「左から…ソルベ・ジェラート・メローネ・ギアッチョ。
プロシュートとペッシは分かるか…。
で、ホルマジオとイルーゾォだ」


「名前ですっ……よ、よろしくお願いいたします」


集められた暗殺チームのメンバーに、タジタジしながら挨拶する名前は、昨日よりもずっと顔色が良くなっていた。
とは言えメンバー全員が揃うとさすがに圧巻で、これからここで暮らさねばならない名前は緊張を隠せない。


「ベネ!!前は顔色悪かったから分からなかったけど…ベリッシモ可愛いね!」

メローネはハグで友好的に名前を迎え入れる。
手のひらを返したようなメローネの態度に、ギアッチョが小さく悪態をついた。


「オレがメローネね、よろしく」

「あ、よ…よろしく」


初っぱなから激しいスキンシップに、そんな状況に馴れない名前は笑顔を作るのも忘れたまま驚き顔で挨拶を交わす。
近すぎる程の距離に名前が背を仰け反らせても、大した距離は取れず顔が熱くなる。


「お前がやると、挨拶も犯罪行為に見えるのは何でだろうな」


いつまでも名前を解放しないメローネを、プロシュートが無理矢理引き剥がしながらぼやく。


「名前ーー…」

「うるせーぞメローネ!!」


黙って見ていたリゾットは、既に『メローネに名前の見張りをさせるかどうか』の思案に取りかかっていた。
「見張りをさせるメローネに見張りが必要だな」と、リゾットが一人納得した所でギアッチョが見かねて苛々と愚痴り始めた。


「まじかよ…足手まといだぜ」


ギアッチョは、ギリギリと歯軋りをして名前を鋭く睨む。
出逢った初日に怒鳴っていたギアッチョを思い出した名前は、その日と同じように肩を竦めた。


(恐い…)


何とか怒らせないようにしなければ、とドキドキする名前を他所に、ギアッチョはホルマジオにも意見を求める。

「どー思う、ホルマジオ」

「あ?……見られた以上解放できねーのは確かだし、家事やってくれるやつ居たら助かるのも確かだな。
しかもタダで、だ」

ホルマジオは、これでメローネの塩辛いパスタを食わなくて済むと笑った。


「チッ、どいつもこいつも!こんなのぜってー役に立たねーよ!!
抗争なんか起きたら真っ先に死ぬぜ!?」

もしもの事まで考えてやる辺り、ギアッチョなりの優しさが多分に含まれているをメンバーは知っている。しかも、相手はチームにも組織にも関係ない、限りなくグレーな人間だ。


「まぁ、その時はお前にも頼らせてくれ」

リゾットがそう言うと、ギアッチョは目をつり上げたまま黙り込んだ。

しばらくは二人ずつ監視に付ける事を告げられ、その為のメンバーをリゾットがリストアップして発表する。


「昨日はプロシュートとペッシに頼んだからな…今日はメローネとギアッチョでやれ」


「si!」

楽し気に笑うメローネの横で、ギアッチョは再び舌打ちをした。


「明日はイルーゾォとホルマジオ、その翌日がソルベとジェラートだ」


リゾットの告げたメンバーの中に、リゾット自身が入ってない事に疑問を持ったイルーゾォが尋ねると、リゾットは一言「オレは夜の見張りにつく」と答えた。

「響きがやらしー」

メローネは興奮した様子で笑い、口から縫い針を吐く羽目になった。
そのまま喋っていたら吐き出した針で口を縫い付けられそうだと、メローネは慌てて黙り込む。


「名前、昨日の部屋をそのまま自室にしろ。
ベッドを運び込んでやる。

ソファーはオレが使う」


名前が「ソファーは私が」と申し出ても、頑として譲らないリゾットに名前は眉尻を下げた。


「ベッドで寝ないと疲れが取れないのに」

「心配は無用だ」

頑なに主張を曲げない二人に、ホルマジオが堪らず割って入った。
放っておけばこのまま夜を迎えかねない。


「あ〜…じゃあ、こんなのどうだ?
ベッドを部屋の両端に二つ運び込む。
幸いあの部屋は一番デカイ」


ホルマジオは取り出したペンで、メモにササッと四角く図を書く。

「部屋を半分にするように壁を『途中まで』作る。
これは衝立代わりの壁な。
で、出入口がある半分をリゾットが使う」


書き上げたメモをリゾットに渡して、「折半案だ」と苦笑するホルマジオ。
しばらく目を細めてメモとホルマジオを交互に見ていたリゾットは、ため息をついて「仕方ねぇな」と呟いた。



「ソルベ、ジェラート。
部屋を入れ換えるから手伝ってくれ」


完全に「我関せず」と自分達の世界を作り上げていた二人は、リゾットに呼ばれて「si」としぶしぶ立ち上がる。


「入れ換えるって?」

「あぁ」


ソルベに続けてジェラートが首を傾げる。

「全部か?」

「小さくても客間はあった方がいいからな」

「「あぁ」」


納得したソルベとジェラートは、黙ってリゾットに続いて部屋を出ていった。


「話が終わったなら」とイルーゾォも立ち上がり、プロシュートはペッシを連れて何かの買い出しに行ってしまった。


「今日は自分の部屋掃除するのをオススメするぜ」

ホルマジオは笑ってそう告げると、メローネとギアッチョに「ケンカすんなよ」と釘を刺して部屋を出た。

バタンと扉が閉まると、僅かな沈黙が早くも息苦しくのし掛かる。


「あ…えっと…じゃあ、そ…掃除に」

名前の言葉にため息をついたギアッチョは、フラりと部屋を出てバケツ等を手にして戻ってきた。


「掃除に使える道具なんて、この家にはこれくらいしかねーからな」

乱暴に名前に渡して、再び扉に向かう。
扉の前でピタリと止まって振り返ったギアッチョが、また目を吊り上げて「部屋に行かねーのか」と怒鳴るので、名前は慌ててギアッチョに続いた。


「ギアッチョ優しいー」

笑うメローネにギアッチョはキレかけるが、メローネに後ろから手を首に回された名前が真剣に頷くのを見てバツが悪そうに舌打ちをした。


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