混部パラレル | ナノ


花京院典明は、ジョナサン達と再び街を訪れていた。
教科書を発見し、学校へ通えるように手配を進める為であるが、正直これには興味がない。
承太郎や仗助達と学校に通えることは嬉しいが、そもそも学校が嫌いだった。
校舎の中へと入り、ジョナサンに学校に早く馴れたいからと断って(もちろん嘘)から校内をブラブラすることにした。


「あぁ、校舎の屋上だと流石に街が見渡せるね・・・」


頬を撫でる風にホッと息をついて、制服の詰襟を少し緩めた。
いくらいつもこの格好で居たからと言って、この世界でまで制服しかないなんて堅苦しすぎる。裁縫が出来る人が居たら服を作って販売して欲しい。
校舎屋上のフェンスに手をかけて街を見下ろす。
元の世界でもしていたが、この世界で同じ事をしてみると違う意味を持つ気がした。


「誰だオメー?」

不意に背後から声をかけられ、慌てて振り向く。
確か先日見た記憶がある赤毛のガリガリ坊主頭の男と、見たことのない黒髪の男が立っていた。


「だから俺は知らない奴らが来てる内は酒なんか飲まないって言ったんだ」


不機嫌そうに黒髪の男が言うと、「ちぇ・・・」とホルマジオが花京院に舌打ちをした。
どうやら昼間から酒を飲むためにここに上がってきたようだ。乗り気ではない黒髪の男と目が合い、花京院は曖昧な笑みを返した。


「あんた、何してるんだ?」


長い髪をいくつもの束に分けて結んだ男は、風になびく髪を鬱陶しげにかき上げてそう言うと、眩しそうに目を細めた。


「暗殺者の住む場所で一人になるなんて気が知れない」


そう言えばそうだった。
学校が憂鬱すぎて忘れていたが、ここに住む男達はまぎれもない本物のギャングで、しかも暗殺チームの面々だったのだ。平和ボケして失念していた。



「余程の実力者か、スタンド使いだろう」


ホルマジオは手に持っていたワインボトルをラッパ飲みし、ギクリと肩を強張らせる花京院を眺めて笑った。




















「ったく、どうして花京院一人で行かせちまったんだ」

「ダディが煙草を隠れて吸ってるからでしょう?ジョナサンが花京院の学校嫌いを見抜けるわけがないじゃない」


こっそり煙草をふかすべく一同からはぐれた振りをしていた承太郎は、戻るや否や花京院が居ないことに首を傾げた。しっかりしているくせにどうもそそっかしい彼が、暗殺チームの巣を一人で歩き回っているなんて・・・きっとここに住んでいるのが暗殺者だという事を忘れているに違いない。
彼もスタンド使いとしてはかなりの力を持ってはいるが、旅の道中では何度も危険な目にあっているのだから心配にもなる。
性質の悪い暗殺者に絡まれて居なければいいが、と溜息をつき、全員で探すことになった。
ジョナサンは暗殺チームの面々を信用している風なので、「花京院は方向音痴なんだ」と嘯いて捜索に協力してもらっている。


「しかし、承太郎さんにもそんな友人が居たんすねー」


「なんかホッとした」笑う仗助に、徐倫は「仗助も見たことないの?」と首を傾げる。
その二人の会話に眉間の皺を深くした承太郎は、交互に二人の顔を見て「どういうことだ?」と尋ねた。
承太郎の表情は未来に花京院の存在がないだと?と言わんばかりだ。できれば言葉で語って欲しい。


「いや、そもそもダディはほとんど家に居なかったから・・・」

「俺も、承太郎さんはアメリカから俺を探して日本に来ただけだったっすから」

「・・・そうか」


一先ずこの件についてはこれ以上は分からない。
微妙な空気になってきた三人の耳に「やったーーーー!!!!!!」という歓声が飛び込んできた。
顔を見合わせ、その声が花京院のものだと確信した三人は声の方へと走り出す。
いくつも並んだ教室の、廊下突き当たりの一際大きな教室の扉を乱暴に開ける。
バンっと鼓膜が破れそうなほどの騒々しさを持ってして開かれた扉の向こうで、驚きに固まった花京院が居た。


「・・・じ・・・承太郎・・・?どうしたんだい、そんなに慌てて・・・・・・」


瞠目した花京院は手に握っていたコントローラーを体の前にしっかり抱きしめて身体を硬直させ、彼の奥で煌々と光るテレビ画面には“YOU WIN”の文字。
隣でワインを飲むホルマジオが事の成り行きを見守るように視線を往復させると、花京院の隣でイルーゾォが花京院以上に驚き顔で固まっていた。


「花京院・・・」

承太郎の声に、仗助と徐倫も肩を跳ねさせた。
明らかな怒気を孕んだ声は地を這うほど低く、身を切り裂くような鋭さを持っている。さすがの花京院もサッと顔色をかえ、ホルマジオもそれには驚いたように目を丸くしていた。


「テメーは・・・俺を、怒らせた・・・」


死亡フラグが立つとは、今この瞬間の事を言うのだと、花京院は悟った。