混部パラレル | ナノ
「楽しみだな、承太郎」
「何がだ…?」
軽い調子で、遠足にでも行くようにウキウキと話す花京院に、承太郎は眉を寄せた。
柱の男は敵だった。
DIOだってそうだ。
にも関わらず、花京院はまるで危機感など微塵も感じていないように笑う。
(意外と危なっかしいんだな)
「アブドゥルさんやイギー…あと、ポルナレフも居るんだろうか?」
「やかましいだけだぜ…」
ふと承太郎が隣を見れば、花京院は相変わらず楽しげに笑って歩いている。
そうしていれば、友達が一人も居ないと言った彼の言葉も信じられない。
シーザーに柱の男について聞いている様も、とても命のやり取りをしてきた男たちの顔ではない。
(そう言えば、ンドゥール戦でついた目の傷がないな…)
辻褄の合わない不可思議なことだらけだ。
「ジジィ、どう思う?」
「ん?そうだなぁ…妙な事はいくつかある」
張り切って人を探して歩くジョナサンの後ろに続いていたジョセフは、 両腕を頭の後ろで交差させて空を仰ぐ。
「シーザー」
「ん?なんだ、ジョジョ」
「カーズ達のこと、どう思う?」
承太郎の言葉を取り違えたらしい。
別にあのふんどし男達に、承太郎自身は何の興味もなく、聞きたいことはこの世界についてだったのに、どうも言葉が足りなかったらしい。
「殺してやりたいとは思うが…どうも何かが妙だ…。
この世界に来てからというもの、殺意が削がれるような…そんな感覚なんだ」
「だよなあ。俺もなんだよ。承太郎はどうだ?」
言われてみれば、DIOが現れた時点での殺意は、DIOを目指して旅をしていたあの時とは比にもならない。
“面倒だ”とか、“殴ってやろうか”くらいの気持ちは芽生えても、殺意にならない。
「大体おかしいんだよなぁ。カーズ達もさっさと引き上げるし…」
「闘いの意義がないからではないでしょうか?」
黙って話しを聞いていたジョルノがそう切り出し、今の所一番腑に落ちる理由だった。
意味を感じないのだ。
あんなに敵対していたはずなのに、相手を倒す目的を失っている。
「確かに私も今プッチを見ても、戦う気になれるか分からないわね」
親父も生きてるしなと言う呟きは、承太郎には聞き取れない小さな声だった。
敵だという認識は消えない。
事実、それまでの攻防戦の記憶は残っているし、なれ合えるとも和解できるとも思えない。
だが、殺す理由はないのだ。
承太郎が生きていることで、プッチを殺す決定打に欠けるのだ。
頭を悩ます七人に、ジョナサンがクルッと振り返って言い放つ。
「皆が仲良く出来るんだから、それで良いじゃないか。ここは平和な世界だよ、きっと」
全く…紳士が紳士過ぎて困ります。
もう少し疑って欲しい。
そもそも、ジョースター家にあった食材をなんの躊躇いもなく使ったのもジョナサンだ。
毒が盛られていれば一網打尽にされていただろうに。
「この街にたくさんの人が居て、学校がありさえすれば、君達学生は通常の生活に戻れるのになぁ!!」
どこが通常だ!どこが!!ななどと、こんなに無垢な笑みを浮かべるジョナサンに言える人間はここには居ない。
目を細めて遠くを見つめるのが精一杯である。
「おい、そこのあんた達…ちょっと良いか?」
不意に声をかけられて振り向いた先に、やはり見たことのない男が立っていた。
いや、また男かよ。
そんな文句を心の中で呟きながら振り返った仗助は、目の前の男に叫び声をあげそうになってとっさに両手で口を塞いだ。
(なんでよりにもよってこの男なんだよっ!!!!)
「一人顔見知りか…まぁいい、突然奇妙な街に連れてこられたようなんだが、ネタになりそうなんで取材している。
協力してくれないか?礼は元の世界に戻ったら必ずする」
依頼をしているようだがどうも上からの物言いに、承太郎とジョセフとシーザー、そしてジョルノは目を細めて警戒心を露わにした。
そりゃあそうだ。
敵を作らない会話法など知らないのではないかと思うほど高飛車なんだからな。
仗助は両手を降ろして頭を掻くと、不遜な態度でジョナサンに手を差し出す露伴を見てため息をついた。
「相変わらずッスね、岸辺露伴」
「ふん、人を呼び捨てにするなんて偉くなったじゃないか東方仗助」
険悪なムードは避けられないらしい。