「何をしてるのだ?」


眉を寄せたDIOに見下ろされ、名前は床に座り込んだまま顔を上げた。


「雑巾がけです」

「いつからここで勤務するようになったのだ?」

「つい先刻からです」


目を覚ますと、屋敷の人の気配が異常に増えていた。
名前が「バケツバケツ」と言いながら走っていく先を見ると、リゾットがバケツの所で雑巾を絞っているではないか。


「??」

「パードレ、起きたんですか?」

パッと表情を明るくする愛息子にハグとキスで朝の挨拶をすると、DIOは雑巾を絞る名前を振り返った。


「あぁ、彼等は前に会ったと思いますが、リゾットチームです」

「なぜウチで雑用をしているのだ?」


ジョルノは少し悩んで、リゾット達がこの屋敷に転がり込んだ経緯を説明した。
DIOの贈った暖房機器が彼等の家計を圧迫してしまったこと。
節約の為に一つの部屋に集まって寝ようとしたら、枕投げ大会に発展して窓を割ってしまったこと。
それを修繕しようとメタリカで家の鉄筋を使ったら、建物そのものを支えられなくなって床が抜けたこと。
どこにそんな間抜けな大人の集団が居るのかと耳を疑いたくなるような出来事を説明しながら、ジョルノは頭を抱えた。




「頭痛くなってきました…」

「絵に描いたようにマヌケな奴等だな」

「ですから、ここで扱いて鍛え直そうと思ったんですが」


フーッとため息をつくジョルノを見ながら、DIOは目を細めた。
これも名前が無意識に垂れ流すスタンド能力の影響なのか、ジョルノの中に「チームごと切り捨てる」という選択肢は見受けられない。


(まあ良いか)

息子が一生懸命考えて組織を動かしているのだ。
その中の些細な事くらい、口出しせずとも取るに足らないことだ。




「メローネ!!お前は何やってるんだ!」


頭痛の種であるチームのリーダーの怒号が飛び、ジョルノとDIOは顔を見合わせて声の方を見た。
広い廊下を全力疾走でこっちに向かってくるのは、問題児のメローネだ。



「ギアッチョから逃げてるんだよ!」

よく耳を澄ますと、ピキピキと小気味良い音が響いている。
もう一度DIOを振り返ったジョルノは、目を丸くしたまま白い息を吐いた。


「メローネ、止まれ!!」

リゾットの制止も聞かないメローネは、必死の形相で尚もこっちに向かって走ってくる。
やれやれ、どこにいても派手な奴らだ。

ため息をついたDIOはザ・ワールドで時を止め、止まった時の中を走り出した。









「メロ……え?」

「ほれ、ちゃんと面倒見ておかないか。お前の部下なのだろう?」

メローネを追いかけて走り出そうとしたリゾットの目に、メローネとギアッチョの首もとを掴んだDIOが飛び込んだ。
まるで意識の外から、突然現れたようなDIOの姿に驚きを隠せず、メローネとギアッチョも何事かと固まっている。


「…すみません」

「良い。これも引力なのだろう」


なんの事を言っているのか理解しかねて眉を寄せる
と、DIOはチラリと名前を見て笑った。




「えぇ!?これって、私とDIO様の恋愛フラグ!?」

「恋愛…何だって?」

「DIO様、気にしないで下さい。名前、馬鹿も休み休み言え。コイツ等だけでオレは手一杯だ」


チームの言動に頭を抱えているのはジョルノだけではなくリゾットもだ。最も、リゾット自身もあまり言えたものではないが。
意味の分からないことを口走る名前に、リゾットはため息をついた。




「パードレ、手を煩わせてすみません」

走ってきたジョルノは、手短にDIOへのお礼を告げてリゾット達を睨む。
DIOが絡むと益々迫力が増しますね。


「仕事は明日からにしようと思っていたんですが……」


四人を睨んだままのジョルノは、ホワイトアルバムよりも低温なんじゃないかと思えるほど冷たい笑みを浮かべた。
というか、仕事のつもりがなかったのなら、今までの雑用はなんだったのだろう。



「テレンス!」

「ここに」

「全員を集めてください」

「かしこまりました」


黒い。
果てしなくどこまでも黒いオーラを漂わすジョルノに、名前は堪えきれずブルリと震えた。

画してテレンスによって全員集められたリゾットチームは、ジョルノの前に並んで精一杯目をそらしていた。




「全く…」

手を腰に当てたジョルノは、本当に黙っていたら絵に残したい美しさを兼ね備えているのに。
名前は隣で目を細めるプロシュートを伺って、こっそり話しかけた。


「なんでジョルノはあんなに怒ってるの?」

「さあ…「さあ?分からないわけないですよね?」


何たる地獄耳。
笑っているにも関わらず、ジョルノの凄みは増していく。


「まさかリゾットと名前以外、全員がサボっているとは思いもよりませんでしたよ!!」

「えぇ!?みんなサボってたの??」


ナンテコッタ。


「私も誘ってくれれば良かったのに」

「名前さん?」

「嘘ですっ!!!」

DIOとの恋愛フラグの前に、死亡フラグが立ってしまうところでした。
いや、そもそもジョルノ邸に転がり込んだだけで死亡フラグか…。



「大体にして……ずっと思っていたんですが、何なんですか?その服装は!!」

いや、服装に関してはブチャラティチームに言われたくない。



「はいはーい!私もメローネとリゾットの服には疑問があります。イルーゾォとホルマジオのヘソ出しは色気だとして何なの二人とも」


乗るのかよ。
チーム内からのまさかのブーイングに、メローネは口を尖らせた。


「これは、バンビーナ達が、直にオレに触れやすいようにこの服なのー!」


意味が分からない。
何より、その奇妙な露出のせいで近づくことすら躊躇われるわ。



「これは…」

あぁ、リゾットも言い訳するんですか。
名前達に見られる中で、目を細めて口を開いたリゾットは、少し考えて閃いたように手を打った。
つか、今考えただろう。



「捕獲の為だ!!」

何をだよ。
何を捕獲するんだ。


「こう…このベルトを外して…」

「おい、名前に近づくなよ?テメーの考えはもう読めたぜ!」


プロシュートがリゾットをグーで殴ると同時に、ホルマジオが名前とリゾットの間に立ちはだかる。


「はいはい、いいから黙ってください。それ以上無駄口叩いたら、タダじゃおきませんよ?」


ジョルノの微笑みに全員が黙り込んだ。
沈黙の中でジョルノは満足そうに頷き、ゆっくり口を開く。



「全員露出が多すぎます!」

それは言われたくない。
その言葉を必死に飲み込んで黙るメンバーは、自然とDIOを見て押し黙った。
布に包まれていれば良いわけではないと悟った。


「スーツを支給する事にします!」


どや顔でそう告げたジョルノに、メンバーは嫌な予感がして眉を寄せた。
そもそも、スーツなら以前DIOの接待をした時に購入させられたものがあるはず…。
まぁ、抜け落ちた床の瓦礫の中だが。


「それで、なにをすれば?」

「それはブチャラティが説明します」


にっこり笑うジョルノが優しいわけなどないことを、リゾットチームは誰もが知っている。
枕投げなんか二度とするものかと誓いながら、バレないようにため息をついた。


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