混部パラレル | ナノ


「誕生日!?」

「そうらしい」

ジョナサンはDIOの顔を覗きこんだまま固まっていた。
「どうやら、今日はジョルノの誕生日らしい」とDIOが切り出した時から彼は微動だにせず何かを考え込んでいて、そんなジョナサンの異変に気付いたジョセフも、DIOからジョルノの誕生日の話を聞かされて目を丸くした。
急に人の誕生日を知るということには(しかも当日)驚く。これは分かる。


「そっかー…で、何でお爺ちゃんは固まっちゃったんだ?」

「知らん」

こっちが聞きたいとばかりに眉を寄せたDIOは、優雅にコーヒーを傾ける。
ふと、「飲んどる場合かー!!」とはたき落として茶化そうかと思ったが、相手が相手なので自重した。
我ながら懸命な判断だ、と、この時のジョセフは思った。


「ケーキを作ろう!!!」

前触れもなく飛び上がったジョナサンに、驚いたジョセフがDIOに飛びつき、DIOのコーヒーがパシャリと音をたてた。
あぁ、こんな事なら最初から茶化して叩き落としておけば良かった。
シュトロハイムごっこならば、彼にコーヒーをかけることはなかったのに。


「よし、殺す」

予想通りキレている。
赤い瞳を爛々と輝かせるDIOを前に、ジョセフは「オー!ノーーー!!!」と叫ぶより他に無い。死活問題である。
逃げても無断そうだ。逃げ切れる自信も皆無だ。


「ああぁあーーん!!物騒なこと言わないでーん!!」

「気色悪い声を出すな」

逃げても無駄なら、すがりつくまでである。
作戦換えしたジョセフにすがりつかれてうんざりした様子のDIOを、ジョナサンがミニコントなどには目もくれずにグイと引っ張った。

ーまさか…。

ギギギと音を立てて振り向くDIOに、ジョナサンはいつもの調子でにっこりと笑う。
世に言う天使の微笑みだが、強制力は悪魔も裸足で逃げ出すほどである。


「ほら、お父さんなんだから!」

ジョナサンの特技は、空気が読めない。これで決定だ。
天使のような笑顔とは、相手の都合などにはお構い無しの無邪気さから生まれるものだと知った。
DIOはもう迂闊な事はジョナサンには言わないと心に誓った。



―――――――――――――


「何してるの??」

オレンジジュースのパックを片手に、徐倫はジョナサンとDIOを伺っていた。
ジョナサンは時々キッチンでごそごそしているが、DIOが居るのは初見だ。珍しい光景である。


「ジョルノ君が誕生日なんだって」

「へぇ、いつ?」

「今日だ」

それはまた、唐突だ。
徐倫は二人の顔と、キッチンの状態を交互に見てため息をついた。
ジュースを片付けた徐倫の姿がぶれるようにストーンフリーが出現し、DIOはその姿をじっと見つめる。
もちろんジョナサンには見えない。


「何をするつもりだ?」

「仗助にジョルノを引き止めてもらうのよ。キッチンに来られたら困るでしょ?」


しゅるしゅるとストーンフリーの指がほどけ、糸状になってドアの隙間から出て行く。
単なる物臭にも見えるが、ありがたい申し出である。


「え?じゃあ僕が仗助に伝えて来ようか?」

「「必要ない(わ)」」

図らずも声が揃った事に眉を寄せ、顔を見合わせた後に徐倫が「もう伝えたから」とジョナサンに答えた。
まだ理解出来ない様子のジョナサンを尻目に手を洗うと、徐倫はエプロンを身につける。


「じゃあ、やり直すからここを片付けてくれる?」

「ええ?これは??」

DIOは苦い顔をしているが、ジョナサンは気づいていないようである。
抱えているボウルの中身の、その惨劇に…。
何をどうしたらこんなおぞましい事になるのか謎だが、とても食べる気にはなれない。


「それはそっちに置いといて。仗助に直してもらうわ」

渋々その物体をよけたジョナサンに頷いて、徐倫は袖を捲り上げた。






―――――――――――――


「徐倫さん戻ってきませんね」

「え?あぁっ!!ジュースの事忘れてんな!?」

ガタガタと慌てて立ち上がる仗助を、ジョルノは唖然として見上げた。
それと同時に、仗助がプレイ中だったゲームが、ゲームオーバーの調べを奏でる。


「あっ!くっそー…」

やっとクリア出来そうだったのにとうなだれる仗助を眺めて、ジョルノは読みかけだった本をパタンと閉じた。


「僕が取ってきて差し上げます」

「いやっ!!それは俺が行くから座って座って!!!」

立ち上がったジョルノを無理やり座らせ、仗助はドアを開く。
不自然過ぎる仗助の行動にジョルノは目を細めたが、問い詰めても大した収益はなさそうだったので、ため息をついて見過ごした。
何より、元々彼はジョルノを特別扱いする節がある。

ジョルノを甘やかしているのか、ここに来たばかりのジョルノを気遣ってくれているのか、「いーって、良いって」と仗助はジョルノを行動させない。
成る程、なんとなくギャングの彼によって自分の立ち位置が変わったばかりのあの頃を思い出す。
映画館で、いつも威張り散らしていた子どもに、席を譲られるあの時の感覚。



「オレンジで良かったスか?」

「えぇ」

本当はコーヒーが良かったが、なんとなく言い出しづらいのは、仗助が妙に他人行儀だからだ。


―あぁ、そうだ。僕は他人行儀にされている気がしているのか。

ほんの少し、寂しい気がした。