混部パラレル | ナノ


「テメー…。まさか…リサリサか!?」

「他に誰に見えるのです?ジョセフ・ジョースター」


漆黒の髪をさらりと揺らし、スッとサングラスを外したリサリサは赤いルージュの引かれた柔らなそうな唇を綺麗に歪めた。


「初めまして、リサリサです」

「なんだよ、初対面から攻撃してきた俺の時とはずいぶん違うんだなぁ!!」

「ジョセフ、やめないか!!先生に失礼だぞ」


シーザーとジョセフのやり取りなど気にもかけないリサリサに、一同は慌てて自己紹介をする。



「空条承太郎だ」

「花京院典明です」

「ジョルノ・ジョバァーナです」

「岸辺露伴だ…」


順番に挨拶を交わし、次に手を差し出したのはジョセフとシーザーを宥めていたジョナサンだ。
自己紹介をするために手を差し出したのに、リサリサは目を僅かに見開いたままピクリとも動かない。


「えっと…ジョナ「………まさか…ジョナサン・ジョースターさんですか?」


自分の知り合いに会うとは予想外だった。
しかし、記憶力も悪くはないと自負しているにも関わらず、目の前の女性に思い当たる節がない。


「初めましてジョナサン・ジョースターさん。私はエリザベス・ジョースター。ジョセフの母です」












「「「ぬぁんだってぇぇぇえええ!?!?!?」」」












ジョナサンは目を飛び出させる勢いで見開き、自分に声をそろえた相手を見て再び目を見開いた。


「どうしてジョセフさんまで驚いているんですか?」


「花京院、そりゃあ俺だって驚くぜ!!!俺の両親は死んだってばあちゃんが言っていたんだぜ!?
しかもリサリサは波紋の修行の中で、養豚場の豚でも見るような目で俺を見ていた師匠!!
オー!ノーー!!そう言えば俺を助けるために波紋の修行に付き合うわけじゃあないって言ってたしよぉ!!!」


「落ち着けジョジョ!!!先生のことだ!!きっと何か考えがあってのことなのだ!!」

「これが落ち着いてなんかいられるかってんだ!!!」




繰り広げられるジョセフとシーザーの攻防を尻目に、リサリサはジョナサンに向き直るとぺこりと頭を下げた。


「訳あって、ジョセフの成長を寄り添って見届けることの出来ない母親でした。ふがいない母親で申し訳ありません」


これには流石のジョセフも、もう文句の言いようもなかった。
ジョセフの前に波紋の師として現れ世界の脅威と戦う準備を進めていたリサリサが、高慢で鼻持ちならないと思っていたリサリサが、今は恭しくジョナサンに頭を下げているのを見て、もう言葉を見つけられなかった。
シーザーの言うとおり、“彼女には彼女の訳”があったのだ。



「わけがあったのなら仕方がないよ。どうかこれからこの世界にいる間、ジョセフの事を見ていてやって欲しい」


ジョナサンがニコリと笑って告げた言葉に、ジョセフは赤くなったり青くなったり複雑な表情をしていた。
今更母親と呼んで甘えるには、師と弟子としての立場が確立しすぎている。



「ジョセフは母親と暮らしたらどうだろう?」

「待ってくれよ!!そりゃあ親子だってんならそれが正しい形かも知れねーが…「ジョジョ、私のことは気にしなくとも良いのです。…ジョナサンさん。この異変の中でしかこの様に子孫が集まることはないのでしょうから、ジョジョ…ジョセフをあなた方の側にいさせてやってもらえないでしょうか?」


リサリサが再び恭しくそう告げ、ジョナサンは「そういうことなら喜んで」と答えた。
近くに住んでいるからいつでも往来する事が出来る。
リサリサが住んでいるという家は、何の偶然か…はたまた狙ってのことなのか…柱の一族が住むマンションのすぐ隣の豪邸だった。
どうやらそこで、気心知れた人間と暮らしているらしい。
恐らくメッシーナとロギンズ、そしてスージーQだろう。近いうちに挨拶に行ったほうが良いだろう。
手を振ってリサリサを見送ったジョナサンは、ジョセフに「ジョセフも色々あったんだね」と短く労わりの言葉をかけた。


「そうなんだよなぁ。実は俺もなかなかの薄幸の美少年ってわけよ!」

「すぐに調子にのるその性格だけはどうにかならんものか、ジョジョ」

「誰が美少年だクソジジー」

「厚かましいのは誰に似たんでしょうね」

「ジョルノのにまでそんなこと言わせる男が俺の父親か…」


シーザーや承太郎に鋭く突っ込まれても笑っているジョナサンにとうとうジョルノまでもが眉を顰める。
何かにつけてジョルノを天使扱いしている仗助に、徐倫は目を細めた。
ちょっと現実見たほうがいい。
彼はギャングなのだから、本当に天使であるはずがないのに。
この先どんな人間に会うか分からないが、出逢う人間によってはその事を身を持って知ることになるのだ。
その時を思うと既に頭が痛い。


「仗助君は、名乗らなくてよかったのかい?」


花京院の言葉に目を瞬かせた仗助は、振り向いたジョセフと顔を合わせたまま沈黙した。
実の母親に“隠し子です”なんて紹介できるはずもない。


「お…追々…な」

「…ッスね」


どうやらお互いに意見が一致したらしい。
ちょっと対面しただけなのに、纏う空気が凛としたあのリサリサに隠し子がいる事を打ち明ければ、背筋の凍る結果に辿り着くのはあんまりにも容易かった。




「しっかし、どうも辿り着いた人間はここをすんなり受け入れて生活しているらしいな」


シーザーの言うことはもっともだ。
もう少し抵抗があってもおかしくなさそうなのに、この奇妙な状況をあまりにも簡単に受け入れているように見える。


「そうでもない。恐らく、ここに辿り着いてからずいぶんな日にちが経過したからだろう」


露伴の言葉に、一同は驚きを隠せなかった。
自分たちがこの場所に辿り着いたのが今日この日だと言うだけで、この街が現れ、ここに人が住み始めたのも今日だと思い込んでいた。


「かれこれ…一ヶ月は経つんじゃあないだろうか」

「僕達と同じくらいだね」


最初こそは困惑していた自分たちも、どうにかこの生活に馴れてきた。
そりゃあこの街に辿り着いた人たちが同じように馴れてきていてもおかしくはない。
リサリサも先ほどの様子から察するに、柱の男を見張りながらもお互いに危害を加えてはいないようだ。
どうにも腑に落ちない奇妙な話である。


「みんなどうやって生活しているのかな?」

「不思議と衣食住には苦労していない。恐らく全員がそうだと思う」


なるほど、自分達と同じらしい。



「仕事は?」

「もちろん僕は漫画家だから家で出来る事をしているが、他の人間が仕事をしているとは思えないが…」


そりゃあそうだ。
衣食住に苦労しないのに働く必要があるはずがない。


「どうにか皆が仲良く助け合って暮らせればいいのになぁ」


――――ジョナサンは理想論を唱えた☆

いや、無理でしょう。
敵対することはあっても、全員が仲良くなんて想像すら絶する。
気色が悪いにもほどがある。


「どうだろう…」


いや、聞きたくない。
ジョナサンがゆっくり口を開くのを、全員が青ざめながら聞いていた。
耳を塞ぎたいが、不自然だ。
だがこの流れでいい予感がするはずもない。
聞きたくない聞きたくない聞きたくない。





「皆それぞれ、仕事をしよう!!!」



―――ほらね☆



仗助は目をぴくぴくさせながら、ジョナサンの自由すぎる発言にがっくりと項垂れた。
この場でなんでもないような顔をしているのは、この奇妙な世界で通常運転をしている岸辺露伴その人だけだった。



「僕達は学生ですけど」

「学生はもちろん学校に行くのが仕事だよ!!」


張り切るジョナサンは目を輝かせてそう言い切ると、キョロキョロとあたりを見渡す。
そうして学校らしき建物を見つけて飛び込んでいった。
行動力は抜群だ。
呆気にとられた一同は、ジョナサンが飛び込んだ扉を見つめて溜息をついた。