九死に一生を得るっていう言葉があるが、そんなもん奇跡でもなんでもない。
そう思えるほどの奇跡がここにある。


「自分の死に顔なんて、見たくなかった…」

「いや、しょーがねぇよジェラート。窒息死なんて苦しいしよぉ」


死んで身体から離れたオレの魂は、かつてオレ達暗殺チームが監禁していた女によってこの世に留められた。
どうにかしてオレ達を救おうと東奔西走する姿には、圧倒させられたと言わざるを得ない。
かつてオレは、自分の生き方に誇りを持ってるとは言ったが、人に誇れる生き方をしているとは思ってなかったと自負している。
にも関わらず、そんなオレ達を必死に救おうとするバカみたいな熱意が届き、新しいボス・ジョルノが彼女に力を貸してオレ達は生き返った。

そんなボスにオレ達は忠誠を誓うことになり、今もパッショーネの一員として働いている。
そうそう、その女は、リゾットとめでたく両想いになって(ずっと両想いだったんだけどな)二人で楽しく…そりゃあもう気分が悪くなるほど楽しく過ごしている。
それを目の当たりにしているこっちの身にもなって欲しい。


(……リゾット、爆発すれば良いのに)


パソコンを閉じたオレは、コーヒーを飲んでため息をついた。
せっかく生かされていて、脅威だったボスはもう居ないのだからと、オレは先日名前を一目見ようと思ってカフェに行った。

『辞めた?』

『えぇ、ちょっと前にね。何だかずいぶん落ち込んだ様子だったから引き止めたんだけど…』


マスターが女言葉だという事を突っ込むことも忘れて、手がかりをなくしたオレは肩を落とした。
パソコンで色んな情報を検索してみても、名前の事が分かるはずもない。
何度目かも分からないため息をついていると、ノックの音がしてイルーゾォが顔を覗かせた。



「プロシュート、ボスがお前に仕事を頼みたいらしい。すぐに来いって」

「分かった」


イルーゾォに手を挙げて答えて、仕方なく立ち上がった。
ジャケットを羽織って外に出ると、雨が降り出しそうな重い雲がかかっていた。


ボスのアジトはそんなに遠くない。
歩いて5分くらいなので、散歩がてら歩いて行ける距離だ。
傘を取りに帰る手間を惜しんだオレは、手ぶらでアジトへと急ぐ。


「プロシュート、待ってたぞ」

「オレに用って?」

「とにかくジョルノに会ってくれ。こっちだ」


ブチャラティが慌てるなんて余程のことがあったのだろう。
案内されるまま、足早に応接室へ入ると、ジョルノが難しい顔で腕を組んでいた。


「まずいことになりました」


(だろうな)

促されるまま向かいのソファーに腰掛け、ジョルノはオレの顔を真っ直ぐ見て資料らしき紙の束を差し出す。

「組織の重要書類の一部が持ち出されたようなんです」

「おいおい…それを取り返せってのか?それはオレの能力じゃ…」

「いいえ、絶対に漏れては困る情報なんです」

「あぁ…、じゃあオレだな」


ジョルノが言わんとする事に気づいて、一つ頷いた。
つまり、全員殺せと言っているのか。



「まだ誰にも渡っていなければ問題はないんです」

「分かった。んで?持ち出した奴は?」


ジョルノが取り出した一枚の写真を見て、オレは息を飲んだ。




「………名前」


見間違うはずもない。
探し続けていた名前が、写真の中でこっちを見ていた。


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