おかしい。
プロシュートはそんな気持ちを抑えきれずに背後を振り返った。
「ペッシ、プロシュートは私のお兄ちゃんだからね!」
「えぇ?名前は兄貴の、本当の妹なのかい?」
「そんなわけないでしょ?か…彼女よ!」
照れんな。
可愛い奴め。
……じゃなくてな。
「おい、なんでちゃっかりここに居るんだ?」
「リゾットが上がらせてくれたからよ?」
名前は目をぱちぱちさせて、ペッシのポテトチップを一枚かじった。
まるで当たり前な事であるように言っているが、ここはギャングの、取り分けジョルノの親衛隊であるリゾットチームのアジトでることをお忘れなく。
「あ、オレのドルチェ!」
「ちょっとちょーだい?」
ウフッと小悪魔な笑みを浮かべてウインクする名前に、ペッシは口をもごもごさせて文句を飲み込んだ。
何恥ずかしがてんだ。
名前もマンモーニをからかうなよ。
「ったく…呑気なもんだ。人の気も知らないで」
名前が組織の重要書類を持ち出した件は、名前の事情も聞いた上で、改めてジョルノへの忠誠を誓うことで何とか許してもらえた。
しかし、その償いの一端は何故かプロシュートも背負うことになってしまい、山積みにされた仕事のお陰で1ヶ月は休みが取れそうにない。
「ごめんね、お兄ちゃん。私も手伝うよ?」
「…あー、仕事はいいから、コーヒー淹れてくれ」
自室でもコーヒーを飲めるようにコーヒーメーカーを置いているのに、面倒で殆ど使っていない。
若干埃をかぶりつつあるそれを指さすと、名前は「はーい」とソファーを降りた。
「私も飲んで良い?」
「彼女なんだろ?オレのもんは好きに使え」
「おぉ…お兄ちゃん心臓に悪いこと言うね。ドキドキしちゃう」
名前はそう言って大袈裟に心臓を抑えて笑うと、テキパキとコーヒーを淹れる準備を整える。
なんてオーバーリアクション。
つーか、なんかキャラが………いや、良いんだけどな。
「ペッシも飲む?」
「あ、じゃあ…」
じゃあ、じゃねーよ。
心の中で悪態をついて、パソコンと書類を交互に睨む。
こういう仕事はリゾットの方が得意なのに。
「そういや、名前。お前どこのチーム所属なんだ?」
「ん?情報を扱う諜報部だったよ」
「だった?」
「クビにされてさぁ。ま、お兄ちゃんに会えたから情報に直接関与出来なくてもいいんだけどね」
名前はからから笑うと、コーヒーメーカーのスイッチを入れた。
少しずつ、ゆっくりとコーヒーの香りが部屋に広がる。
「だから、今はブチャラティのチームの、フーゴの補佐してるよ」
「あー………、そう」
何とコメントするべきか悩んで、頭を掻いてそれだけ言うと、ペッシがカップを並べながら「それでかー」と呟く。
「それでかって、どういうこと?ペッシ」
「いや、さっき他のチームの奴が、元裏切り者チームが出来たって変な事言ってたから「おい、ペッシ!」
「何それ」
ハッキリ言われれば、例えそれが事実だとしても傷つく事がある。
キッとペッシを睨みつけ、名前が泣きそうな顔をしているんじゃないかと恐る恐る振り返った。
「そのネーミング、安直過ぎるわ!」
「少しはしおらしく傷付けよ…」
「その方がタイプならそうするけど?」
「お前な〜……ペッシ!」
傷つくどころか、安易なネーミングに不満を漏らす名前に頭を抑え、ペッシに財布から小銭を取り出して渡した。
「砂糖が切れてたんだ。買ってこい。」
「えぇ?ならキッチンから「当分帰ってくるなよ?」
ペッシを追い出し、その様を笑って見ていた名前に向き直る。
ようやく二人きりだ。
「お前な、キャラ変わりすぎ」
「だって、お兄ちゃんがリゾットの彼女をスゴく褒めるから、それがタイプかなって」
天使のように見えていた名前は、小悪魔のように意地悪く笑う。
「タイプ?そうだな…妹なら天使みたいなのが好きだな。基本的に振り回されるのは好きじゃない」
ふわふわの頬に触れて笑うと、名前は頬を染めて俯く。
砕けた感じで喋ってはいるがどうやら男馴れはしていないらしい。
「お…お兄ちゃん、近い……」
「誰がお兄ちゃんだって?キスしてやんねーぞ?」
まつげの触れそうな距離でそう言うと、名前はますます顔を赤くする。
「ほら、名前で呼べよ」
「ぅ……プ、プロシュート」
真っ赤な顔でやっと名前を呼んだ名前に、深く深く口づけた。
腰を引き寄せると、名前の両手は頼りなくオレの服を握り締める。
微かな抵抗にも取れるそれが、益々オレを煽るとも知らずに。
ゆっくりと唇を離せば、うっとりと吐き出される互いの息が熱い。
さっきまでの小悪魔な雰囲気を取り繕う余裕はなくなったようだ。こっちの余裕もなくなりそうで困る。
目に涙を浮かべる名前を抱き締めて、これからの幸福を願った。
何かあったら、また名前が無茶しそうだからな。