混部パラレル | ナノ


「甘いのではないか?」


承太郎は突如聞こえたその声に、勢い良く立ち上がった。
同時に出現させたスタープラチナが、ほとんど反射することすらも出来ないような速度で現れたそれを両手で挟むように受け止める。


ーシュゴァァァアア…


「くっ…」

「じょ…承太郎、な…なんだコイツは!?」



承太郎の額から一筋の汗が流れる。
スタープラチナの受け止めた、キラキラと光を放つその鎌のようなものが彼のスタンドを力で押し負かそうとしているとでも言うのか!?
俄かには信じがたい現実を目にしながら、花京院はスタンドで辺りを警戒する。
シュルシュルと解けたハイエロファントグリーンが影の中に潜んだ人影を捕らえようとした瞬間、それはパッと地面から飛び上がった。
人間の動きとは言えない。
もっと野性的な動きだが、その俊敏さは野生の生物のそれとは逸脱している。



「ふむ…。どうやら確かに面倒なことになっているらしいな」

「奇妙な気配がいくつも存在しています…」

「楽しめそうじゃあねーか。ジョジョのヤローもいるしな」



「誰だ、お前たち!!!?」


至極最もな質問を投げかける花京院に対し、「嘘だろう?」と呟いたシーザーは顔面蒼白だ。
目まぐるしいその光景に、仗助はクレイジーダイヤモンドを出現させて倒れたままのジョセフを引き寄せた。
これで巻き込まれて死ぬなんて、いくらいい加減な親父とは言え気の毒だ。



「久しぶりだな、波紋戦士よ…」


影からユラリと現れた男の迫力に、ジョルノもゴールドエクスペリエンスを構える。
吸血鬼の父親と数日を同室で過ごしていたジョルノから見ても、只者ではないことは一目瞭然。
そんな気配を物ともせずに今にも飛び掛りそうな徐倫は、その中心に立った長髪を緩やかに波うたせる男との距離を測っていた。
筋骨隆々のそのたくましい四肢。
切れ長の目は敵対するものを鋭く射抜き、こんな多対少数の状況にも全くの余裕を感じさせる。




「ん?どうやら“餌”も混じっているようだな?」


ニヤリと笑う男の発言に、DIOはピクリと眉を寄せた。
“帝王”と呼ばれることはあっても、“餌”呼ばわりされて黙っているDIOではない。
腕を組んで座ったまま突然現れたその男達を睨んだDIOは「チッ」と舌打つとパッと姿を消した。

否――――。



「貴様…今、何をした?」


「このDIOの手を煩わせるな。
どうせ“この世界では意味などない”貴様を殺したところでな」


「フン。吸血鬼如きにこのおれが負けると思うか??」



消えたと思ったと同時に背後に現れたDIOのナイフが深々とその男の心臓にあたる位置に突き立てられていた。
絶句し、言葉を失った一同は、DIOの能力に驚けばいいのか、男が何ともない様子で薄ら笑っていることに驚けば良いのかすら分からない。



「貴様!!カーズ!!!!!」


ギリリと歯を鳴らすシーザーの言葉に、ジョナサンはハッと息を飲んでカーズと呼ばれた男を睨んだ。
大きな男を二人も従えた男はシーザーの怒りすら余裕の笑みで受け止めている。
今は隠されているが、スタープラチナで受け止められた光る鎌も男の攻撃だったように見えた。




(さっきの刃物は…隠しているのか??それにあの男達のあの姿は…)


「もしかして…」


ゴクリと唾を嚥下したジョナサンの声に、カーズとその従者達も振り返る。
三人が三人とも似たような装いで、ただならぬ気配を漂わせている。
間違いない!!これが…











「これが、“相撲取り”だね!?!?!?」











――――――は???????




「どうだい!?承太郎、当たりだろう!!!
いやーーーー!!ホントすごい迫力だとは思っていたが、生で見ると違うね!!」


「ち…ちが……」


なんと!?
承太郎がここまでたじろいでいるのは初めて見た!!
さすがジョナサン!!誰にもできない事を平然とやってのける!!!
そこにシビれる憧れるぅぅぅぅうう!!!!



「おっといけない。紳士として恥ずべき行為だった!!
挨拶が遅れて申し訳ない…ジョナサン・ジョースターです、始めまして!」


差し出された手を見ながら、三人は困惑を隠しきれない。
完全に戦闘が始まる空気だったにも関わらず、突然のジョナサンの言動に毒気を抜かれ、ナイフを突き立てたDIOですら眉を寄せたまま固まってしまっている。
一同がポカンとしたまま動かない中、ジョナサンはサッとカーズの手をとって一方的に握手を済ませた。


(この男…)


自分に触れても何ともないようすのジョナサンに、カーズは彼も波紋使いだと気付く。
奇妙な気配を発する複数の人間と、波紋使いが三人。
餌であるはずの吸血鬼すら妙な能力を持ち合わせている。



「カーズと言ったか?
貴様もおとなしくしておけ。“消されたくなければ”な…」



DIOの意味深な言葉に、カーズは「フン…」と鼻を鳴らして後頭部を掻くと「仕方がない」とため息をついた。


「まぁいい、今日は挨拶だ。別に戦いに来たわけではない…。エイジャの赤石もないしな」


どうやらそこだけは諦めていないらしい。
ジョナサンの行動に、飛び掛るタイミングを完全に逃していたシーザーもグッとカーズを睨みつける。
こんな時に寝ているなんて、ジョセフも存外間が悪い。(注:シーザーが落しました)


「ワムウ、エシディシ、帰るぞ」

「はっ!」
「はいはい」


くるりと背を向けた三人に、「え?ちょ、ちょっと!!」と声がかかる。
振り向けばジョセフを抱えたまま目を丸くしている独特な髪型をした仗助少年が立っていた。


「帰るって…どこに帰るんスか!?」


「もちろん我々の邸だが?」


ワムウの当然の様子での返答は、その場に居た一同に今日一番の衝撃を与えた。