悪と神。

隣で眠るDIOの顔をじっと見つめ、名前はそっと彼の髪に指を絡ませた。細い金糸のような繊細な髪はサラサラと流れ、白磁のようなきめ細かい肌を滑って落ちる。


「どうした。もの足りないのか?」


目を閉じたままのDIOがそう呟いて笑い、名前はぎくりと肩を強張らせた。マライアに選んでもらったドレスはDIOの機嫌を取るには効果的であったが、彼の情欲を煽るにも十分すぎたらしい。疲れでだるく重い体を無意識にDIOから離した名前は、必死に首を振って頬を真っ赤に染めた。


「そう逃げなくても良いだろう」

「そ、逃げたわけでは」

「また“恥ずかしい”か?」


昨夜の自分の言葉を引用するDIOに、名前はうろたえながら曖昧に頷いた。どうしてこの人はこんなにも心臓に悪いのだろう。跳ねて煩い心臓を押さえる名前はシーツを押さえる胸元の手を引かれてDIOの方へと倒れこんだ。
悪戯を楽しむように意地の悪い笑みを浮かべ、DIOは名前にキスをして滑らかな曲線を描く名前の体をゆっくりと撫で上げる。


「DIO様」

「名前…」


耳まで赤くなった名前が、名を呼ぶ度にうっすら涙を湛えることにDIOは気付いていた。感情をなくした人形の様相は今ではすっかりその形を変え、透き通るようなその相貌には何かの決意が見え隠れる。
時折遠くを見つめるように何かを考え込む彼女の横顔に、DIOは胸中をかき混ぜられるよな、悲しくなるような感情が内側にどっと満ち、それと同時に美しく成長する名前の姿に強く惹きつけられて心を奪われるような気がしていた。


(私の運命を変えるか)


以前、名前がここに来た当初にエンヤ婆が占った結果をDIOは思い出していた。“救いと厄災”。名前がDIOにとっての災悪であり、救いである。
その結果は実に興味深く、DIOはどっちに転ぶのか分からない名前との行く末を楽しみにしていた。
天国へ行く方法、名前との行く末、ジョースター家との因縁の決着。
そのどれもがDIOを強く突き動かす。


(神をも超越しようとする私の運命を変える…?それとも)


「名前、お前は私の何を示すのだ?」


唐突な質問に、名前は目を瞬かせて首を傾げた。



「何のお話ですか?」

「いや…」


名前の髪をさらりと撫で、頬に手のひらで触れると、DIOは名前を引き寄せて口付けた。答えを求めているわけではない。未来が今のDIOには見えない。
いつか、この先、プッチと結託して神を超越出来たとき、この世を創造したという神をも従え、無限に続くこの世の運命というループを開放し、意のままに操ることが出来れば、DIOに最早分からないことなどない。
人間でも吸血鬼でもなく、DIOは神へと昇華する。
その過程の中で、名前がどのように厄災となり、救いとなるのか。



「このDIOとお前の、どちらが強いかが重要だ」

「…?私がDIO様より強いはずがありません」


そう言い切った名前を横目に、DIOはフッと小さく笑った。
天国へ行く方法。それを実行するにはどうあってもジョースター一行を始末し、邪魔者を消しておかねばならない。一抹の不安要素をも残さず、確実にこの世を掌握する。
DIOは天井をじっと見つめ、名前の肩を抱き寄せて目を閉じた。
作戦を、実行するときがそこまで来たと感じていた。

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