無着色な世界。

ベッドをギシリと軋ませて横になるDIOをちらりと見て、あたしは再び本に視線を戻した。


「そんなに面白いのか?その本は」

クルクルと人の髪を弄ぶDIOは、退屈した様子であたしの本を覗き込む。
どうして読書というものは、人に覗かれると気が散るのだろう。
今日はこれ以上本を読み進めることは出来ないらしい。



「何か用ですか?」

こんな口を利いている所をテレンスに見られたら、こっぴどく叱られそうだ。
しかし、自分の部屋がDIOと同室で、にも関わらずプライベートな時間はここでしか持てないのだ。不満を抱くことがあってもおかしくはない。


「テレンスとは打ち解ける事が出来たようだな」

「お陰様で…少しですけど」

打ち解けたのはあたしの方向音痴がばれた時な気もするが、かっこ悪い事をわざわざ自分から言うはずもない。
何故そんなことをいきなり言い出したのか、DIOの真意は分からないが、取りあえず頷いて答えた。



「お前は私の嫁になるためにここに来たのか?」

「何を今更?」

妙な事を言うものだ。
私に選択肢もなければ、意見を聞くこともしなかったくせに。
ただ、そこに文句を言うつもりははなからなかった。彼は人を納得させる力を持っている。スタンド能力ではなく、言葉巧みに人を従える能力。
人を魅了するカリスマだと思った。




「名前、お前は・・・」

「何ですか?」

「・・・なんでもない」

この人でも言い淀む事があるのか。
珍しい光景に、閉じたまま持っていた本をベッド脇のサイドテーブルに本を置いて、肘を着いてこちらを向くDIOの隣に横になった。
灯された蝋燭の明かりがゆらゆらとDIOを照らし、綺麗な金髪がゆらゆらと光っていて美しい。
ベッドのヘッドボードに背を預け、あたしの様子を見ていたDIOのそのきらきらの髪に触れてみる。


「DIO様の髪・・・綺麗で羨ましいです」

「何だ、私の味方になる気になったのか?」

「どうしてそうなるんですか?両極端なお人ですね」

ジッと赤い瞳を見つめると、DIOはフンと鼻を鳴らして「冗談だ」と笑う。
綺麗に歪められた唇から、チラリと尖った歯が見えた。
とても美しい容姿をしているが、どうやら彼は人間ではないらしい。妖艶過ぎる雰囲気に納得がいくというものだ。



「DIO様は、何を成そうとしていらっしゃるのですか?」

「・・・世界を手に入れるのだ」

「そうですか」

この人ならば出来てしまいそうなのが恐ろしいところだ。
何日も同じ屋敷で生活していれば、DIOがいかにカリスマ的才能を持っているかが分かる。
人の心の隙間にするりと入り込み、虜にし、利用してしまう。
自分の親が騙されていたのだとしても、DIOが相手だったのだから抗いきれなかったのも無理はないと思えてしまうほどだ。


「驚かないのか?」

「そうですね・・・突拍子もないことですが、DIO様ならば出来るような気がするので」

「それでも私の味方になる気にならないのか?」

その言葉を、私は何度聞いただろう。


「残念ながら、興味がないので」

短く断って、私は襲い掛かる眠気に従って目を閉じた。
興味のない世界。
そこに変化が起きつつある事を感じながら、私は眠りの中に体を沈めて思考から逃れる。
それが自己防衛反応だと知っていて、ただ大切なものを作る事に恐怖しているだけだと分かっていて、全てから逃れるように目を閉じた。

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