混部パラレル | ナノ
「ここに来たら良いんじゃあないかと思ったんだよ。直感だけどね」
ニコニコ笑う花京院を見て、承太郎は顔をしかめた。
なにもそれは花京院がここに来た事が不快だったわけではない。
「なんだ花京院じゃあないか。久しぶりだな」
「!!!!!!???」
DIOがここに居る事が問題だっただけである。
「ややこしくなるだろうが!!すっこんでろ!!!!」
承太郎の怒鳴り声と共にスタープラチナが背後に出現し、臨戦状態になるかと思いきやDIOはそれを実に楽しげにニヤニヤと眺める。
バカにされているのかとも思ったが、花京院に声をかけられた承太郎は耳を疑ってスタンドを潜めさせた。
「花京院、今何て言った?」
「いや、だから…“もうDIOとわざわざ戦う必要もなくなったんじゃあないか”と言ったんだ」
悪びれもせず、まるで「今日の昼食はカレーにしよう」と提案するかのような軽い調子の花京院に、承太郎は瞠目したまま言葉を捜して黙り込んだ。
花京院がDIOサイドに寝返ったとは考えられないが、彼は確かにDIOと承太郎が戦うわけを知っているはずなのだ。
「………意味を分かってんのか?」
DIOとの戦いを止めるという事は、そのまま承太郎の母であるホリィを死に直結する。
それを勧めることはつまり、母親を見殺しにしろと言っていることと同義だ。
ギリリと歯を鳴らす承太郎に、花京院は慌てた様子で手を振った。
「違うんだ承太郎!!説明不足ですまない!!!
そう言えばキミはずいぶん前に居なくなったから知らないだろうけど、ホリィさんの容態が急に良くなったんだ!!」
「は…?じゃあ…」
「ホリーさんは、元気だよ。ピンピンしてる」
承太郎が事態を飲み込んだ様子を見計らって、DIOがニヤリと薄い笑みを浮かべたまま承太郎の背後に回った。
窓から差し込む日差しを避けて影になるぎりぎりのところに立って、腕を組んだDIOは「当然だ」と笑った。
「あれは私の影響でそうなっていたのだ。私があの世界から別の世界に来た時点で、私の影響は消える」
癪に障る言い方だが、つまりは本当にDIOと戦う理由を喪失してしまったらしい。
完全に出鼻を挫かれた感だけが残され、何とも腑に落ちないまま問題だけ解決したということか。
もやもやが消えることはないが、それが事実なら事実で仕方ない。
「だからって、テメーと馴れ合うつもりはねぇからな!!!」
「フン、こっちから願い下げだ」
ジョースター家と、よりにもよって馴れ合うだなんて考えただけで反吐が出る。
鼻で笑い飛ばしたDIOは、「パードレ」と呼ぶ声にびくりと小さく跳ねた。
「駄目ですよ、ジョースター家と仲良くしないと。ここではこの人達しか居ないんですから」
「ジョルノ…」
「パードレ??もしかして、息子だって言うのかい!?DIOの!?!?!?」
厄介なことになったもんだ。
いや、面倒くさいことになったもんだ、と言うのが正しいか。
花京院は爽やかな笑みでジョルノに手を差し出す。
なるべく良い印象でいたいのか、爽やかな笑みを作ったジョルノもそれに応え、太陽の光に自前の金髪をふわりと輝かせながら花京院の前に立った。
「花京院典明です。“元”DIOの部下です」
“元”を強調している辺りが明らかにDIOへの嫌がらせである。
苦い顔をするDIOの前で、それに気付かないジョルノは僅かに目を丸くした。
青い瞳が、太陽光で透き通るように見える。
「ジョルノ・ジョバーナです。…元部下って?」
「そこには文字通り“根深い”理由があるのさ」
「花京院、貴様許さんぞ」
「許さなくて結構」
誰だこの男をこんなに解放感で満たしたのは。
生き生きとした花京院が信じられないほどの笑顔でDIOに悪態をつく様子を、承太郎はため息をついて見ていた。
見た目はおとなしいのに、彼の言葉も行動も男らしいとしか言いようがない。
「それより承太郎!」
こっちに矛先が向いたらしい。
承太郎は眉を寄せて黙り込んだが、元来無口である彼の“肯定”と取った花京院はそっと承太郎の肩に手を置いて背伸びすると、楽しげに耳打ちする。
「何だか楽しそうな事になってるね」
くらりと目眩がする。
それでなくとも厄介な意味の分からないことになっているのに、さらにジョースター家ではない二人の人間。
明らかに何かが変わりつつあるが、それは面倒くさい方向に変わった気がする。
これから何度自己紹介をし、何度驚かれるのだろうと一瞬考え、ため息をついて考えるのを止めた。
そんな承太郎に気付きもせず、花京院だけが楽しげに笑っていた。