闇に燃える深紅の花
「名前はどこに行ったのだ」
テレンスは私を振り返り、ゆったりと挨拶をしてから「名前は、マライアと買い物に出ております」と答えた。
何故マライアなのかという問いに、「何分女性の買い物ですから、それに相応しいのが丁度近くに滞在していたマライアでしたので」と答えたテレンスは手馴れた様子で私にイスを勧めた。気に入らないが、舌打ちをしてソファーに腰掛ける。
妙な・・・胸騒ぎを感じていた。
「た・・・ただいま戻りました」
ソファーに寝そべったまま本を読んで居た私の耳に待ちわびた声が届いた。
ドアから首だけ出して覗いた名前は、私の機嫌を伺っているようだった。
これだけ待たされたのは初めてだ。にも関わらず、すぐに駆け寄ってこないところに、ふつふつと苛立ちを感じる。
「・・・入れ」
短く答えて本に視線を戻すと、流石に機嫌の悪さを感じたらしい。
名前がおずおずと部屋に入って私の前に立った気配を感じた。
「あの・・・断りも入れなくて・・・ごめんなさい」
泣きそうな声を聞きながら、本にしおりを挟んだ。わざとらしく大きな溜息をついて顔を上げると、いつもとは違った装いの名前が今にも泣き出しそうな顔で私を見ていた。
「・・・」
一言灸を添えてやろうと思っていた。にも拘らず、言葉を発することすら忘れていた。
深紅のシルクが柔らかな名前の身体を包み、服の上からでもその滑らかな曲線を描き出している。
闇の中で静かに燃えるようなそのドレスに散りばめられた小さな宝石が星のように輝き、長い裾に入れられたスリットからは長く綺麗な足が覗いていた。
自分の中に湧き上がっていた怒りはその名前の姿に、いとも容易くなりを変え劣情の火が宿る。
「・・・本当に、ごめんなさい、DIO様」
そんな私の気持ちなど分かるはずもなく、名前は頭を下げた。
長い髪は珍しくまとめ上げられ、白い首筋が露わになっている。私の中の本能がそこに噛み付いて名前の血を吸い尽くしたいと訴えるが、それを一瞬で抑え込んで名前の白い頬に触れた。
「珍しい格好をしているではないか。一人で選んだのか?」
「あの・・・マライアと一緒に・・・」
「いつの間にマライアと打ち解けたんだ」
「今日・・・です」
険悪なのだと思っていたが、どうやら間違いではなかったらしい。女の嫉妬など知ったことではないが、名前が私の部下・・・とりわけ女勢に気に入られていないことは気付いていた。
人の感情の動きに敏感な名前が気付いていないはずもなく、なるべく避けていたと認識していたが、彼女なりに仲間となるべく行動をとったのか・・・あるいは・・・。
「あたしにこういうのは似合わないって言ったんですけど・・・」
「そんなことはない。よく似合っているぞ」
スルリと抱き寄せて膝の上に抱きかかえ、その首筋に鼻を押し付けた。
微かに香水が香り、鼻の利く私にも気分を害するほどではないその香りは名前によく似合う香りだった。
「香水をつけているのか」
「はい。できるだけ薄くつけてもらったんですが、くさいですか?」
「いや、良い香りだ」
なかなかのセンスの良さに、すっかり怒る気など失せていた。
これは一本取られたと言っても過言ではない。
「こんなに足を出して、私を誘っているのか?」
いつの間にか肌蹴ていたスリット部分から手を滑り込ませて撫で上げると、名前は「ひぅ」と小さく悲鳴をあげた。
キュッと肩を強張らせて緊張する姿が初々しい。
「そんなに恐がることはないではないか」
「ちがっ、その・・・っ、恐いのではなくて」
顔を真っ赤にする名前の肩を抱き寄せ、振り向く名前にチュゥと口付ける。
柔らかな唇をぺろりと舐めて「ではなんだと言うのだ」と囁くと、彼女は耳まで赤くして手で顔を覆った。
「恥ずかしいです」
見る見る内に全身の肌が紅潮していく。
その姿に首を擡げる嗜虐心に舌なめずりをして、マライアに褒美の言葉をかけようと心に決めた。
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