仕事と能力。
朝………DIOにとっての朝なので、夕方だが……。
あたしはテレンスに揺さぶられて目を覚ました。
何度も揺さぶられることに不満を覚えつつ目をこすると、テレンスが人差し指を立てて静かにしろと合図していた。
時計は3時を指していて、いつもより2時間も早く起こされた事になる。
「…こんなに早くにどうしたんですか?」
「仲間になる以上、アナタにも働いてもらいます」
青天の霹靂だと思った。
目を丸くしたあたしに気まずくなったのか、テレンスがフイッと顔を背けて部屋を出たので、慌てて服を着替えて部屋を出た。
ドアの外に居るかと思ったのに、テレンスは既に仕事に取りかかったらしい。
この時間なら恐らくキッチンだろう。
……………………。
「遅い!!!」
「ごめんなさい。迷ってしまって……」
「屋敷内で迷う家臣がありますか?覚えて下さい」
「ごめんなさい」
DIOの付き添いがない時に部屋を出なかったのは、単に他の人の視線が怖かっただけではない。
いや、一応それが大きな理由なのだが…。
なんと言うか……。
つまり……………その………………………。
「まさか、方向音痴とか言いませんよね?」
「……………」
「……yesですか。……プッ、クククッ」
なおも黙り込むあたしに、テレンスは吹き出して肩を震わせた。
本人を目の前に爆笑なんて、失礼だわ。
「そのスタンド狡い。隠し事出来ないじゃない……」
「すみません。だから毎度DIO様に連れられて歩いていたのだと思うと……ククッ」
再び堪えきれなくなったように笑うテレンスを横目に睨んで、テレンスが作りかけていた料理の手伝いをするために腕捲りをした。
笑われた理由はさておき、少し距離が縮まった気がして嬉しかった。
「何をすれば良いですか?」
「そう言うことは分からないんですか?」
「さぁ…、あたしに分かるのはスタンドの事だけです。で、何をすれば良いですか?」
「そこのジャガイモを茹でて下さい」
テレンスの指示に従って仕事を始め、あたしはようやくここでの暮らしに馴れることが出来る予感を感じ始めた。
心の中から他人を締め出しても、あたしは独りを嫌っている。
いや、独りが嫌だからこそ、ハナから他人を閉め出しているのかも知れない。
そんな弱さを知っていながら、気づかない振りをして生きていた。
「居ないと思ったら、何をしているのだ?」
「仕事です」
テキパキと皿を並べる私を眺めて、しばらくは黙って見ていたDIOが、その長くたくましい手であたしを掴む。
ニヤリと口元を歪め、鋭く美しい瞳が細められるのを見た。
「では、私の味方になるのだな?」
この人の中では、味方と敵しか存在しないのだろう。
あたしは野心に目を輝かすDIOの手を離して、「さぁ…」と濁した。
不服そうにしていたが仕方ない。
なんせ、あたしはDIOの事を何も知らないのだから。何を理由に、DIOの味方になれば良いのかわからない。
「今日のポテトサラダは、あたしが作りました」
「まさか料理もろくに出来ないとは……」
「本なら読んだことあるんですけど………」
テレンスには「みっちり教えるので、私に楽をさせて下さい」と口酸っぱく言われた。
確かに家事を他に出来る人が居ないようだから、よっぽど苦労しているのだろう。
エンヤお婆さんが出掛けている今は特に大変そうだ。
「仕方ない。頑張ります」
「戦力になるまでに時間がかかりそうですけどね………」
「呟くなら聞こえないように言って下さいよね。聞こえてますよ」
フンッと笑うテレンスに、あたしも笑って返した。
DIOが微妙な顔をしていたけれど、まだ味方になる予定はないので気づかないふりをした。
こんなに安らいだ気持ちになったのは、久しぶりだった。
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