ホワイトデー(3部)




DIOに呼び出された私は、DIO邸を訪れていた。
約束の時刻少し前に着いた私に、テレンスが客間へ通して紅茶を出してくれる。

「すぐに降りて来られるとおっしゃってましたので、少々お待ちください」

「お構いなく」

おいしいケーキをゆっくり堪能できるのだ。
DIOが来たらゆっくり食べられないし、まだ来なくて良い。
そんな本音を笑顔の下に隠して、私はテレンスお手製のケーキに舌鼓を打っていた。

この後、ある種の人生の転機が訪れることも知らずに。



「なんだ、ケーキを食べていたのか」

「DIO、早かったのね」

「なんだ、もっとゆっくり降りてきた方がよかったのか?」

即答で頷く私を、DIOは笑いながら膝に乗せる。
いつもは承太郎や花京院が妨害する為におとなしく膝に抱えられる事はないが、なんせ今日はDIO邸だ。
当然二人はここには居ない。
されるがままに膝にちょこんと座ると、DIOはチュッと頬にキスをする。
DIOには普通の挨拶なのだろうが、私にはちょっと恥ずかしい。

「今日はおとなしいな」

「別に暴れたいわけじゃないし」

そうだ、いつもいつも暴れるのは私ではなく…。

「邪魔するぜ」
「やっぱりここでしたか」

そう、花京院と承太郎だ。

「ぬぅ、窓から入るな!邪魔だと分かっているなら帰れ!!」

「そうはいきません。今日はホワイトデーですから、バレンタインのお返しをしなくては」

律儀なのか何なのか…。
やっぱりこの三人は仲が良いんだと思う。
喧嘩するほど仲が良いの究極形態。


「そいつを返してもらうぜ!」

承太郎に睨まれたDIOはザワールドを出現させた。

やばい。

私は今DIOの膝に抱きかかえられているわけで、がっちり回された腕は簡単には抜け出せそうにもない。
スタープラチナが私を睨んで、ザワールドとの間合いをじりじり詰める。


「こいつは今日から、このDIOの嫁になるのだ」

初耳ですけど。

「へえ、吸血鬼も冗談を言うんですね」

何だ、冗談か。


「冗談ではない」

「ちょ、DIO!私何も聞いてない!!」

腕から抜け出そうとじたばたする私に、DIOは「当然だ」と笑みを浮かべる。
その麗しいお顔を少し離してくれませんか。
近すぎる距離で綺麗に歪む唇に、人間のそれとはかけ離れた鋭い歯が光る。

「今からプロポーズするつもりだったのだ。こんな邪魔が入らなければ、もっとお前が好きそうな演出も出来たのだが」

女心をわきまえたDIOの言葉に、少しだけ心臓が跳ねた。
いや、やっぱりDIOがきれいだからかも。
無駄に色気を振りまくのはやめて欲しいものです。

「ますます帰るわけにはいかねーな」

「そうですね、貴女を吸血鬼にさせるわけにはいきませんから」

吸血鬼化!?
確かにそれはお断りしたい。

一触即発の三人。
逃げ出せない私。
どうしてこんなことになったのか…。


「ねえDIO、どうしてホワイトデーにプロポーズなの?」

私の言葉にDIOは目をぱちぱちと瞬かせ、小首を傾げる。
綺麗で麗しくて、なお可愛いって何なんだ。

「テレンスが言っていたのだ」

「何て?」

「バレンタインにチョコをくれると言うことは、お前は私に気があるのだと…」

おっと、異文化交流。
カルチャーショックとはこのこと。


「だとすると、僕達もプロポーズしなくてはいけないことになりますね」

クスクスと笑みを浮かべる花京院に、DIOはハッと目を丸くした。
私は確かにバレンタインにガトーショコラを作った。
でもそのケーキはラッピングすらしないまま、承太郎と花京院とDIO。それに私とポルナレフを含む五人で食べたのだ。
一人だけにあげたりしてない。

「ぬう…ではこのDIOのプロポーズを断ると言うのか?このDIOのプロポーズを!!」

「まだ十代だもん、結婚とかよく分からないよ」

まずはお付き合いからとか出来ないのか。
正直に答えた私に、承太郎がフンと笑う。

「茶番が済んだならそいつを返してもらうぜ」

今日はたくさん喋るんですね承太郎。
いつもポケットに入れたままの手を、承太郎はゆっくりと出す。
手には可愛らしいラッピングが施されたプレゼントが握られている。

「わあ!!承太郎からお返しがもらえるなんて思わなかった!」

「お前はオレを何だと思って「女心の分からない大男」

「やれやれだぜ」

DIOの腕から開放してもらって、私は承太郎からお返しを受け取った。
複雑に結わえ付けられたリボンを解くと、袋の中から…








「アポ○?」




某チョコレートメーカーの、イチゴモチーフのチョコレート。
私お気に入りの慣れ親しんだパッケージを手に、高級なチョコレートを期待した私は落胆の色を隠せない。


「お前そればっかり食ってたからな。よっぽど好きなんだろ」

今日ばっかりは「私のこと良く見てくれてるのね!」なんて感動の言葉は出てこない。
もてるくせに彼女が居ないのは、その不器用さ故ですか?


「承太郎、彼女がそんなもので喜ぶと思うんですか?」

得意げになる花京院が、私の手にプレゼントを差し出す。

「プレゼントは贈られる人の気持ちになって、もらって嬉しいものを渡さなくては」

シンプルな包装を破らないように開いていく。
承太郎よりも大きな包みは、見た目ほど重くは無い。

そう、重くない。
だからこそ、そこはかとなく嫌な予感はしてたんだよね。



「やっぱり、ゲーム・・・か」

「ええ、これは僕のお気に入りゲームなんですが、なんと数年ぶりに新作がでたんです!!!」

大興奮の花京院には、私のことは既に見えていないようだ。
今日ばっかりはこのセリフをお借りしたいと思う。

「やれやれだぜ」



―ガシャン!!


「こ…これは何事ですか!?」

けたたましい音に振り返ると、粉々に割れた食器を前にテレンスが驚きに目を丸くして固まっていた。

そう言えば、承太郎と花京院は窓から入ったんでした。
わなわなと震えるテレンスに言い訳をするより早く、キッと目を吊り上げたテレンスが大声を上げる。

「新作が出たですって!?」

あぁ、ゲーマーでしたっけ。


「花京院、テレンスさんとしてくれば?」

「えっ?……良いんですか!?」

本当に幸せそうで何よりです。
満面の笑みはテレンスへの不敵な笑みに変わり、二人は火花を散らしながら部屋を出ていった。
当分帰って来ないでしょうね。


「さて…承太郎」

もうなんだかア○ロが一番マトモだと言う泣ける状況に、私は笑いすら込み上げていた。
なんにせよ好意は好意。
最初から素直に受け取るべきだったな。


「貰うね。ありがとう」

「あぁ」


プイッと顔を反らした承太郎の耳は赤い。

「ラッピング承太郎がやったの?」

「スタープラチナでやれば楽勝だぜ」

スタープラチナ。
承太郎の保護者。
おそらく死ぬまで承太郎の自立は期待できない。


「じゃ、私帰るね」

「送って行く」

「ありがとう」



パタンと扉が閉まった部屋に、DIOの声がポツリと溢れて消えた。

「この…DIOが……」




翌日から、私はDIOから送られてきた大量のアポ○に苦しむ事になった。
来年のバレンタインは、絶対に何もしない。





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