リゾットはアジトのリビングで、テーブルに肘をついてうなだれていた。
リゾットチームの人間なら誰だって知っている。
そのリゾットを見たら、数日以内にチームの飢饉が訪れる事を。



「飢饉がくる」

「おいおい、マジかよ!!」

青い顔をした名前に、ホルマジオが絶望的な声を上げた。
まだ給料日まで二週間ある。
飢饉が本当なら、確実に死亡コースだ。


「でもおかしいのよ…」

「何が?」

イルーゾォは青い顔でを寄せている名前を覗き込む。

「まだ食費は結構あるのよね…」

「?…どうゆうことだ?」


「ほら、ギアッチョも覚えてるでしょ?前にみんなで好き勝手食費使い込んで、何週間もダイエット食食べたじゃない?」

「あの時オレは5キロも痩せたぜ………」

「かわいそうなギアッチョ…」

「テメーはそんなオレを抱っこして遊ぼうとしたよな、メローネ」

「だって、弱ってるギアッチョ、ディ・モールト可愛かったんだもん!」


メローネの手にかかれば、弱ってる人間は誰でも可愛いに違いない。
プロシュートも抱っこされそうになって、グレフルで応戦していた。


「まぁそれは良いとして、それ以来私とペッシで厳しく食費を管理してるのよ!」

「そうだよ!オレも頑張ってるんだ!みんなに使い込ませたら、給料ナシってリーダーが言うから!!!」


必死な形相のペッシに、名前が同情の目を向ける。
メローネやソルベ達から必死に逃げるペッシはあまりにも可哀想で、リゾットにメタリカでメローネ達を撃退してもらった日々が蘇る。


「じゃあなんで……」

プロシュートが訝しんでいると、「みんなに話がある」とリゾットが部屋に入ってきた。
ジェラートは見た。真剣な顔をしているリゾットの手に、通帳が握られているのを……。


「単刀直入に言う。光熱費がヤバい」

今回は食費ではなく、光熱費らしい。
確かによく考えてみれば、最近は寒くてずっと暖房をつけている。
しかも、各自が………。


「ヤバいって……どれくらいヤバいんだ?」

生唾を飲みながら訊ねたホルマジオに、リゾットは目を細めた。
もどかしいほどゆっくり開かれるリゾットの口元に、全員の視線が集まる。







「…このままだと、冬が越せない。」











部屋の温度がぐっと下がったのを感じました(by イルーゾォ)


「嘘だろ!冬はこれからだぞ!?」

「嘘言ってどうするんだ!マジにヤバいんだ…夏からコツコツと光熱費の貯蓄をしていたのに、どうして1ヶ月でなくなるんだ!!」


キレるのは止めて下さい。
つーか、コツコツとか……本当にマードレなんだから。


「どうすりゃ良いんだ?」

「暖房を使わなければ良い」


「凍死って労災下りるかな…」

「止めてイルーゾォ…中途半端にリアルだから」


ギャングに労災なんてなんのだけど、そんな生活、考えるだけで相当寒い。
ギアッチョのスタンドが、凍らすのではなくて暖める能力だったら良かったのに……。
そんな事を考え始めた名前の耳に、素敵な提案が飛び込んだ。


「ソルベ、今日から一緒に寝ようよ」

「だな、少しは暖かいだろ…」

「それだ!!それよリゾット!!!」

「オレは構わないが…」

頬を染めるんじゃあない。
激しい勘違いをするリゾットを殴った名前は、改めて部屋を見渡す。


「今日からみんなで、ここで一緒に寝ようよ!」

「やだー!修学旅行みたい!!!」

「修学旅行?」

ハシャぐメローネに、ペッシが首を傾げた。

「この前DVDで見たんだよねー!みんなで同じ部屋で寝るんだよ。寝る前にみんなでコソコソ話しとかして、恋バナ始まったりしてよー!!!」


一体どんなDVDなのか激しく気になるが、メローネにその手の質問はしたくない。
メローネへの下手な質問は、自分の危機に繋がる事はこのチームのメンバーなら誰でも知っている。


「仕方ねぇな…寒さで死ぬよりマシか」

「兄貴の寝顔…キレイなんだろうな〜」

「兄貴の寝顔…」

うっとりする名前の隣で、ペッシが緊張した顔をしているのは気にしない事にする。
まさにデッド・オア・アライブの選択肢に反対など起こるはずもない。
さっそくテーブル等が運び出され、代わりにベッドが運び込まれる。
あんまりにも狭いので、仕方なく隣同士をくっつけて二列に並べる形になった。
名前は窓際の真ん中を陣取り、シャワーを浴びてホカホカしながらベッドへ飛び乗った。


「ふぅ、なんか旅行みたいでワクワクするね!」

「そうだな」

同じくホカホカした様子のリゾットが、当たり前のような顔で名前の隣に横になる。
反対隣は、名前の希望でホルマジオになった。


「しょうがねーなぁ…。リゾット、名前にちょっかい出すなよ?オレはグッスリ寝たいんだ」

その主張こそが隣に選ばれた理由だというのに。
そんな事露ほども知らないホルマジオは、リゾットを牽制しつつ布団の中に潜り込む。


「なんか楽しいね!!こんな気分久々!!!!「ちょい待て名前、お前なんかテンション上がってねぇ?」

反対側で寝ようと横になっていたソルベは、不吉な予感に眉を寄せた。
他のメンバーならまだしも、名前のテンションが高いのを窘めるメンバーは居ない。
唯一ソルベが注意するが、リゾットまで名前と騒ぐのだから手に負えない。


「ま、待て…名前!!ベッドの上に立つんじゃない!!!枕を置け!!!!!」

「食らえ、メタリカっ!!」

「雪合戦のリベンジマッチだな!」

颯爽とベッドの上に飛び乗るリゾットを見て、ソルベは諦めた。
メローネの枕がホルマジオにたたき落とされるのを見ながら、自分の枕を握って立ち上がった。
まあ、動けば暖かくなるかも知れない。




















「「「「「「「「「「助けて下さい」」」」」」」」」」


とんでもなく愉快な1日を過ごしたリゾットチームは今、ジョルノの前で並んで土下座していた。

「何事ですか?」

「いやー、枕投げで窓割れちゃって」

正直に笑う名前に、ジョルノは表情を険しくした。
良い歳した大人達が、揃いも揃って枕投げで自分の首を絞めるとは…。


「メタリカで塞いで貰おうと思ったんだけど、ウチの建物、思ってたより鉄筋弱ってたみたいでさぁ」

「名前、あんまり恥晒すな」

今更恥てどうなるのだ。
良い大人が枕投げで窓を割って、挙げ句の果てに上司の前で土下座しているのだ。これ以上の恥がどこにある?


「それで、最終的にどうなってるんです?」

「床が抜けて住むところがないの。住み込みで働かせて下さい!」


目を合わさないよう頭を下げたまま動かない部下に、ジョルノは目眩を感じて頭を押さえた。
大人が揃いも揃って枕投げで窓を割るなんて。
DIOが以前言っていたように、名前を中心に彼らが平和ぼけしているのだとしても、こんな大人達と真面目に死闘を繰り広げたとは俄かに信じがたい。


「…分かりました」

ジョルノの言葉にパッと目を輝かせて顔を上げたメンバーは、眩しいほどの彼の笑顔を見てサッと青ざめた。


「叩き直してあげます」


床の抜けた我が家に、帰りたくなりました。(byリゾットチーム一同。)


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