混部パラレル | ナノ


ジョナサン・ジョースターに呼ばれて、シーザー・アントニオ・ツェペリはジョセフと共にリビングへと降りた。
タッチの差でこの屋敷に辿り着いた花京院も、その他のメンバー全員も、同様にリビングに集まっていた。
幸いテーブルはとても長さがあり、イスもそれに見合うだけ並んでいたので、人数が増えた今でも全員が並んで座る事が出来る。


「ずいぶん人数が増えたもんだね」

「俺と爺ちゃんだけだったのにな、最初は」


ニコニコと笑うジョセフは、さっきまでのセンチメンタルな雰囲気とは打って変わって、若干浮ついてすらいる。
やはり馴染みの人間がいると違うらしい。
安心するというのは分かる。
血縁者とは言え、初対面の人間には変わりないのだ。仕方ない。


「おい、ちょっと待てジョセフ。どういうことだ?お前…まさか、この家にお前の爺さんが居るってのか!?」


シーザーは眉を顰めて一同を見渡し、最も年長に見えるDIOに視線を止めた。
いや、確かに年長には見えるが、とてもジョセフのような年齢の子どもがいる年には見えない。
困ったように眉を寄せるシーザーに、DIOは不機嫌さを隠しもせずに舌打ちをした。


「無礼な。このDIOからそんな馬鹿が生まれるわけがなかろう」

「テメー!!今なんて言った!!?馬鹿って言ったのかぁ!!!!」


怒るポイントはそこで良いのですね?
ジョセフがガタンとイスを勢い良く倒して立ち上がると、ジョナサンがそれをたしなめる。
舌打ちをして渋々座りなおしたジョセフを見届け、ジョナサンは「さて」と呟いて花京院とシーザーに視線を送ると、順番に名前を紹介することを提案した。
とりあえず全員の関係は後から説明したほうが手っ取り早い。


「ちょっと複雑だから、僕が全員の名前を紹介するよ。質問は後から聞くことにしたいんだけど、それで良いかな?」

「構いません」

「si、問題ない」


花京院とシーザーの返事を待って、ジョナサンは自分から順に紹介していく。


「まず、僕はジョナサン・ジョースター。隣がジョセフ・ジョースター」

「よろピクね!」

「帽子の彼が、空条承太郎で、その向かいが東方仗助」

「どうもっす」

「女の子が空条徐倫」

「よろしく」

「隣がジョルノ・ジョバァーナくんだよ」

「どうも」


説明を終えようとジョナサンが座りかけて、「あ、そうだDIOのこと忘れるところだった」とDIOを指さした。
わざとではないところが、ますますDIOのプライドを傷付ける。
さすがにちょっと可哀想である。


「僕たちの関係を説明する前に、まずは二人の名前を聞いてもいいかな?それと、僕たちの中の誰の知り合いなのかも、一応聞いておきたいんだけど」

「分かりました。では僕から…。花京院典明。空条承太郎の、仲間です」


“仲間”と言った後で、花京院は自信がないのか承太郎をチラリと伺う。
自信持って良いんではないだろうか。
承太郎が何も言い返さない様子を確認し、花京院はホッと胸を撫で下ろした。


「私の配下でもあるがな」

「うるさい。“元”を付けてくれないか?それに、本意ではない」


“根深いわけ”と花京院が言っていたことを、ジョルノは思い出した。
意地の悪い笑みを浮かべるDIOに花京院がきっぱりと言い放つ。
そういうことははっきり言い切るのに、自分と承太郎の関係を自信持って言わない辺りが、彼の性格を示しているのだろう。
花京院が話し終えると、今度はシーザーが口を開いた。


「俺はシーザー。シーザー・A・ツェペリ。ジョセフの…兄弟子と説明するのがベターかな」

「オイオイ、冷たいこと言うなよシーザーちゃん。照れずに俺の“仲間”って言ったって良いんだぜ!?」


調子にのるジョセフに、すかさず「調子に乗るな!」とシーザーの拳骨が飛ぶ。
そんな二人のやり取りの合間に、ジョナサンは眉を寄せていた。
二人の喧嘩を咎めてようと思ったわけではない。
自分の知る人間と、シーザーの名前が気になっていた。


「聞いてみるんだけど、ウィル・A・ツェペリは君の知り合いにいたりしないだろうか …」

「…同姓同名かも知れないが、俺の祖父がウィル・A・ツェペリだ」


なるほど、自分の歳とジョセフの歳から考えれば時代もぴったりだ。
怪訝な表情のシーザーに、ジョナサンははっきりと確信を抱いていた。
何たる奇妙な運命か。


「…ツェペリさんは、僕に波紋を教えてくれた師なんだ」

「は?」


自分に波紋を教えた男の孫は、自分の孫と一緒に波紋の修行を積んでいるらしい。
命の恩人である彼の子孫が続いていた事に喜びつつも、その子孫たる彼が自分の子孫とめぐり合っていた引き合わせに感動した。
説明を求めるシーザーに頷いて、ジョナサンは少し考えてこの事象の説明からすることにした。


「僕たちは、どういうわけか、別々の時代からこの場所に辿り着いたらしいんだ。別々の時代。別々の場所からね」


ジョナサンの言葉にここに来たばかりの二人は眉を寄せる。
実際に気付いたらここに居たのだが、“別々時代”という言葉が腑に落ちない。
理解できない様子の花京院とシーザーに、ジョナサンはジョセフを指さして説明する。



「信じがたいかもしれないが、ジョセフは僕の孫。承太郎はジョセフの孫。徐倫は承太郎の娘なんだよ」

「「なんだって!?」」


花京院とシーザーは目を皿のようにして四人を見比べる。
確かにそう言われればそっくりだ。
顔も、ガタイの良さもそっくりだ。
特にジョナサンとジョセフ。承太郎と徐倫は瓜二つと言っても過言ではない。


「承太郎の…娘!?…きみ、いつ娘なんか」

「おい、説明聞いてなかったのか!?俺の娘と言ったって、未来の俺の娘だぜ?」

「確かに、高校生の親父なんて笑っちゃうわ。私より年下よ?」


徐倫がハンと鼻で笑い、二人の睨み合いが始まると、二人を交互に見ていた花京院は「確かにそっくりだ」と深く頷いた。
性別こそ違うが、こんなにそっくりになるもんだろうか。


「マンマミーヤ…それじゃあ、まさかアンタ…いや、貴方の知っているウィル・A・ツェペリってのは…」

「あぁ、同一人物で間違いないと思うよ」


そこまで聞けば、シーザーだって確信を持つことが出来る。
ジョナサンは自分の祖父が命を賭して守った男であり…DIOは恐らく、ディオ・ブランドー。祖父やジョナサンが命がけで倒した吸血鬼。


「どうして吸血鬼が…」


シーザーの動揺を感じたDIOがにやりと口の端を吊り上げる。
確かに覗く尖った牙も、醸し出す雰囲気も、とてもではないが改心したようには見えない。
だとすれば、DIOはシーザーにとっても宿敵以外の何者でもない。沸々と湧き上がる殺意を向けてDIOを睨みつける。
今にも波紋を練りそうなシーザーの気配に、言葉を発したのはジョナサンだった。


「DIO、挑発してややこしくしないでおくれよ。
シーザー、色々複雑な君の気持ちも分かるが、この状況なんだ。決着云々はとりあえず保留にして欲しい」


他でもないジョナサンに窘められれば、いくらシーザーでも押し黙るより他にない。
前のめりになっていた体を背もたれに預けて深く座りなおし、シーザーはふとあることに気が付いた。
ジョナサンの説明から外れた人間が、DIOを除いて二人いる。



「残りの二人は、どういった関係者なんですか?」

「…やっぱり気になる?」


ジョナサンに問いかけたにも関わらず、意外なところから返事が返ってきた。
意表を突かれたシーザーが声を発したジョセフを振り返ると、「面倒なので、先に僕から」とジョルノが口を開く。


「無駄は嫌いなので、簡潔に説明します。僕は、DIOの息子です。
首から下はジョナサンさんの体なので、ジョースター家の血縁でもないとは言い切れないんですがね…」


それは予想以上に複雑な生まれのようだ。
DIOに似た綺麗な金髪だが、確かに彼の醸し出す雰囲気はジョースター家に近い。
複雑な出生のせいか、さばさばしたような冷たいような物言いにも聞こえるが、目には真っ直ぐ筋が通ったような信念ある人間性が垣間見える。
自分のことなのに他人事のように説明するジョルノに、シーザーは「宜しく」と応えた。



「まさか、DIOにも子どもが居るなんてね。ジョナサンの体だから、ジョナサンの子どもってことにならないのかい?」


花京院の言葉に、ジョルノはあっさりと首を横に振る。
この問題はすでに解決済みで、ジョルノもはっきりと答えを持っているようだ。


「この人の責任下で生まれたので、親としての責任はパードレ・・・DIOに負ってもらおうと思います」


成る程。
道理の適った言い分である。
事務的な説明とは裏腹に、すでに“パードレ”と呼んでいる辺りずいぶん心を許しているように見えるが。
甘えるのは上手ではないようだ。


「それで?」

シーザーはジョルノの言葉に頷いたあと、不可思議な髪型の少年。
東方仗助を振り返った。
見た目はジョセフとさほど変わらないように見えるが、元々いた時代が違うのであてにはならない事はすでに証明されている。


「俺は…」


少年は視線を泳がし、言い淀んで視線を落とした。
ジョルノよりも複雑な何かがあるのだろうか。
ともすれば、あんまり問い詰めるのは気の毒だ。
シーザーが「無理に言わなくても良い」と言おうと口を開いた瞬間、ジョセフがガタンと大きな音を立てて立ち上がった。


「シーザーちゃん。紹介するな!!俺の息子の、東方仗助だ!!」


シーザーは驚きを隠せなかった。
何に驚いたって…「ジョセフの息子だ」と打ち明けることに躊躇っていたと言う事だ。
なんて事は無いはずではないか。
学生風の空条承太郎にだって同じくらいの娘が存在して座っているこの状態で、息子だと言う事を言い渋る理由は見当たらない。
目を丸くしたシーザーは、ふと、違和感に気付いた。


「…東方?」


日本人の女にでも、婿に行くと言うことか?
目を瞬かせるシーザーに、ジョセフはほんの僅かにたじろいだあと、仗助に駆け寄って肩を並べた。


「そういやぁシーザーちゃんったら前に言ってくれたよな。“お前に惚れる女なんて、ネッシー捜すよりも骨が折れそうだ”って」

「…そんな前のこと掘り返すなよ。まぁ、息子が存在するんだ。お前に惚れる貴重な女が何処かに存在…いや、ジャッポーネに存在したってことだろ?」


「ところがどっこい、仗助は俺の“隠し子”なんだってさ」


自慢気に話すことでもない。本来は褒められた事ではないのだから。
既にその事を知っていたメンバーは心内でそう突っ込みを入れていたが、シーザーは軽くパニック状態だった。
信じられない…というか、どう飲み込めば良いかも分からず、ただジッと肩を並べる二人を交互に眺めた。



「承太郎、ジョセフって…あの?」

「あぁ、テメーも良く知っているあのジジィだ」


花京院と承太郎のやり取りを聞きながら、シーザーはようやくジョセフの言葉を飲み込んで呟いた。
時間をかけて飲み込んでようやく声を絞り出した。


「オーマイ・ゴット…」

ジョセフの言葉を借りるほど、信じがたい事実だった。