心と自己防衛。

新しい事を覚えるのは好き。
だけど、他人の人生に深く関わるのは嫌い。
だからこそ、戸惑いをとても感じている。


あたしはテーブルの料理を眺めて、ため息をついた。
せっかくテレンスが料理を教えてくれていたのに、途中でDIOに呼びつけられ、完成までの手順を学べなかった。



「今日はテリヤキチキンの予定だったのに」

「そんなにふてくされるな。私につき合うのもお前達の勤めではないか」

「付き合うって言っても、本を読むだけですよね?」


フンとDIOが笑うのを、複雑な気持ちで見ていた。
この麗しい神様は、あたしのスタンド能力というのを気に入っているらしいが、あたしは自分のスタンド能力をよく知らない。
使いこなす自信もないし、彼に協力するつもりもない。


ー協力するってことは、あたしが他人の人生に深く関わるってこと。そんな恐ろしいこと、とても出来ない。


本を捲るDIOはあたしの視線に気づいたのか、チラリとこちらを向いて笑った。
元々綺麗な顔を、さらに綺麗に歪めて笑う。
その圧倒的な余裕と優雅な雰囲気に、堪らなくなって視線を逸らした。


「なんだ、目を逸らすな」

「別に……本を読むために逸らしただけです。他意はありません」

「遠慮するな。もっと私を見れば良いだろう?」


どんな思考回路しているんだ。
とんでもない自信家で、時々羨ましくなる。
しかも、それに値するだけのものを持っているのだから腹立たしい。
いや、だからこそ神として奉られるのだろう。



「名前、こっちを向け」

突然ギシリとベッドのスプリングが軋み、DIOの手があたしを掴む。
長い指に顎を掴まれ、あたしの視界にDIOが映った。
強く掴まれて痛いのに、視線は目の前のDIOから離すことも出来ない。
心臓が早鐘を打つ事に気づかれない事を祈った。



「離して下さい」

「何故私に協力しないのだ。世界が手に入るのだぞ?」

「興味ないんです」

「理解できぬ。どうしてそれだけの力を持ちながら、利用しないのだ?」

「興味ないからです」


興味ない。
世界も、人間も。
何故そんなに固執するの?
手に入れたって、苦労するだけなのに。
どんなに必死に守ろうとしたところで、それは手の中に止まらないのに。
だからこそ、興味ないと言い張って、全てから逃げてきたのに……どうして貴方はあたしを離してくれないの?
DIOはそんなあたしを見て、数度瞬くと眉を寄せた。





「お前は、何から自分を護っているのだ?」




ーパシッ!!!


乾いた音が響いて、あたしはDIOの手を払いのけていた。
無意識だったが、どうやらあたしは怒っていたらしい。
一時的にカッと頭に血が昇ったけれどそれは一瞬の事で、次の瞬間にはすでにひどく他人事に思えていた。

あたしの心を、こじ開けないで欲しい。

心を開くのは恐ろしくて、臆病なあたしは勇気を出せない。
それでもここを逃げ出さない理由には、本当は気づいているけれど………。




「なんだ、怒る事もあるのだな」

「あ……」


DIOは目を細めて私を眺め、それ以上何も言わずに部屋から出て行ってしまった。
上司に手を挙げるなんて言語道断だ。
あたしは一人残された部屋で、路頭に迷う明日の自分を見た。
指の隙間から、また一つこぼれ落ちるのだと思うと、目の前が暗くなった。


目を逸らしたって、いつの間にか手には入っているものだ。
守りたくなる、大切な物は……。

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