わざとじゃない

「それはちょっと歪んでると思うよ」

苦笑するプッチを見て、私はフンと鼻を鳴らした。
何とでも言えばいい。
失礼な笑みを浮かべるプッチをさておき、私は膝に乗せた名前を見た。
子ども特有のぷくぷくとした肉付きと、どこをとっても小さな身体。
さらさらとした細い髪は、大人の時より色素が薄い。
くりくりの目で、相も変わらず真っ直ぐ私を見つめる目は、どこまでも透き通っている。


「名前、何が食べたい?」

「イチゴとクリームの乗ったプリン」

「そうか、用意させよう」

フニフニと柔らかな頬をつつくと、名前は目を細めて笑う。
テレンスに早急に手配させたワンピースもピッタリだ。アイツの趣味も、今だけは認めざるを得ない。


「ねぇ」

「何だ?」

「カーテン開けても良い?」


名前の言葉に、私とプッチは目を見合わせた。
すっかり知能も子どもに戻っている名前は「お部屋が暗いわ」と言いながら私を真っ直ぐ見つめる。
知能も子どもに戻るのだから、当然と言えば当然の反応か。
子どもというものは、無邪気で残酷なものである。


「名前、DIOは太陽に当たれないんだよ」

「そうなの?」

「あぁ、すまないな」

ぷくぷくのほっぺを少し膨らませた名前は、尖らせた唇で少し考えて私の頬に触れた。


「可哀想」


可哀想?
自ら人間を捨てたのだ。
そこに感傷などない。
太陽の光に当たれずとも、それを代償に私は多くのものを得たのだ。



「じゃあ、あたしがDIOをお日様から護ってあげるわ!」


小さな手で私に触れる名前はニカッと笑った。
どこか冷めていた名前からは想像も出来ない言動は、一体名前の人生に何があってあんな風に冷めてしまったのか考えさせる。
否、もしかすると、冷めているのではなく、自分を殺しているのか……。
小さな手が私の頬に触れ、心の奥底で何かが音もなく溶けたように感じた。
私も気づかない傷があったと言うのか?


「お前の髪はサラサラだな」


細い髪を梳いて抱き締めると、名前は「くすぐったい」と笑って私の膝を飛び降りた。
プッチに駆け寄り、私から隠れるようにその背中にしがみついた名前は、こっそりこっちを伺う。幼い名前はプッチの影から、こちらの反応を楽しそうに見て笑った。
全く隠れることが出来ていないところが可愛らしい。



「警戒されてるじゃないか」

「お兄ちゃん、高い高いしてー!」

「仕方ないな、ほら…」

「きゃー!!」


プッチが笑って名前を抱きかかえる姿は、流石は神学生と言ったところか。
両手で高く上げられた名前は、手放しでハシャいで笑い、もう一回とねだる。
しかし面白くない。
大人の名前も、子どもの名前も他人にばかり懐く。



「お前は一緒に居たいと言いながら、私から逃げてばかりだな。一体どうしたいのだ」

そんな事を言っても、今の名前には理解出来ないだろう。
そう思いながらごろんと横になって肘をついた。
子どもだったら料理には行かないと思ったのに、一筋縄ではいかない。
ムッとする私に気づいた名前はおずおずと近づき、そっと肩に手を置いて恐る恐る私を覗き込んだ。


「……怒ってるの?」

「怒っていない」

大人気なくも、強い口調を隠しきれない。
目ざとくそれに気づいた名前は、上目遣いに私を見て口を尖らせた。


「だって、おじちゃんはドキドキするの」

子ども独特の、よく分からない主語の抜けた言葉に、私とプッチは眉を寄せた。
辛抱強く続きを待つと、名前はプッチにしがみついて私を振り返る。
と言うか、おじちゃん???



「おじちゃん、すごい人なの?」

どう答えるのが正解なのか、子どもってのは本当に理解出来ない。


「おじちゃんの近くはドキドキするの…………。おじちゃん、あたしの事好き?」

「は?」


今更何だと言いかけて、そう言えばそんな事をはっきり伝えた覚えはない事に気づいた。


「あたしはおじちゃん好き。いつか、どっか行っちゃうの?さみしいよ」


名前の言葉の意味に気づいたのか、プッチは盛大に吹き出して笑うと、不安気に私を見る名前の髪を撫で、そっと頬にキスをして「大丈夫だ」と諭した。


「DIO、キミが悪かったんじゃないか。不安にさせるからだよ」

「む……、そんな事言わずとも、私は表現していたではないか」

「キミに惚れる女性はたくさんいるんだ、勘違いしたり不安になるのも仕方ないじゃあないか」



押し黙る私に、プッチは名前を差し出した。
抱えておけという事らしい。
不安げに私を見る名前の髪を撫で、抱きしめて髪にキスをした。
いつもの名前の香りが鼻を擽る。
子どもの姿でなければ、このままキスをしたんだがな。


「私は席を外させてもらうよ。二人で話し合えばいい。ドアの外に待たせっぱなしの彼に、もうスタンドを解除するように伝えて置くから」

「悪いな」

「いいさ」



パタンとドアが閉じてしばらくすると、名前の叫び声が部屋に響いた。
服の事、忘れてたんだ。ワザとじゃない。

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