混部パラレル | ナノ


仗助がここにたどり着いて、早くも二日が経過しようとしていた。
ほんの少しだけここでの生活に馴れ、承太郎やジョナサンとも普通に会話をして、冗談を飛ばせる様になった。
ただ一つ馴れないことと言ったら…


「仗助、そろそろオレの事、パパって呼んでも良いんだぜ?」

この、ウザさマックスのジョセフである。
人は歳を取る毎に落ち着きを手に入れるらしいが、このジョセフが杜王町で出会ったあのジョセフまで成長するとは俄かには信じがたい。
チャラい。底抜けにチャラい。
現役高校生の仗助よりも、よっぽどチャラい。(敢えて承太郎のことには触れないことにする)


「ジジィ!!うるせーぞ!!!!!」

「孫が怒ったー!!!」

「………頭が痛くなりそうだわ」

「だな…」

幼稚園児かよ…。
テレビで相撲を見ている承太郎に怒鳴りつけられ、ジョセフはわざとらしくビヨンと跳ねる。承太郎の落ち着きも、果たして高校生としてどうかと思うが、今は思わずにはいられない。

ーグッジョブです。承太郎さん。

内心でそう呟いていると、ジョセフが承太郎の見ているテレビを見て動きを止めた。
相撲にでも興味があるのか、はたまた何か妙ないたずらでも思いついたのか…。(仗助個人的には後者が有力)
疑いの目で仗助とジョリーンに見守られる中、ジョセフは目を丸く見開いてテレビを指さした。


「おい、何か妙じゃあないか?」

何が妙だと言うのか。
仗助がテレビを見てみても、(普段相撲はあまり見ないが)おかしなところなど見受けられない。

「何が言いたい?」

承太郎が振り返ったのは、ジョセフがふざけて言っているわけではないと判断したせいだろう。
現に、ジョセフの顔は真剣そのものである。
そこに、茶菓子を片手にジョナサンが入ってきた。…ずっと何かしらを食べてませんか??


「ん?何?どうかしたの?」

目をぱちぱち瞬かせるジョナサンに、ジョセフはテレビを指さす。
そしてジョセフは、さっき三人に言ったときと同じように、今一説明不足な言葉を繰り返す。


「ずっと気にしてなかったけど、よく考えると変だよな?」


そんな曖昧な説明で分かるものか。
しかしジョナサンはジョセフのわざとらしいほどの説明不足を気にも留めずに、「どれどれ?」とテレビを覗き込む。
無言のまま、ジッと相撲の様子を眺め、ジョナサンは「そうだね」と真剣な面持ちで呟いた。
あの説明で分かったと言うのか!?



「よく見ると、すごく変な格好だ!!紳士ではないね!!!」

その通り。紳士ではない。力士である。
しかし、それをどや顔で言ってのけるのが、彼が天使と評される所以である。
「どうだ!分かったぞ!!!」と言わんばかりのジョナサンに、もう正直なんと声をかけるべきか分からない。
承太郎が「やれやれだぜ」と言いながら勿体つけるジョセフに目線で「さっさと説明しろ」と促し、ジョセフは笑いながらテレビの前に立った。


「やだなー爺ちゃん。そこじゃないって」

お前の説明が悪いのだ。寧ろ、わざとだろ。
「期待を裏切らないなー」とひとしきり笑ったジョセフは、もう一度テレビを指さす。



「気にしなかったら、ずっと気付かなかったと思うんだけど、俺の時代の番組じゃねーんだよなぁ」

「「「!!!!!!!」」」


目から鱗である。


「確かに、そう言われると…」

仗助も画面を覗き込み、ジョセフが言うとおりであることに気付く。
観客の服装や髪型が、どう見ても一昔前だ。(髪型に関しては、仗助に言われたくない。と言い返されそうだ)
承太郎は一度テレビを消して、仗助にリモコンを渡した。


「点けてみろ」

承太郎の意図に気付き、仗助は眉を寄せた。そんなことが有り得るのか、俄かには信じがたい。
頷き返して、仗助は恐る恐るテレビをつけた。


「グレートですよ…、コイツは…」

画面いっぱいに、確かに仗助が暮らす杜王町の景色が映し出されていた。
地域活性化の一環として招致されたのだろう。
いくつか出来た名所などを、そこそこ有名な芸能人たちが紹介して回っている。


「この番組…。そう言えば、おふくろが見たいって言ってたっけか?」

気付かなかった。
そりゃあそうだ。それぞれに見たいものが見れるのだから、不自由もない。
不自由しないものに、疑問なんか抱くはずもないのだ。


「ジョセフ、すごいじゃあないか!!」

ジョナサンの言葉に、誰も反論も否定もしない。
「これがオレの実力だぜぇ!!」なんて調子に乗るジョセフを、全員がただ見ることしか出来なかった。
信じがたいが意外と頭脳派なのか?(しかし、そうは呼んでやらない)



「しかし、こうなってくるとますます分からないわ。どうしてこんな事に…」

ジョリーンがそう言って頭を抱え、部屋が静寂に包まれる。
どうしてこんなことになってしまったのか、誰にもその答えは分からない。


「誰か…もう少し事情に詳しい人が現れればなあ…」

ジョナサンが呟き、各々が顔を見合す。
これより他のジョースター家…?
もしくは、それとは全く異なる誰か???
全員が全員、思考も行き詰ったその時…


−ピンポーン…

仗助はこの家にたどり着いて初めて家の呼び鈴がなったのを聞いた。
もちろんジョリーンも初めてだ。
ジョナサンは四度目。
ジョセフは三度目。
承太郎は二度目だった。


「…誰か、来た?」


空気が一瞬にして凍りつき、固唾をのむ。
そして誰も一言も喋らないまま、玄関へと向かった。