デートの支度をするオレに、リゾットはチラリと横目で視線を投げて薄く笑う。

「ご機嫌だな」


当たり前だろうが。
一目惚れした女を落として、尚且つこれからデートなんだ。
今ご機嫌じゃなかったら、いつご機嫌になるんだよ。
薄給貰った時か?
ありゃあ泣ける。
ジェラートやソルベがボスのこと調べたくなる気持ちも分かる。
そう言えば、昨日からアイツ等を見てないような…まぁ、数日くらいならよくある話だ。二人とも強いから問題ない。
チョイとキレてる事の方が問題なくらいだ。


「プロシュート!」

今日も笑顔が天使な名前にキスをして、そっと手を握った。
ふっくら柔らかい唇が、幸せそうな笑みに歪む。それを見るのが何より好きだ。


「今日はどこに行きたい?」

「海の側に行きたいわ」

「ベネ」


肩に手を回すと、名前は照れくさそうにはにかむ。
おずおずと腰に回される腕も、初々しくて可愛らしい。
そう言えば、こんな初々しいつき合いは、久しくしていなかった気がする。
それどころか、自分から誰かを口説いたのも初めてな気がする。
ふとその事に気づいて、胸の中にあった違和感の正体を知った。


「プロシュート?」

「ん?どうした?」

「タバコの灰、落ちそう」


見ればぼんやりしている間に燃えちまったタバコが、今にも落ちそうにグラグラしていた。
慌てて地面に灰を落として、短くなったタバコを踏み消した。もったいねぇ…。
細いカッレを抜けると、開けた視界に海が広がる。
建物に邪魔されて、カッレでは風があまり吹かないから、この瞬間に吹き抜ける風が一番好きだ。
圧迫感でじんわり滲んだ汗が、この瞬間に乾かされる。


「海は久しぶりなの!」

「そういや、オレも久しぶりだな」


青い海にキラキラ照らされて、名前は楽しげに笑う。
正直、砂が髪や服に付くし、靴の中に入り込むし、面倒だから砂浜は好きじゃないんだが、そんなに喜んでくれるならまぁ良いかと思わされる。
風に髪がなびいて、ふんわり名前の香りが届くのも良い。


………………。




変態かオレは…。






「見て、プロシュート!!」

白く、虹色に輝く貝を拾った名前が自慢気にそれを差し出す。
いつの間に拾ったのか、つるつるになった…しかし妙な形の石も差し出して笑う。
犬…みたいだ。


「なんだこりゃ、…変な形だな」

「ふふ…」

「なんだよ、その笑いは…」

「なんでもないよ。ホント、プロシュート大好きだなと思って」


よくすぐそんなこっ恥ずかしいセリフを言えるな。
そう言ってからかいたいのに、恥ずかしすぎて上手く言えない。
誤魔化す為につけたタバコを持つ手が震えた。


「プロシュート、大好き」

「人が落ち着こうとしてるのに、追い討ちかけるか?フツー…」


「え?何?」


小さく悪態をついたオレに目を丸くする名前を抱き締めてキスをして「何でもない」と笑えば、今度は名前が赤くなっていた。

本当、可愛い奴。

オレがこんなに愛でた女は…。
ふと過ぎった思考に蓋をして、もう一度柔らかな唇にキスを落とした。
このままずっと、時が止まってしまえば良いのに。


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