「あ、名前じゃん」
「メローネ?こんな所で何してるの?」
最近よくプロシュートの所に顔を出しているため、リゾットチームともずいぶん親しくなった。
「任務?」
「いや、リゾットに頼まれてちょっとした運び屋」
「そう。だからメローネ一人で行ってくれたら良かったのに」
「あ、イルーゾォ。昨日ぶり」
メローネの後ろからひょっこり顔を出したイルーゾォは、無理やり連れてこられたのかウンザリした様子だ。
それに対し、メローネはイルーゾォの小言など気にする様子もなくニコニコ…いや、ニヤニヤ?
「なぁ、どうしてプロシュートを名前で呼んであげないの?」
「え?」
「オニーチャンなんて、恋人に言われても嬉しくないと思うけど?」
「う…うるさいなぁ、分かってるよ!」
本当、余計なお世話だ。
プロシュートが、自分を昔助けた(もちろん、プロシュートがそう思っていない可能性はあるが)子どもだと知っているのと知らないのとでは大きく違う。
その時の事を覚えていて、しかも探し続けていたのだと思われているのだ。…多分。
そう思うと、恥ずかしくてたまらない。
「いいじゃん、何年も思い続けられてたなんて、男冥利に尽きると思うけど?」
イルーゾォがそう言うなら信じてもいい。
「ちょっと、何か今失礼なこと考えなかった?」
「別に」
メローネに同じ事言われても信じれない。と思っただけです。
もしも、プロシュートがイルーゾォが言った通りに喜んでくれていたとしても、恥ずかしさが消えるわけではない。
「だって……プロシュートと居ると、緊張するの」
「「はぁ?緊張!?」」
何も声を揃えなくても良いのに。
ムッと口を閉じると、メローネが「何で?」と続きを急かす。
「前の……子供の時のプロシュートもスゴく綺麗だったけど、……思った以上に格好良くなってて…その
………綺麗だから」
「それで恥ずかしいわけ?」
「うん…」
言いながら顔が赤くなっているのが分かる。
火照る頬を押さえて二人を見ると、イルーゾォは何とも言えない顔をしていて、メローネは心底嫌そうに私を見ていた。
そんなにドン引き?
「つっっっっっまんない!!!!」
「そんなに力んで言うほど!?」
「あぁ、つっっっっっまんない!!!!」
メローネは吐き捨てるようにそう言うと、眉間にシワを寄せたまま踵を返し、少し振り返って細めた目でこっちを見て、苦々しく口を開いた。
「それだけプロシュートの事好きって事だろ?もっと出してあげれば?」
「えっ!?で、でも……」
「……………………あーぁ、プロシュート爆発すれば良いのに」
メローネが文句を言いながら立ち去った後、イルーゾォが苦笑いで私の頭を撫でた。
「名前、プロシュートがさっきの言葉聞いたら、きっとスゴく喜ぶよ」
「…本当?」
「本当。でも、大変なことにもなるかもね」
謎めいた言葉を呟いて笑うイルーゾォを見上げて、「どういうこと?」と首を傾げると、イルーゾォは「さぁね」と意味深に笑って少し私から離れた。
「イルーゾォ?」
「プロシュートに言ってみて。きっと意味分かるから」
「へ?ちょ…イルーゾォ、意味分からな「なんの話しだ?」
背後から聞こえた声に、もう少しで飛び上がってしまうところだった。
恐る恐る振り返ってみれば、そこには確かにプロシュート。
「イルーゾォと何話してたんだ?」
「お…お兄ちゃんには関係ない事よ」
そんな事言いたいわけじゃないのに、プロシュートを前にして出てくるのはいつだって妙な意地と安い嘘。
いつも「ふーん…」と流してくれるプロシュートは、今日は眉間にシワを寄せていた。
「赤い顔で……ね」
「こ…これは」
慌てて押さえてみれば、確かに顔が熱い。
「オレじゃなかったら、誰の話ししてそんな顔するんだ?名前」
怒っていたのかと思ったのに、私の手を取るプロシュートはニヤリと笑っている。
あぁ、心臓に悪い。
「正直に言え…。オレの話しだろ?」
「……お兄ち「お兄ちゃん?」
駄目。
泣きそう。
意地悪く笑うプロシュートが滲みかけ、グッと堪えてプロシュートを見上げる。
綺麗に歪んだ口元も、少し細められた目も長いまつげも全部心臓に悪い。
ずっと逢いたくて、ずっと思い描いていた大人になったお兄ちゃん。
プロシュートは思い描いていたお兄ちゃん像より、ずっと格好良かった。
「プロシュートって呼ぶの…恥ずかしいの。だ、だって……お兄ちゃんスゴく……スゴく素敵なんだもん」
「名前、お前バカだよな」
俯く私の顎を持ち上げて、プロシュートはククッと笑う。
ゆっくりと唇が近づいてきて、私は溜まらなくなって目を閉じた。
「お前の方が綺麗になったよ」
「そんなっ…ん…」
私の反論は、プロシュートのキスで溶かされた。
いつもより優しくて少し強引なキスだった。
本当に、心臓に悪い。