「さ……寒い!」
イルーゾォが叫ぶようにそう言って部屋に入ってくるのを、リゾットは腕を組んだまま見ていた。
「リゾット!どうにかしてくれよ!!寒くて死んじまいそう!何、ギアッチョ怒ってんの!?」
歯の根も合わずカチカチ鳴らしながら文句を垂れるイルーゾォは、横から舌打ちを聞いた。
「オレのせいじゃねーよ。季節的な問題だ」
確かに。ギアッチョのホワイトアルバムだったら、まだまだ温いくらいだ。
「しかしよぉ、オレらの部屋にも暖房つけてくれよ」
「確かに、このままじゃ身体が休まる前に安らかに眠っちまうよ!永遠になぁ!」
ホルマジオとプロシュートまで乱入して抗議が始まり、リゾットはため息をついた。
「順番に導入するって言っているだろう?」
「そうは言ってもさぁ、全員が導入されるのって何月?」
ジェラートが目を細めて怒るのも無理はない。
11月に全員で食事の時に使う部屋に暖房を付けた。
12月は話し合いの末、紅一点…ずっと黙って事の成り行きを見守っていた私の部屋に付けてもらいました。
言っておくけど、無理やりではない。
皆の好意だ。
そして、1月のお給料はもう少し先。
1ヶ月に一つ暖房を導入しているので、つまり……
「9月だな」
「次の冬になっちまうだろうが!!」
プロシュートに襟元を掴まれたリゾットは、いつもとは打って変わってしっかり着込んで若干モコモコしている。
どんだけ着込んでんだ。
「仕方ないだろう。金がないんだ」
「泣くぞ!?」
「泣けよ。気が済むなら」
本当、ギャグみたいに金がないチームだな。
万年貧乏に逼迫させられてますな。
「こうなったら、ボスに頼みに行こう!」
「おいおい…」
「オレたちの健康にも、少しは気を使うべきだ!!」
プロシュートは朝弱いからな…。
低血圧な上に刺すような寒さで、ベッドから出るのが任務より辛いらしい。
ペッシを巻き込んで出掛けようとするプロシュートに、自分の美容と健康の為だとメローネとジェラートが続く。
ジェラートがソルベを巻き込むところで、リゾットがしぶしぶ立ち上がった。
「仕方ない……オレも行く」
そんなワケで、結局全員でボスの家を目指すことになった。
外は雪が積もり、一面真っ白な雪景色。
そりゃ寒いわけだ。
手袋で歩きながら雪を掬い、丸めてペッシに投げつけた。
「くらぇ!メタリカーー!」
「ひぇっ!!つ、つめてぇ!」
慌てるペッシを見て、メローネも目をキラキラさせて雪を丸める。
「グレイトフルデッド!」
「メローネェ…オレにケンカ売った事、後悔させてやる」
眉をピクピクさせるプロシュートは、雪を押し固めてメローネに投げ返す。
物凄いスピードで飛んでくる雪玉を素早くメローネがかわすと、玉は後ろを歩いていたギアッチョの顔面を直撃した。
「メローネェ…」
「避けるなメローネ!」
兄貴、それは無茶ですよ。
ペッシの投げ返してきた雪玉を避けて作った雪玉を、メローネを追いかけるプロシュートに投げて急いで逃げる。
「テメェッ!!!やりやがったな!…ブッ殺すと思った時には、すでに行動は…終わっているんだー!!」
怒りが込められたら玉をソルベとジェラートの間をすり抜けてかわし、リゾットの影に隠れた。
大騒ぎしてる皆を叱るかと思いきや、リゾットは白い息を吐きながら小さく笑った。
「暗殺チームが聞いて呆れるな」
確かに。
しかし……。
「平和な顔されるとやっちまいたくなるんだよねー!」
逃れながら作った雪玉をマフラーの隙間に突っ込んで、再び逃げる。
リゾットの声にならない悲鳴が、静かな冬の街に木霊した。
「お寒い所を、よく……おいで下さいまし…た…」
テレンスは戸惑いながら私たちの為にドアを大きく開いた。
(テレンスとはジョルノの父親。DIO様の執事である。)
それもそのはず、私たちはマフラーを外し、コートすら脱いで汗をかいていた。
「ランニングでもしてきたのですか?」
困惑するテレンスに、リゾットは「そんなもんだ」と答えた。
「ジョルノ様は、奥の部屋においでです。久々の休暇のようですので」
「休暇?…では、出直しましょうか?」
「それには及びません。ジョルノ様もDIO様も彼女が来るのを心待ちにしているようですので」
テレンスの言葉で、リゾット達の目の色が変わる。
しかし私は知っている。
ジョルノ達は、リゾット達の反応を楽しんで遊んでいるだけ。毎回律儀に引っかかる皆が面白いらしい。
「ジョルノ様の部屋へ、案内をお願いします」
ソルベとジェラートがテレンスを急かし、皆がそれに続く。
コートを慌ててフックに引っ掛け、私も慌てて皆を追いかけた。
騒ぎすぎてかいた汗もひいて、湿った服が少し冷たい。
しかし、廊下まで温められているおかけで少しはマシだ。
「廊下まで暖かいですね」
テレンスに訪ねると、床暖房だと教えてくれた。
新しい技術を貪欲に求めるDIO様の好みらしい。
「この部屋です」
殊更大きなドアを開くと、床はシックな絨毯からタイルに変わった。
観葉植物が置いてあってよく見渡せないが、大きな部屋なのか、音の反響も他の部屋と違う。
DIO様でも快適に過ごせるように閉め切られた部屋は、日光の代わりに豪華なシャンデリアで煌々と照らされている。
「よくいらっしゃいましたね。外は寒かったでしょう」
穏やかな笑みを湛えたジョルノを見て、私達は瞠目した。
いつものお召し物も大きく胸元を露出させてはいるが、今日のはそれの比ではない。
まだ線の細さを感じさせながらも、程よく鍛えられ引き締まった身体を惜しげもなくさらし、短い丈のパンツは鮮やかな彼の瞳と同じ色。
まぁつまり、水着姿だった。
「冬に……はっ!まさか、寒中水泳!?」
ペッシの呟きを、ジョルノは笑って否定すると、私達をさらに奥の部屋へと案内した。
「父はなかなか外に出られませんから。室内プールを作ったんです」
「室内プール!?」
「あぁ、来たのか?」
DIOもジョルノと同じく水着姿で、しっかりした肉付きの引き締まった身体をさらしているではないか。
…おエロいですよDIO様。
「しかし、こんな寒い日にわざわざ我が邸まで何のようだ?」
最早開いた口も塞がらないリゾット達を更に煽るように、DIOがニヤリと口元を歪ませる。
「それは……」
なんたる格差社会。
これがジョルノのパッショーネとしての力ではなく、DIOの力によるものが大きいとしても、沸々と湧き上がる気持ちを押さえることなど出来るだろうか?
否。
握り締めた手がぶるぶる震え、全員が一様に口を引き結ぶ。
「「「「「「「「「「暴動だーー!!こうなったら、裏切ってやる!!」」」」」」」」」」
室内プールに声を反響させながら、私達はその場でがっくりと肩を落とすことしか出来なかったのだった。
しかし、数日後。
あんまり落ち込む私達を哀れんだDIOから暖房が送られてきたので暴動は止めた。
本当、単純なんだから…。
でも、雪合戦は楽しかった。と思うあたり、そんなチームにも馴れてしまったに違いない。