混部パラレル | ナノ


シーザーが夜中にジョセフの部屋を抜け出してリビングに降りると、真っ暗だと予想していたその部屋には明かりがついていた。


「眠れないのか?」


気配を感じられなかったのか、シーザーの声に小さく跳ねた影は慌てて振り返る。
驚き顔で振り返ったその顔には見覚えがあった。
自分と同日にここにたどり着いた…


「花京院…だったかな?」

「えっと…シーザー…さん」

「シーザーで良い」


薄い色のブロンドを揺らして、シーザーは花京院の隣に腰掛けた。


「眠れないのか?」

「あ…いや、その…まぁ」


何とも煮え切らない返答である。
目を泳がせてた花京院は、少し俯いて口を紡ぐと、小さな声で「緊張して…」と答えた。


「君の同室は…日本人だったな。確か…そう、承太郎」


確かジョースター家の中でも群を抜いて愛想がない若者だった。ジョセフとは正に正反対。
室内だというのに帽子を被っているのも印象的だった。
それをジョセフに言うと、「シーザーちゃんだってずっとバンダナしてるじゃねーか」と笑われたので、軽くしばいておいた。


「彼は無口で…」

「あぁ、だから緊張するのか?」

「いや、僕達はDIOを倒すために旅をしていたんです。何日も共に過ごして、それには馴れました」


それなら何が問題で緊張するんだろうか。
理由が掴めなくなり、シーザーは首を傾げた。


「恥ずかしながら、僕は友達と呼べる物が出来たのは初めてで…。旅の時は“明日に備えて寝る”って感じだったんですが、こんな風に平和な雰囲気で友人と同室で睡眠を取ることなんてなかったから…」

「マンマミーヤ…」


なんて可愛いことを言う男だろうか。
まるで小学生のような事を言う花京院に、シーザーは目を丸くした。
シーザーの世話焼き心に火がつく。


「そんな事は考えたこともなかったな…」

「すみません。変な話聞かせちゃって」

「いや…」

そんなもんなんだろう。
友達を作ることも叶わず、本当の意味で自分を語れる相手を作らないままに体だけ成長すると言うことは、精神的に幼いまま…人付き合いを器用にこなすことも出来ないまま大人になろうとしてしまったのだろう。


「うらやましいな…」

「え?」

「友人ってのは…どうも居て当たり前になりがちだろう?そんな風に、大切だと常に認識していられるのは良いことだ」

「あ…」


シーザーの言葉に目を丸くていた花京院は、耳まで真っ赤になって俯いた。


「ありがとうございます」

「俺とも友人になってくれよ、花京院」


奇妙なことだ。
自分よりもずっとずっと後の時代に生きているはずの人間と、こうして出会い、話をしている。
こんな事にも意味があるなら、楽しまないともったいないと思った。
差し出した手を見つめていた花京院は、笑って手を握って「よろしく」と答えた。



「じゃあ、シーザー…。
僕は眠れないから今からこれをしようと思ってたんだ!一緒にどうだい?」


突然パッと立ち上がり、水を得た魚のように生き生きと行動する花京院は、何やら四角いパッケージを見せて笑った。
友人と言うより、弟のように見えてくる。
シーザーは「どれどれ?」と頭を掻きながらソファーから腰を上げた。
新しくできた友達に付き合って、夜更かしするのも悪くはない。

(部屋に戻ってもジョセフのいびきがうるせーしな)

















「シーザーーーーーーーーッ!!!!」

ジョセフは絶望を胸にそう叫んだ。
腕に抱えた彼の顔は蒼白で、足も腕も力なくダラリと下げられている。


「朝っぱらからうるせーぞっ!!!!」


頭にガインと音を立てて承太郎の拳骨を喰らい、ジョセフは痛みに唸りながらすすり泣いた。
朝、目を覚ますとベッドにシーザーが居なかった。まだ起きるには早すぎる時間だ。
せっかくベッドを譲ってやったってのに、ゆっくり眠れなかったらしい。
繊細さ故かと思いながら部屋を出て、キッチンで水を飲んでリビングの部屋のドアを開けた。
次の瞬間ジョセフの目に飛び込んできたのは、屍と化したシーザーである。
そして今に至る。


「シーザーが死んでる…」

「死んで…ねぇよ」

「ギョアッ!!生き返ったっ!!!!」

「ジジィっ!!」


ギリッと歯をならして苛立ちを露わにする承太郎に、ジョセフは息をのんで口を塞いだ。


「ちょっと…眠さが限界に達しただけだ」

「だったら寝れば良かっただろう?何してんだよバカやろう!」

「まさか…あれに付き合ってたのか?」


シーザーの言葉でピクリと眉を上げたのは承太郎だ。
珍しく青ざめた承太郎の視線をたどると、テレビのモニターがついていた。
画面では巨大なサーキットを、数台のマシンが疾走している。
突如画面に“クリアー”の文字が踊り、ソファーに座っていたその人がクルリと振り返った。



「おはよう、承太郎!!!」


よし、言いたいことはそれだけか?
ジョセフが眉を寄せたことなど気にもかけず、特徴的な長い前髪をなびかせて、花京院は眩しい笑顔を承太郎に向けた。


「花京院」

静かにその様子を見ていた承太郎は目を細め、花京院とは対照的な空気で足を前に出した。
ヌシヌシと足を進め、ピタリと花京院の前で立ち止まると、承太郎はガシッと花京院の頭を掴む。


「テメー、あんだけ寝ろって言っただろーがっ!!」

「何故だよ!!せっかく友達とお泊まりしてるってのに!!!!」

「テメーはガキかっ!?」


そもそも花京院は承太郎を誘ったのだ。画面いっぱいに映し出されるF-MEGAに…。
それを承太郎がきっぱり断ったから、花京院はリビングでこっそりプレーしようとしていた。
幸か不幸か…そこに出くわしたのが、シーザーだった。


「シーザーさんが付き合ってくれてたんだが、途中からウトウトしだしてね」

「寝かせてやれよ」

「何故!?朝まで友達と騒ぐのが醍醐味だろう!?」


ここに少年を放ったのは誰ですか?
悪びれもせず、キラキラした笑顔で微笑む花京院は、翌日から承太郎のベッドで簀巻きにされて眠ることになった。

「シーザーーーーーーーーッ!!!!」

「うるせ……寝させろ…」ガクッ