
お前は強く、美しい」
突然手を取り、メローネは名前の瞳を真っ直ぐと覗き込む。
まるでお姫様の手を取る王子よろしく片膝をついて手を取るメローネにそう言われ、名前は戸惑いながら「グラッツェ」と小さく返した。
「名前、よく聞け。オレらは、マジにお前に一目置いてんだぜ?」
「はぁ…」
「そんな名前が、いつまでもリゾットのヤローに従っているなんて許せねーことだ!!」
「そう?」
力強く頷くメローネに、名前は曖昧な笑みを返す。
全く妙な事になったものだ。
完全にスイッチが入ったメローネは、若干引き気味の名前を気にもとめずに大袈裟な手振りで続ける。
「名前、お前は人に従って終わる女じゃねーんだ!!!」
そもそも、名前はリゾットに従っているつもりはない。が、メローネには届かない。
「逆転させるべきだ!!」
「は?」
「名前、お前なら女王になれる!!」
「ち、ちょっと、メローネ??」
慌ててメローネを制したところで、名前の言葉などで止まるメローネではない。
おおよそブレーキと言う物を知らないメローネは、嬉々として名前の腰を引き寄せ、自らの片腕を力強く翳して叫んだ。
「男を服従させるなら、今なんだ!!!」
周りの喧騒が一瞬で静まり返り、一同の視線は名前とメローネに集まった。
二人は街の中心に位置する、とあるバールに居た。
いたたまれなくなって俯いた名前の耳に、「まじかよ」と誰かの呟きが飛び込む。
メローネの事は嫌いではないが、この時ばかりは憎かった。
じわじわと顔が熱を持ち、変わらず静まった店内から逃げ出したい衝動に駆られる。
「あんな大人しそうな女の子に迫られたら、オレ…堪んねーよ」
ん?
「いいねー。オレも、踏みつけられても可愛いから許しちまうな」
んんんっ!?
次々と聞こえる呟きに、名前は俯いたまま眉を寄せた。
幻聴か??
はたまたスタンド攻撃か??
恐る恐る顔を上げると、何人かが「ごくり」と生唾を飲むのが分かった。
正直怖い。
「分かる奴にはわかるんだよ。いいね…ディ・モールト良し!!」
うっとりと茫惚の表情を浮かべて頬を染めるメローネに現状を聞いたところで、まともな解答が得られるはずもない。
名前はその妙な空気の中で、困惑に眉を寄せたまま辺りを見渡した。
「アナタ、そう言う趣味があるの??」
誠に遺憾である。
速攻否定すべく声を振り返った名前は、言葉を失って瞠目した。
(じ……、女王!!!)
長い髪に緩いウェーブ。
鋭い目つきと、形のいい真っ赤な唇。
羽織ったコートをなびかせる様は、どこをどうとっても女王のイメージそのものだった。
ただ…
性別が男だと言うことを覗けば。
大胆にも脚を露出した男は、名前の顔をしげしげと覗き込み、こともあろうか、鼻で笑って一蹴した。
「あんたには無理だ。向いていない」
同意する。
確かに名前には向いていない。
だが、鼻で笑って黙っていられるほど、名前も大人しいだけの女ではない。やるときはやる女なのだ。
「名前、黙ってらんねーよ!なぁ!?」
メローネが怒りを露わに男を睨みつけ、名前は頬を膨らませて男を睨んだ。
「出来るもん!!」
これが破滅の選択である。