いいタイミング

「お前は私のものになったのではないのか!?」


「今日はプッチさんも居るし、別に良いじゃないですか!」


名前は私をぐっと睨みつけると、畳んだ洋服を抱えて部屋を出て行った。
恐らくは今日アメリカに来たテレンスと、料理でもするのだろう。プッチがこの部屋にいるから、別室で着替えるのはまだしも、どうしてこうもこの私を放置できるのか…。

分からぬ・・・。
私の傍に居たいと言ったのは夢幻だったのだろうか。どう考えても名前は私よりもテレンスに気があるように見える。
面白くなくなって片肘をついていると、プッチが笑って私を見ていた。


「なんだ?」

「いや・・・ずいぶんと変わったキミを見て楽しんでいるだけだよ」



ますます面白くない。
仕方なく読みかけだった本を手に取ると、ちょうどノックの音が響いた。


「DIO様、ちょうどアメリカに視察に来ていたので寄らせていただきました。テレンスがここのお部屋だと言ったので・・・……………………DIO様?」


部下という奴は何人居ても良い。
使えるコマは多ければ多いほど良いのだ。
そんなコマの一人である男を見て、こんなにも“良いタイミングだ”と感じたことはない。
僅かに目を見張った私に首を傾げるその部下に、私は一つの仕事を指示した。



















「せっかくの旅先でまで私のところに来なくても良いんですよ?アナタはアメリカは初めてでしょう?」

「良いの。DIO様ったらしつこいんだもん」


私の言葉に、テレンスはなんとも言えない笑みを浮かべていた。
そりゃ確かに、部下と言える立場に居る以上、DIOをそんな風に言って良いわけがない。
分かってはいても、やれ「そんなにベッドの端に行くな」とか、立ち上がる度に「どこに行くのだ」とか・・・。
DIOの屋敷に比べてずっと小さい・・・いや、これこそが人並みの屋敷(それでも大きい)であるプッチの家で迷うはずもないのに、ずっと構われては疲れもするというもの。


「名前はDIO様の何がそんなに不満なんだ?」


刻んだにんじんを鍋に放り込みながら、テレンスは首をかしげている。
本気でそう言っているあたり、テレンスもプッチと同じ様にDIOを盲信しているのだろう。



「何って…だって…………」


口を尖らせて言い淀むと、テレンスは私を見て目を細めた。
こんな顔をしているテレンスは、あまり良いことを考えていない。


「質問を変えましょう。本当に不満なんですか?」


「ち…ちょっと、テレンス!!それは酷いわよ!!!」

「なんだ、Noなんじゃないですか」


本当にズルい能力だ。
フフッと笑ったテレンスは、鍋をかき混ぜて「ただの照れ隠しですか」と呟いた。
いつか殴ってやる。
黙って何も答えないあたしをチラリと横目で見て、テレンスは小さく笑った。
何も答えなくても、どうせ筒抜けだ。


「だって、DIO様のお側に居るの辛いのよ」

「はぁ…、よく分かりませんが。緊張すると言うならそうなのでしょうね」

「そうよ」


そもそも、あんな綺麗な男の隣で、何も感じない女が存在するのかどうかすら疑わしい。
あんまり近づくのは目の毒だ。
たくさんの女を匿うDIOの、その内の一人だと言うことを忘れそうになってしまう。




「そうは言っても、いくらDIO様でも、ようやく得た恋人に放ってばかりいられたら………………………なんですか、その顔?」


耳を疑った。
DIO様と誰が恋人??
目を見開いたあたしに、テレンスは眉を寄せた。
明らかに怪訝な顔をしたテレンスに、あたしは更に詰め寄る。


「何の話??」

「何って、アナタの話ですよ??」


よっぽど間抜けな顔をしていたのかも知れない。眉を寄せるあたしに、テレンスは引き気味に身体を仰け反らせて答える。




「……誰がDIOの恋人なの?」

「は?何言って……っ、名前!?」


あたしのせいで、多分テレンスは油断していたのだろう。突然目の前のテレンスがめきめきと巨大化していく。
直ぐにスタンド攻撃だと気づいたが、テレンスが気づかないスタンドの気配に、あたしが気づくはずもない。
突然巨大化するテレンスを、あたしは為す術もなく見上げた。




「な、何ぃい、名前!!お前…」

「て………テレンスが……」

「名前、私じゃないんだ!アナタが縮んだんです!私が大きくなったんじゃない!!」


テレンスに抱き抱えられて振り返ると、知らない男とDIOが立っていた。
いつの間にか服がブカブカで、だらしなくずり落ちそうな服を着たあたしを、DIOは楽しそうにテレンスから受け取る。
あれ、あたしの手、小さい?


「ぬ…テレンス、名前に服を用意してくれ」

「お言葉ですが、DIO様…「急げよ」



黄色い髪のその人は、お顔にもようのある人に笑いかけた。なんだかイジワルな顔で笑っていた。
二人は何だか難しい言葉で話していたけれど、あたし、あっちのお兄さんが良かったなぁ。
黄色い髪の人は、キレイだけど…でも………。

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