混部パラレル | ナノ


「お前がなかなかの手だれだと聞いてな」

「帰れ」


丁度昼食を終えた頃に尋ねてきたリゾットを、承太郎は冷たい視線を向けたまま一刀両断した。
ここにきて誰かと戦闘したわけでもないのに何がどう伝わって本物の暗殺者に強者評価されているのか理解できないが、隣でそれを眺めていた花京院が「すごいじゃないか!!」と目を輝かせているので殴る許可をもらいたい。(だが断る!!byジョナサン)


「先日そこの・・・」

「花京院です」

「そう、花京院がウチのメンバーと一緒に居たときのキミの気迫が、仲間内でも結構上位に食い込めるくらいすごかったと聞いたから」

「つーわけだ。俺達の新米にそれを見せてやりたくてな」


プロシュートがそう言ってズイと前に押し出してきたのは、パイナップルの様な髪型に定評のあるペッシだ。
おどおどしている様子は、確かに暗殺者とは言い難い。だからと言って、ただの高校生である承太郎に会わせるのもどうかと思うが。札付きの悪でも、暗殺者に教えることなど何もない。


「いーじゃねーか。ついでに恩でも売っとけよ。学校始まったら成績上乗せしてもらえるかも知れねーぞ」

「ジジィはすっこんでろ!!!」


へらりと笑うジョセフを一蹴すると、ペッシがビヨンと飛び上がっていた。そんなに迫力を出したつもりもない。彼の肝の小ささはギャングとして些か問題があるのではないだろうか。


「ふーん・・・ホルマジオの言い分を鵜呑みにしていたわけじゃあねーが、確かに面白そうだ」

「承太郎、流石だね!いやー、ただの高校生ではないと思っていたんだ」

「花京院、良い子だから黙ってこっちおいで」


無自覚に承太郎を煽り始めた花京院を見かねたシーザーが、花京院を引き寄せて背後に隠した。
誤魔化すように渇いた笑いを貼り付けて来客用のお茶と茶菓子を出すと、にゅっとリゾットの後方から手が伸びてきた。いつの間に現れたのか、確か彼は・・・


「ついてきていたのか、メロ−ネ。挨拶を先にしないか」

「ン?あぁ、チャオ!俺、メローネ☆宜しくね!!」


よろしくなんかしたくない。
単語を並べた挨拶をしたメローネは、一応ジョナサンに挨拶をしたと強引な主張を貫き通してリゾットの隣に座る。
メローネが徐倫を口説こうとしていたことは記憶に新しいので、承太郎の眉間の皺がグッと深いものになっていた。


「ホルマジオが、俺にも行けってうるさいからよぉ」

「逆鱗に触れさせようって魂胆見え見えだな」


呆れたようにジョセフは呟いたが、これには花京院も僅かに顔を青ざめさせた。
リゾットが承太郎を怒らせることはないだろうが、メローネのこれまでの言動から承太郎と彼との相性が最悪なことは誰にでも分かる。花京院にも分かる。
ここに徐倫がいない事がせめてもの救いだった。


「まぁ良いんだよ。こっちからわざわざ出向いたのも、なにもオメーを怒らせるためだけでもねーしな。ここに来たら会えるかも知れねーって聞いたからよ」

「は?何にだ?」


ジョセフが眉を寄せると、辺りをキョロキョロ見渡したプロシュートがにやりと笑う。
その視線の先には燭台の小さな炎の輝きをキラキラと反射させる金髪二人。
仲睦まじさがいよいよ犯罪の匂いすら感じさせるようになってきたジョルノとDIOだった。


「どこからその情報を?」

「街歩いてたら変な髪形の男を見つけてよぉ、そいつから聞いたんだ」

「変な髪形って、少なくともお前に言われたくねーだろうな。お前のその頭、どうやって結んでんだ?」


ジョセフの髪の跳ね方も大概不可解だが、プロシュートの謎めきヘアーも負けてない。睨みあう二人のどっちもどっちな主張を尻目に、シーザーはリゾットを振り返った。


「どんな男なんだ?」

「なんでも、色々な人間に事情を聞いて取材をしていると言っていたが・・・名前は確か・・・「あ、もう大丈夫です。誰か分かりました」


相手の言葉を遮った仗助は目を細めて、浮かび上がった犯人…岸辺露伴が一体誰のどこまで踏み込んだのか考えようとして、間もなく放棄した。
きっと暗殺者相手にも物怖じせずに取材したに違いない。目に浮かぶような光景に、関係のないこちらまで頭痛を感じる。
承太郎はハァと溜息をついて頭を抱えた。これからさらに人が増えたらと思うと、嫌な予感しかしない。そもそもこの奇妙な日常を穏やかに過ごそうとする人間はいないのか。


「やぁリゾット、遅くなってゴメンね。今日は承太郎を訪ねて来たって聞いたから、ちょっと調べ物を優先させてもらったんだ」

「いや、構わない。これが例の頼まれていたものだ」


何かの紙の束を抱えて来たジョナサンとリゾットの、自然な会話が恐ろしい。
本気で暗殺者を教員に見立て、本気で学校運営を始めようとしているのだろうか。
というか、どうしてそんなに馴染んでるんですか。


「なるほど、じゃあ学校の件はもう少し煮詰めながら準備するって事で良いかな?」

「そうして貰えると助かる。こちらも準備万端とは言えないからな……」


いつまでも準備が整わなければ良いのに。
花京院と承太郎、そして仗助の三人の願いはジョナサンには届かない。
プロシュートとメローネはそんな三人の様子に気づきながらニヤニヤ傍観するのみで、リゾットには届く由もない。
この世のほとんどが天然と天使で構成されていて、数少ない常識人である仗助は頭を抱えてため息をついた。
こんな事なら、部屋に教科書を保管するんじゃなかったと切に思ったのだった。