珍しいこともあるもんだ。
「ペッシ、ペッシ、ペッシよぉ!やりゃ出来るじゃねーか!!」
「ぐ、偶然だよ兄貴…たまたまブチャラティを見たって女が居たんだ」
「よくやったぞペッシ!」
今はそのラッキーをチーム全員で探していたのだ。何であれ、ペッシが拾ってきた情報はかなり価値が高い。
「でも、本当に駅なのか?」
「そう言ってたんだけど…」
ペッシはオレの顔を見て情けなく眉を下げた。それもそのはず、絶対に人目に付いてしまう駅に行くなど、…気でも触れたのか?
ともあれ、ようやく掴んだ情報を手に、ペッシと駅へ急行する。
「ペッシ、お前は列車の中から一号車へ向かえ!挟み撃ちだ!!」
ホームでブチャラティを見つけた時には、マジにビビった。
(バカなのか?)
そんな疑問を抱かずにはいられなかった。
まさか、カメのスタンドで隠れて列車に乗るなんて、普通は考えつかないからな。
「恐れ入ったよ」
だから、この言葉に偽りはない。
ブチャラティは頭の良い…かつ、覚悟の出来ている男だった。
なるほど、幹部に相応しい。
まさか、自分の命までもここまで平等に計りにかけることが出来るとは…。
唯一の命綱はペッシのビーチボーイ。
時速150キロもの地獄に落ちるか、落とされるか。その瀬戸際だった。
「落ちて行くんだな!時速150キロの地獄へ!!」
「クッ…スティッキーフインガーズ!!!」
文字通り蹴落とそうとするオレに、ブチャラティのスタンドがパンチを繰り出す。だが、その動きは老化のせいでのろい。
両手でラッシュしようという企みも、慌てはしたが見え見えだし、ガードも容易い。
「落ちて行けーーー!」
「やはり…ガードしたな」
両手を離して、ブチャラティはラッシュを繰り出したのだ。時速150キロの列車の外で。
落ちることも、身体を打ちつけて死ぬことも恐れていない。
そんな状況で、ブチャラティの目には強い意志が宿っていた。ラッシュはガードされ、オレには当たらなかったにも関わらず、まだ絶望してない。
(おかしい…!)
本来、ミスタのスタンドがブチャラティと一緒に居るのもおかしいのだ。
奴は確かに殺したはずなのだから。
(まさか、ツイてないのはオレの方か!?)
気づいた時にはもう遅かった。
ビーチボーイの特性を利用することを考えたブチャラティが、一枚上手だった。
考える間もなく地面へ叩きつけられ、世界が高速で揺れる。
無我夢中で伸ばした腕がギリギリ列車に届き、死に物狂いで隙間へと身体を滑り込ませた…が、正直記憶にない。
気づくと列車の隙間だったと言った方が正しいくらいだ。
身体を動かすこともままならず、痛みよりも熱を感じた。
(熱、い……。)
(オレは…死ぬ……のか?)
思えば、オレの人生は死に満ちていた。
家族も、友人も。
敵も味方も…。
オレのスタンドは、大量の人を死に追いやる。
いつも、異形の姿で死ぬその姿が、自分の能力であるにも関わらず、酷く気持ち悪かった。
(ペッシは…まだ、戦っている…か?)
「ぐ…グレイトフル…デッ、ド…」
きっと最後のスタンド。
せめて弟分を有利に戦わせねば。
だが、長くは保たないだろう。
(ソルベ、ジェラート…ホルマジオ、イルーゾォ。オレも…助かりそうにない)
人に死を与え続けて生きてきたんだ。死ぬことは怖くない。
怖いのは生きたまま失うこと。
仲間や大切な人達の死。
願わくば、オレが最後であって欲しい。
「栄光は…お前に………ある、ぞ…」
崩れていくグレイトフルデッドが、哀しげに見える。
死ぬのが悲しいのか?
鼻につく充満した血の臭いは、久しぶりだ。
(もっと……あの平和ぼけした生活を続けたかった…)
(………もっと、一緒に居たかった。…………幸せで居てくれ…名前)
「勝って…ボスから逃れれたら……一目逢いたかった…」
あんなに熱かった身体は、いつからか凍えるような寒さを感じさせていた。