混部パラレル | ナノ
「食事の支度が出来たわよ」
徐倫が仗助とジョルノを呼びに来た時、仗助はゲーム。ジョルノは読書をしていた。
成る程これが、二人の決定的な違いなのだろう。
優しいが抜けた所のある仗助と、まるで大人のように落ち着いた雰囲気を纏い、言葉遣いも口調も年齢にそぐわないジョルノ。
「頭の違いとも言うわね」
「んん?何か今失礼なこと言ったか?」
「なんでもないわ。手を洗ってから来いって、ジョナサンが言ってるわよ」
「すぐに行きます」
微笑んで頷いたジョルノに、徐倫は手を振って踵を返した。
仗助も仕方なくゲームの電源を落として立ち上がる。
いつもならば食後にまたすぐ続きが出来る様に電源は入れっぱなしにしている仗助の行動に、ジョルノはひそかに首を傾げた。
――――――――――
指示通り手を洗ってダイニングに現れたジョルノは、準備が出来たと呼ばれたはずなのに、真っ暗なダイニングに立っていた。
電気を消したわけではない。
扉を開くと、はなから真っ暗だったのだ。
「え?」
―パパパーーーーーーン!!!!!!
戸惑うジョルノに追い討ちをかけるように明かりが点灯され、破裂音が部屋中に鳴り響く。
同時に目の前を舞う色とりどりの紙テープに、ジョルノは固まって瞠目した。
急に明るくなったことでチカチカする目に、鮮やかな色合いの紙片や紙テープが舞っている。
自分よりも先に集まったメンバーが一様に自分に向かい、数人を除いてニコニコと笑みを浮かべていた。
「「「「「ジョルノ、ハッピーバースデー!!!」」」」」
いつもは頭の回転が速いジョルノも、この時ばかりは言葉を失った。状況の飲み込みが追いつかない。
とりあえず辺りに視線を走らせて見れば、絢爛豪華な広いダイニングも、今日はいつもと様子が違っていた。
「これは…」
広く豪華なダイニングは、色とりどりの紙を輪状にしたものが連なって天井からぶら下がり、“ジョルノ君誕生日おめでとう”の文字が書かれたパネルがでかでかと飾られている。
「一体…」
「お誕生日おめでとうっス」
驚くジョルノを、後から入ってきた仗助が無理やり椅子に座らせる。
にこにこと自分のことのように喜ぶジョナサンは「ちょっと控えめだったかな」と不満そうだが、ジョルノからしてみれば、十分すぎる(目が痛いほど鮮やかかつ派手)状態だっただけに、「ハハハ…」と渇いた笑みを返すだけで精一杯だ。
「飾りは俺と承太郎がしたんだぜ!」
得意げに笑うジョセフに、承太郎は「やれやれだぜ」とため息をついた。
承太郎の様子から察するに、かなり苦労させられたようだ。
そういえば、二人とも今日は見かけなかった。
いつもはこちらの都合などお構いナシに、うるさく絡んでくるジョセフが居なかったおかげで読書がはかどったとも言える。
「なによ、ジョセフはほとんど父さんにさせてたじゃない」
「あれは…しょうがないだろう!天井高すぎるんだよ!!俺だって今スタンドが使えてたら…「おい、俺を“父さん”と呼ぶのは止めろ。俺にはまだ子どもは居ないぜ!!」
ジョセフの言い訳を遮る承太郎を「はいはい」と軽くあしらった徐倫は、ジョルノの目の前にスープを並べて着席した。
なるほど、徐倫はだいぶん各人の扱いに慣れてきているようである。
「今日はみんなで夕飯を作ったんだよ」
ジョナサンはそう言って笑う。
未だに状況が飲み込みきれずに目をぱちぱちさせているジョルノを中心に、それぞれが着席して食卓を囲む。
混乱するジョルノは、いつも通り隣に座ったDIOを見上げた。
「どうして知っているんですか…?」
これにはDIOが苦い顔をした。
てっきりジョルノから聞いたのだと思い込んでいたジョースター家の面々も、面食らってDIOを静観する。
「それは…、お前が、私を父親だと…言うからだ」
「パードレ・・・」
「DIO!!君ってやつは!!!」
今にも泣き出しそうな勢いで感動にたぎるジョナサンが声をあげ、DIOを宿敵と認識していた承太郎はなんとも言えない心境に眉を寄せる。
ジョナサン、そこは息子の感動を邪魔するべきではないのではないだろうか…。
仗助にガシッと腕を掴まれたジョナサンが我に返ったように動きを止め、ジョルノが嬉しげにDIOに微笑みかける様子を見守る。
「パードレ、ありがとうございます」
「どうって事は無い」
気恥ずかしいのか、DIOはプイとそっぽ向いて顔を合わせようとしない。
けれど、今のジョルノにはそんなことはどうでも良かった。
ただの照れ隠しだと分かっていれば、そんな仕草すら嬉しくなる。
「みなさんも、ありがとうございます。なんだか気を使わせたみたいで…」
「おいおい、それはちぃっと違うぜ?」
早く食事を始めたいのか、既にフォークを握ったジョセフがジョルノを指さした。
イスに背を預け、足をグイと組みなおすと、眉を寄せて腕を組んだ。
一見すると機嫌を損ねてしまったかのような仕草だが、怒らせるような事をした覚えはない。
「他人行儀なお礼なんかいらねーよ。まぁ、お前に関して言えばちょいと複雑だが、俺達は家族じゃあねぇか!」
「家族…」
「やれやれ、ジジィもたまにはまともな事を言うんだな」
「たまにはってなんだよ!!!」
「アンタが承太郎さんにそう言わせしめるだけの迷惑かけてるんじゃあないっスかね」
「酷い!!!孫と子がひどい!!!」
大袈裟に泣き喚くジョセフに、徐倫が「うるせぇ」ととどめをさす。
そんないつもの大して面白くもないコントを、ジョルノは眉を寄せたまま見ていた。
―“家族”
そのフレーズが、頭の中でぐるぐると反響する。
ジョルノにとって、こんなに賑やかな家族は初めてのものだった。
放置されるでも、殴られるでもない。
からかい、冗談を言い合い、その根底に愛と呼ぶべきものが存在する。
そんな理想的とすら言えるような家庭は、初めてだった。
「ジョルノ君、君がどう思おうと、DIOがなんと言おうと、DIOは僕の兄弟で、君は僕達の家族だよ」
「ジョナサンさん…」
にっこり微笑んだジョナサンは、何か言いた気なDIOを他所に「そうだ!」と手を叩く。
「DIOが君にプレゼントを用意していたよ!!」
「ジョナサン!!貴様はサプライズの意味を知らないのか!?」
ガタンと食卓が大きく揺れ、今度こそ顔を真っ赤にして怒るDIOを、ジョルノは丸い目で見上げる。
DIOはジョナサンに掴みかかる勢いで怒鳴っているが、今日は珍しく誰も止めに入らない。
そのプレゼントとやらで、ジョルノを驚かせるつもりだったらしい。
それにしても、今日は本当によく驚く日だ。
「プレゼント?」
「クッ…ここで渡すのか?こいつらの前で!?」
屈辱だと顔を強張らせたDIOは、ジョルノが頷くのを見てため息をついた。
諦めたように脱力し、重い足取りでキッチンから皿を一つ運んで、ジョルノの前にコトリと置く。
「この辺りに店が何もないからいけないのだ。店さえあれば、もっとマシなものを与えてやれるのに」
「これで結構です」
ジョルノの目は、皿を凝視したまま動かない。
みるみると涙を湛え、大きく透き通った青い瞳が滲む。
DIOが「フン」と鼻を鳴らして大きな手でジョルノの頭を撫で、ポタリと雫がテーブルで弾けた。
ジョルノの両手はDIOが差し出した皿を握り締めたまま震え、プレートには生クリームがぎこちなく“GIORUNO Tanti auguri”とかろうじて読める文字で誕生日を祝福した、彼の好物のプリンがお行儀良くのせられていた。
宿敵であるジョースター家に温かい目で見守られて苦虫を噛み潰したような顔をしていたDIOは、ジョルノが涙声で「グラッツェ」と呟くのを聞いた。
目を細めてそれを見ていた一同は、そんな微笑ましい光景にうっかりもらい泣きしそうだった。
ジョナサンが泣いていたのは言うまでもない。