混部パラレル | ナノ


「人殺しの出来ない街で俺達は最も無能な集団だぜ…」


プハーッと豪快に紫煙を吐き出すのは先ほどから不機嫌な金髪美人のプロシュートだ。
いかにも学校の設備らしいパイプ椅子にドカッと腰掛け、“兄貴”と仲間に慕われるプロシュートは酒を煽った。
実に男らしい…。

「大したもてなしは出来ないが…」


取りあえず中に、とリゾットに導かれて入った建物の中の一室で、長机をいくつも使って会議でも始めるように二組が向かい合って座る。
コトンと音を立てて湯飲みを並べたリゾットは、お盆を横に置いてテーブルの前に腰掛けた。
仗助や承太郎と花京院には分かる。


(なんてジャパニーズ・マザーを地で行く男なんだ)


思わず「おかん!」と呼びかけたくなるイタリア人(しかも男)に、三人は目を細めて口を引き結んだ。


「食料等の生活に必要な物は不自由しないはずだが?」

おかn…リゾットに冷静な指摘をした露伴は、こんなに日本的なイタリア人が居る事よりも、リゾットが言った「大したもてなしは出来ないが」との断りの方が圧倒的に興味を惹かれたようだ。


「確かに、ここにくる前と同じ水準での生活は出来ている気がする」


露伴の言葉を肯定するリゾットに、一同は目を細めた。
気づいてしまったのだ。言葉の真の意味に…。
謙遜なんて日本の文化だ。
そんな事をしない文化の国の人間が「大したもてなしも出来ない」と言った。
それは、もとの世界での生活も、そもそも大したもてなしが出来ないレベルの物だったのだ。
暗殺って儲からないのか…?



「人殺しが出来るなら、人から奪えるんだがな」


物騒っ!!!
チッと舌打ちをした天パの少年は、並べられた茶菓子の饅頭をかじった。
だからどうして日本菓子なのだ?


「取りあえず、お前たちがこの世界で俺達の標的になることはなさそうだ。この世界から帰る手段を見つけるために手を組みたい」

「そうだね、僕たちからもお願いするよ」

リゾットの提案にジョナサンがニッコリ頷く。
ジョースター家サイドが順番に挨拶をした。もちろん子孫の関係も簡単に説明した。
驚くかと思ったが、何が起きても不思議のない世界だからとあっさり享受していた。順応性の高い男たちのようだ。
次に、暗殺チームサイドがリゾットの手によって順番に紹介されていく。



「じゃあ俺達だが、奥からソルベ、ジェラート…」

初っ端から、違う意味で不安な匂いがする。
長く並べたテーブルの向かいで、椅子を限界まで近づけて座った二人の距離感がおかしい。


「…は、恥ずかしくないんですか?」

花京院のズレた指摘は、あまりにも小声過ぎて両サイドの承太郎と露伴にしか聞こえなかった。
なんて思春期真っ盛りな反応。
多感な時期にデキてる男二人組は刺激が強いらしい。


「その隣がイルーゾォ、ホルマジオ、ギアッチョとメローネ」


完全に二人の世界だったソルベとジェラートはまだしも、イルーゾォは僅かに俯いたまま視線を誰とも合わせようともしない。
花京院がほんの少しだけ仲間意識を感じたのはまた別の話だが、そんな内気なイルーゾォに対してホルマジオはニヤニヤとこちらサイドを観察していてどうも居心地が悪い。
ジョセフがムッと不機嫌な顔を作っても、フンと笑うだけで効果なし。
ギアッチョは最初から不機嫌オーラ全開だったが、肘をついた左手で顎を支え、食べかけの饅頭の中身をジッと見つめている。
……虫でも入っていたのだろうか??
メローネに関しては、半分肌けたような服装にアイパッチがいかにも堅気ではないオーラを感じさせる上に、それだけではない…他のメンバーとは異なった、ただならぬ空気を感じる。
正直に言って怖い。仗助は後にメローネをそう評価した。


「女の子が居て嬉しいよ」

こればっかりだ。
徐倫はひたすら自分だけに視線を向けるこの男を、空気のように“見ないスキル”を習得した。
メローネが居る空間をシカトして、その後ろの壁を見つめる。


「フフ、その空気を見る目。ゾクゾクする。
ディモールト良いよ」

「おい、そこの変態…」

そう話しかけたのは意外にも承太郎だった。
メローネはようやく徐倫から視線をはずして、学生帽の下で光る承太郎のグリーンの瞳を見た。


「この女に手ぇ出したら殺せなくても殺す…」

「お?なんだお手つきなの??」

「ダディー…」

「……………そうだった、ややこしいんだった」


父親付きでは面白くない。
ため息をついたメローネに、リゾットが「大人しくしてろ」とため息をついた。
なるほど、暗殺チームってのは手の掛かりそうな面子だ。お疲れ様です。


「…続けるぞ。メローネの隣が、ペッシ、プロシュート、で、俺がリーダーのリゾットだ」


取りあえず名前を紹介し終えたリゾットは、座りながら「コイツ等の事で何かあったら俺に言ってくれ」と付け加えた。
やはりお袋である。
ペッシはぎこちなく笑みを作り、プロシュートはフンと鼻をならしただけ。
兄貴と呼んではいるが、どうも性格は相反する二人のようだ。

「九人居るんだね」

「あぁ、多いだろう…この辺で九人が住めるのはここしかなくてな…」

確かに今まで見てきた集団の中で、ジョナサン達を除けばリゾット達が最も大所帯だ。だが、バラバラに住むという発想はなかったのか気になるところではある。


「提案があるんだけど…」

「待ってくれおじいちゃん。俺、良い予感がしないんだけど…」


ジョセフの言葉にジョースターサイドの全員が頷く。
だが、そんな事で止まるジョナサンではない。
ニッコリ笑って「嫌だなぁ、悪いことなんか企んでないよ」と手をヒラヒラさせた。
企んでないから、余計に質が悪いと言うのに……。


「仕事を依頼したいんだ。支払いは食料品でどうだろう。僕達の方もまだ蓄えは十分あるし、畑でも出来そうな土地もたくさんあるからね」


ほら、ろくでもない。
グッと涙を飲むジョースター家の一同を、暗チメンバーと露伴は呆気に取られながら見ることしか出来なかった。
なんとマイペースな………。


「聞いていなかったかも知れないが、ここは殺しは出来ない」

「いやー、殺しの依頼じゃなくて、学校を運営して欲しいんだ。僕の子孫は、まだ学生が多いからね」

「断りたかったら無理にとは言わないんだぜ!?」

ガタンと立ち上がって提案するジョセフに「そうだ、無理にとは言えない」とシーザーが同意する。
…冷静に考えれば、あなた達は高校生ではないから、通う必要はないのだが。
ジョルノはその事に気づいていたが、暗殺チームの運営する学校に通うのは嫌だったので黙っていた。


「…あんたら、肉は持ってるか?」

「プロシュート、悲しい質問をするなよ」

ホルマジオは呆れたように言っているが、それこそが彼らの生活が切迫していると示している。
何より、その他のメンバーの動揺が半端ない。



「しかし、我々も学がしっかりあるとは言い難い。テキストもない状態で教えられることなど…」

「そうか…テキストは必要だよね…」

リゾットのもっともな言い分に、ジョナサンはうーんと唸った。
自分で作ることも出来なくはないが、内容を端から端まで覚えているはずもない。


「少し保留にさせてくれないか?もしも、テキストが手に入ったら、また交渉させて欲しい」


前向きな交渉は止めて下さい。
心を通じ合わせた一同がそうつっこむが、楽しそうなジョナサンが本当に子孫を思っての行動をしているために文句も言えない。


「こちらとしても仕事と食料は欲しい。前向きに検討させてもらおう」


そうきたか。
本格的に上手くいきそうな交渉に、最早仗助達は恨めしい視線をリゾットに向けるのが精一杯だ。
しかし、黒頭巾の男は飄々とそれを受け流す。


「リーダーは、そう言うのには存外ニブいから無駄だよ?」

メローネの言葉に、ガックリと肩を落とした。