混部パラレル | ナノ


「いや、物置を片付ければもうなん部屋か空くんだけど、とりあえず今は足りないんだ」


ジョナサンは承太郎とジョセフを交互に見ながら微笑む。
あぁ、こうなることは想像できていたさ。
ジョルノとDIOは最初から同室でお願いしていたし、DIOは不服そうにしていたが、『間借りしている身ですから』とジョルノが快く承諾してくれたお陰で部屋数はぎりぎり足りていた。
だだっ広いこの屋敷は部屋数も相当数あるが、何故か物置になっている部屋が多いのだ。



「片付けるとは言っても、捨てるわけにはいかないものばかりだし、きちんと整理して部屋があくまで、仲の良い人同士で同室をお願いするよ。幸い布団はあるみたいだから」


断ることなどできるはずもない。
承太郎とジョセフは「仕方ない」と呟いて、それぞれの相棒に部屋を案内することになった。
四人がぞろぞろと出て行く様子を見届けて、徐倫は首を傾げた。



「そんなに散らかってるの?」

「いや、…あぁ、そういえば物置見せたことなかったね」

「俺も見たことないっス」

「ついておいで」


徐倫と仗助はジョナサンに続いて部屋を出た。
言われて見れば、日ごろ使っている部屋は二階の一角のみ。
一回の部屋は見て回ったことはない。
ダイニングとリビング、キッチンの他にも部屋はたくさんあるようだ。
どんな豪邸だよ。と心内でツッコミながら後ろをついて歩いていた仗助に、ジョナサンは一つの部屋を開いて見せた。



「ここは僕の記憶では普通の部屋だったんだけど、今はほら…」

「…なんすかここ…。工場か何かの冷蔵庫見たいっスね」

「寒いわね」


吐く息が微かに白い。
部屋からは冷気がゆっくりと吹き出し、這うように足元から冷えていく。
中には所狭しと食料品が詰められていた。
その食品が凍っているところを見ると、冷蔵庫ではなく冷凍庫だ。
肉だけではなく、冷凍保存可能な野菜まで並んでいる。



「そう言えば、近くに店もないのに食いもんに困ったことはないっスね」

「全部ここから出しているんだよ」


キッチンの冷蔵庫にはいつも食料品が入っているし、飲み物も切らした事がない。
「無いな」と思っても、いつも翌日には補充されていた。
実家住まいの二人からすれば、その手の作業は親がやってしまうので疑問にも思わなかったが、よく考えてみれば不自然極まりなかったのだ。
馴れって恐ろしい。



「そういえば、服も…」

「うん、別の部屋に服や洗剤が置いてあるんだ」

「それは気付かなかったわ」


毎日着替えているのに、今まで何の疑問も持たなかった。
不自由なく、実にのびのびと生活出来ていたのは、こういった理由だったらしい。
確かに部屋も足りなくなるはずだ。


「だから、当分暮らしに不自由することはないと思っていたんだけど…」

「これ以上人が増えると不味いわね」

「街が近くにあればいいんスけどねー」


とにかく言っていても仕方ない。
今回は現れたのが花京院とシーザーだったから良かったが、すでに同室を使っているDIOやジョルノの仲間だったら部屋決めに恐ろしく苦労しただろう。
唯一の女性である徐倫に、誰かと同室を使わせるわけにはいかないので、ジョースター家の男性人が同室になるのは必至。



「いやー、これ以上人数増える前に、この状況をどうにかできる人に来てもらうしかないっスね!!」

「嫌よ。これ以上増えない事を祈るわ」

「うーん、僕は楽しかったらなんでも良いかな」


楽観的過ぎます。
これ以上人数が増えて、食料が減るスピードが増すのは確かに困る。
この辺りはどういうわけか道が一本、この家の前から真っ直ぐ…どこまでも真っ直ぐ続くだけで何にも無いのだ。
喉かな牧草地には、草を食む牛も羊も居らず、最近は牧草がのびのびと成長しているくらいの変化しかない。
木も生えていないから、家どころか小屋を建てることも出来ない。


「とりあえず、花京院君と、シーザー君に服を出してあげないとね」

「俺、手伝うッス」

「私は足りなくなりそうな食材を冷蔵庫に移すわ」

「ありがとう」


助かるよと笑うジョナサンに、二人は笑って返す。
のどかな光景が繰り広げられるその家の近くで、ゆっくりと変化が起こりつつあった。
細心の注意を払わなければ気付かないような、ごくごく僅かな変化。
誰かが気付くような変化を遂げるには、もう少し時間がかかりそうで、その屋敷に辿り着いた人間は誰もそれに気付いていなかった。