混部パラレル | ナノ


「誰???」


とりあえず日も沈みかけたので一度帰宅しようと決め、一同がジョースター家に帰ると、見知らぬ男がキッチンで料理に励んでいた。
目を瞬かせるジョナサンを振り返った男は、「あぁ」と呟くと、エプロンを外して恭しく頭を下げる。


「私はテレンスと申します。DIO様がこちらにお世話になっていると伺い、駆け付けさせていただきました、DIO様の執事でございます」

「し・・・執事・・・????」


どうやらジョナサンの知る執事像とは大きく異なってはいるが、テレンスは「はい」と即答してニコニコと笑顔を取り繕っている。
ジョナサンの知る執事はタキシードをかっちり着込み、間違ってもターバンのようなものを巻いたりしない。とは言え、国が違えば礼儀作法も違うもの。
彼の出身国がどこなのかは知らないが、もしかすると彼の国ではこれが正装なのかも知れない。


「君はインド辺りの出身なのかい?」

「いいえ、アメリカです」


なるほど。
全然違ったようだ。


「しかし、DIO様はエジプトに拠点を置いていらっしゃいましたので」

「あぁ!なるほど!!!」

「じいちゃん、何か説得されてるっぽいけど、俺は怪しいと思うぜ」

「ジョジョの言う通りです。俺もジョナサンさんが留守の隙に上がり込むような輩は信用出来ません!!」


ジョセフの言葉にシーザーが同意する。
そうは言ってもDIOの執事なのだから、例え自分達と入れ違ってでも、この家に辿り着いて主人であるDIOに合う事が出来たのであれば、テレンスが執事としての仕事をするのは当たり前だ。


「執事・・・。流石ですね、パードレ」

「フン、大したことでもない」


はい、無駄無駄。
何があったのか知らないが、完全にジョルノがDIOを慕う図式が出来上がった仲良し(デレデレ)親子に、最早立ち入る隙もツッコむ気力もない。


「お世話になるわけにはいきませんから、責めてDIO様のお世話をするために通わせていただきたいのです」


むしろDIOを引き取っていただきたい。
そうは思ったが、DIOはジョナサンの兄弟だし、ジョルノが懐いているので提案しづらい。仗助は目を細めたまま、口には出せない意見に溜息をついた。


「そうだね・・・部屋も足りてないし・・・住ませてあげられなくてごめんね」


本気で申し訳なさそうにするジョナサンに、承太郎と花京院は部屋数が足りないことを心から感謝した。
宿敵であるDIOとの休戦に問題はないが、仲間が着々と集合するのは頂けない。しかしジョナサンのことだ、部屋数さえあれば招き入れてしまうことは容易に想像できる。


「いいえ、とんでもありません」


テレンスが再び頭を下げて礼を告げると、DIOがフンと鼻で笑った。


「心配するな。家を建てれば出て行く」

「「えぇ!?」」


声を揃えたのはジョナサンとジョルノだ。
DIOが一緒とは言え、ようやく馴染んできたこの面子での生活が、何となく名残惜しくもあったのだろう。
思わず口をついて出た声に驚いたように、ジョルノは慌てて口を塞いだ。


「・・・そうですね、いつまでもお世話になるわけにも・・・」


ジョルノは思い直したように冷静に大人な意見を述べ、DIOの言葉に賛同した。
それを否定したのはやっぱりジョナサンだ。


「何を言ってるんだい!!僕達は奇跡で出会えた子孫。家族なんだよ?お世話になるんて他人みたいな事を言わないでよ」

「それは・・・そうですが・・・」


ジョナサンの意見に圧倒されるように後ずさると、ジョルノは困ったように眉を寄せてDIOを伺った。こんな風に意見が二つに割れた時一番辛いのは、板ばさみになった人間だ。
どっちの意見も正当だから尚更だ。


「人の話をよく聞かないのは良くないぞ、ジョナサン。
“建てる”と言っただろう。私はこの家から離れた場所には住まない。隣にでも家を建てるとしよう」

「隣・・・?

それなら・・・・・・


うん。ジョルノ、いつでも遊びに来て良いんだからね!!もちろんDIOもだよ!!!」


まるで引っ越していく親族を見送るような言葉で、今すぐにでも出て行かなければならないような空気になった気もしなくはないが、ジョルノはジョナサンにガシッと掴まれた腕を見つめて、先ほどのものとは違う困ったような笑みを浮かべた。
家族というものにも、更には愛情というものにも馴れなくてむず痒い。


「………離れた場所には住めない、とも言えるがな」

「ん?何か言ったかい??」


ジョナサンの言葉に「いいや」と短く答えたDIOは、それよりと話題を変えた。
DIOの提案で、今日の収穫について話しながら食事にすることにした。
花京院が最初に手伝いを申し出て、それに習った全員が手伝う形で食事の支度を整え、ズラリと並んで席に着く。
いつの間にか増えた人間が、「広すぎるのでは?」と思えたテーブルを埋めている。
ジョナサンに言われてテレンスもそこに加わり、賑々しく食事が始まった。



「そんなわけで、みんなを学校に通わせたいんだ。教師の候補は見つかったんだけど教材がなくってね…」

「じいちゃん、その計画が生きてたことに俺は驚愕してるぜ」


ズビズバーとパスタを食べていたジョセフも、あまりの驚きにフォークを取り落としかける。相変わらずの食事作法にDIOとテレンス、そしてシーザーが顔をしかめているが、そこには気付かない。


「だって学生なんだから!!ちゃんと通うべきだよ。勉強は学生の本分だからね」

「俺には必要ねーぜ」

「承太郎だって学生だろう!!」

「・・・やれやれだぜ」


鼻息も荒く理想図を語るジョナサンを眺め、DIOは溜息をついた。
ワイングラスをユラユラと揺らし、チラリとジョルノを見てそのグラスの中身を飲み干す。


「ジョルノも学生だったな」

「えぇ・・・一応」


何を隠そう、ジョルノはギャングスターでありながら中学生でもある。中学生…あんまりにも落ち着いているから忘れてしまいそうだ。
恐ろしく頭がキレる中学生も居たものだ。


「ならば私もジョルノに学校に行かせる義務があるか・・・」


フムと腕を組み、DIOは仕方ないと呟いた。



「教材ならこの家にはゴロゴロしているではないか。知っていて黙っていたのか?
なぁ、仗助?」

「ぅ・・・」

「・・・どういうことだい?仗助」


DIOの言葉でギクリと肩を揺らした仗助に、ジョナサンの視線が突き刺さる。



「承太郎は部屋に教材を置いてないようだが、仗助は部屋に教材を保管していたのだろう。この家には何故か、元々住んでいた世界の自室に置いておいた物が揃っている」

「え?」

「そういえば、僕の部屋にもゲームがあった・・・」

「ゲーム?・・・テレビゲームですか??」

「そう、F-MEGAっていうゲームが特にお気に入りでね」


フフンと自慢げに笑う花京院に、意外にもテレンスが興奮気味に食いつく。二人の間でF-MEGA談義が始まりかけ、DIOが面倒くさそうに「話を戻すぞ」と手を叩いた。
二人は食後にゲーム大会を始める約束をして、DIOの言うとおり話を元に戻す。
やれやれだぜ。


「どうして黙ってたんだ?仗助」


親に怒られるような気分だ。
何と言い訳するか迷う仗助を尻目に、DIOは再びフンと笑った。


「大方ろくでもない連中を教員に選ぼうとしていたのだろう」

「おぉ、アンタたまに勘が冴えるなぁ」


ジョセフの褒め言葉に「“たまに”は余計だ」と眉を寄せ、自分の予感が当たっていたことにDIOは再び溜息をついた。
学生は学校に行くべきだというジョナサンの主張は正しいが、どうして教員選びが雑なのか・・・。


「このDIOが教えたほうがマシなんじゃあないか?」

「「「「「だが断る」」」」」


DIOの提案は、学生達からの猛反対であっさり却下された。
ジョルノが「僕はパードレの教鞭でも・・・」と励ましていたが、DIOは唇をキュッと閉じて目を細めていた。
まさかとは思うが…拗ねて・・・・・・いるのか?
意外と可愛いところがあるのがDIOの愛されポイントだろう。憎みきれない何かを感じさせる。


「仗助が持っているのは、高校の教材なの?」

「あー・・・」


仗助はポリポリと頬を掻き、チラリとDIOを確認すると諦めたようにうな垂れ、「小学校のから全部あるっス」と答えた。
母親が綺麗にまとめて箱に入れておいたのだ。
ちなみに、綺麗なままなのは自分の使い込みが甘いから・・・って、ほっとけ!!


「じゃあ明日早速頼みに行かなきゃね」


張り切るジョナサンに、一同がこれから先を思って溜息をついたことは言うまでもない。
かくして、昨日までの敵味方を巻き込んだ奇妙な学生生活が始まることになる。