ひねくれていることは分かっている。
そう心内で納得しながら、メローネはパソコンを叩いていた手を止めた。
「名前を泣かせてみたい」
そんな風に突然投下されるメローネ爆弾にも、驚く人間はチームの中にはすでに居ない。
悲しいかな人間は馴れるもので…メローネの常識的な発言の方が違和感を感じるほどに、チームのメローネに対する常識は壊れていた。
だからこそ、今回のメローネの発言も「またメローネが変なことを言っている」といった具合に流されるはずだった。
「良いなそれ」
暇でさえなければ。
メローネの発言に一番に飛び乗ったのは、珍しいことにプロシュートであった。
「メローネ、たまには良いこと言うじゃねーか」
「プロシュート、さてはお前暇なんだろ…しょうがねーな」
雑誌を捲る時とは打って変わって生き生きとするプロシュートに、ホルマジオはガリガリと頭をかき混ぜて笑う。
呆れたように言いながら、しかし彼ですらも前のめりである。
「じゃあ、誰が一番に名前を泣かせるか勝負しようぜ?」
ソルベがジェラートと肩を組んでニヤニヤと嫌な笑みを浮かべると、ギアッチョがギリッと歯を鳴らした。
「馬鹿じゃねーの、お前ら!!くっだらねー!!!」
ようやく真っ当な意見が出ましたか。
小さくため息をついたリゾットは、部屋の隅のソファーに座り直して窓の外を見た。
寒い季節の、比較的暖かい日だった。
外を行き交う人々は心なしかホッとしたような柔らかな表情を浮かべている。
いつの間にかほんの少しだけ治安の良くなったその界隈で、暗殺チームに回ってくる平和な仕事は彼らを退屈させていた。
ふと下を見下ろすと、立ち話をする主婦に捕まって愛想笑いを浮かべる名前が見えた。
大分見慣れた愛想笑いを眺めながら、リゾットはカプチーノを飲み干した。
「大体、仲間を泣かせてどーすんだよ。あんな弱い女をよぉ」
「アイツは弱くねーよ」
どこか悔しそうにするイルーゾォは、名前があまりにも自分達を頼らない事を不服としている節がある。
もっと甘えてもらいたいのだろう。
「確かに」と呟いたペッシに、ギアッチョは何か言いたげにもごもご口を動かし、メローネに向き直る。
「だとしても、暇つぶしなら他のことにしろよ!」
「分かってねーなぁ、ギアッチョ。これが良いんだよ…名前が泣くってのがね」
ニヤニヤ笑うメローネはポンとギアッチョの肩に手を乗せる。
最高に品のない、悪いことを考えている顔だ。
「考えてもみろ…
“止めて”と涙ぐむ名前を…
目には涙。頬をうっすらと赤く染め、その柔らかな唇から零れる吐息は微かに震える…
そそるじゃねーか!」
暗殺者辞めて官能小説でも書いてろよ。
ぐっと眉を寄せていたギアッチョは、メローネの言葉通りにイメージしてしまったのかジワッと耳まで赤くなると、「うるせー!変態メローネ!!!」と怒鳴って部屋を飛び出した。
純情少年ギアッチョ。
「何あれ、暗殺者らしからぬ可愛い反応だね」
クスクス笑うジェラートは立ち上がると、ソルベと共に部屋のドアへ向かった。
部屋を出る前にクルッと振り返り、「負けたら一日、勝った人間の言うことを聞かなきゃいけないってのはどう?」と清々しい笑みを浮かべた。
そう言えば、部屋の大掃除をしたいとぼやいていた…。
「えぇ!?金を賭よーぜ」
「さては給料前で金がないな、メローネ?」
「金無しじゃテメーが賭けるもんがねーだろうが、しょうがねーな…」
「身体で払えば問題ねーだろ?」
メローネが言えば問題は大ありだ。
あーだこーだと言い合い、結局ジェラートの意見が採用されたのは、みんな賭ける金がないからだろう。
暇つぶしとはいえ負けると使いっ走りにされるのはごめんだと、全員が作戦を立てるために部屋を後にした。
一人残されたリゾットはため息をつき、部屋の片隅に置かれた冷蔵庫を開いた。