覚悟を持って準備を。

あたしにとってのDIOは、いつからかけがえのない大切な人だったのだろう。
それは恐らく、出逢ったその時から。
この世のものとは思えぬほどの妖艶なその魅力を惜しげもなく晒し、微笑み、招きいれた。そのDIOに会わせられる為に父親と家を出たその瞬間から。
あたしにとっての生きる場所は、DIOの隣以外に存在しなかった。


「テレンス・・・」


料理をしているテレンスに背後から声をかけた。背中を向けたままのテレンスが「なんですか?」と答えるのを待って、あたしはゆっくり口を開いた。





ここに来るまで、あたしの世界は死んでいた。
やるべきこともなく、やりたいこともなく、ただ全てに無関心になることで己を護る日々。
取りこぼしたくない大切なものが溢れた今、あたしは一体何が出来るのだろう。
それを考え、悩み、頭が痛くなり始める頃私は一つの答えを見出した。















「あら、名前。どうしたの?私に貴女から会いたがるなんて」


テレンスに頼んで約束を取り付けてもらったマライアと、DIOにばれないように昼間の街中で待ち合わせていた。
スタイルもよく顔も美人。道行く男性が振り返ることも気にせずに電柱にもたれるように立ち、タバコを指で挟んで紫煙を吐き出す姿は女優さながらだ。


「あの・・・お願いがあって・・・・・・」


彼女があたしを好いていないことは知っていた。今でこそ少しは会話もするようになったが、DIOに連れてこられた当初はかなり嫌われていて顔も見てもらえなかった。
DIOに惹かれる人たちにとって、唯一隣に置かれ、寝食を共にするあたしは邪魔者以外の何者でもなかった。
申し訳ない気持ちで俯きがちにそう告げると、マライアはフーッと細く煙を吐いて私を見下ろしていた。


「嫌よ。なんで私がアンタのお願いなんか聞かないといけないのよ」


予想通りの答えだった。
断られて、頼みの内容も聞いてもらえないと分かっていた。しかし、あたしもここで引き下がるつもりはない。



「お願い!!どうしてもマライアが良いの。他に頼める人居なくて」


必死に食い下がることになることも予想通り。
頭を下げているからマライアの顔は見えないが、彼女がこれでも聞き入れてくれないならばあたしの頼みの綱は切れる。


「・・・・・・・・・・・・一体何よ。アンタ、そんなキャラじゃなかったと思ったけど?」

「確かに連れて来られた当初は仲間になると決断も出来なくて・・・意志のない人間だった。でも今は違うの。DIO様の為に、あたしに出来る何かをしたくて・・・あの、マライア。あたしと買い物に行って欲しいの」

「はぁ?」

「あたしの持ってる服じゃあ、何かあったときには身動きもしにくいし、もっと動きやすいものが欲しいのだけど、あたしはこの辺の地理は全く分からないし、その・・・センスも今ひとつなもんで・・・」


自分の服を並べてみてがっかりだった。
ワンピースばかりでは戦闘になった時に自分の身一つ護ることさえままならない。スカートがまとわり着くようでは走ろうにも走りにくい。
運動だって得意ではないし、このまま暢気に構えていてはDIOの足を引っ張ることは明白だ。
一つ一つ考え、準備を整えなければ。
マライアの顔を伺って見れば、珍しく綺麗な顔を僅かに歪め、ぽかんと口を半開きのまま丸い目であたしを見ていた。


「くっだらないわ。そんな次元の会話になるなんて予想外もいいところよ」


心底呆れたとあたしの頼みを一刀両断し、マライアは頭を抱えた。
そうなる予感もしていた。
着々と戦いの準備を進めるDIO達の隣で、あたしだけは別次元からのスタートなのだ。
自分で考えてみても、情けなっくて涙が出てくる。
これはもう駄目かもしれないと落胆するあたしの頭の上で、マライアはプッと噴き出した。


「あははは・・・あー・・・、もうギャグだとしか思えないわね。あんた予想以上に馬鹿なのね。どうしてDIO様はこんなちんちくりんのお子様がいいのかしら」


もっともすぎて、ぐうの音もでない。
今度こそ涙が滲んできた。
ゲラゲラと今にも転がる勢いで笑うマライアに「ごめんなさい」と小さく返すのが精一杯だった。




「はー・・・。ククッ・・・いいわ。面白い。笑わせてもらったから、服ぐらい見繕ってあげる」

「・・・え?」


何と言われたのか、耳を疑った。
これだけ笑われた後にそんな言葉を聞くとは夢にも思わなかった。


「見てあげるって言ってんのよ。DIO様の隣に並んでも、DIO様が恥ずかしくないような装いをするべきよ。それと、街を歩くのに良い感じの服も、ね」


パチンとウインクをするマライアに見惚れ、あたしはこくんと首を縦に振るのがようやくだった。

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