四部
「えぇっ!?なんでだよっ!?」
億泰が愕然とするのも無理はない。
私は箱を持ったまま苦笑いを返すことしか出来なかった。
「バレンタインじゃないのか!?」
「しつけーぞ、億泰。俺たちは節分だっつってんだろ」
「この怒りをどこにぶつけりゃ良いんだよ!」
「豆で、ミキタカにぶつけます」
じゃんけんで鬼はミキタカがやることに決まった。
先ほど鬼の説明をしたら、ミキタカは鬼に変身してしまった。
私の癒やしのミキタカが………。
真っ赤な顔の鬼が「私は豆をぶつけられたら逃げて、そうでない時は襲いかかれば良いんですよね?」なんて確認してくる。
声を聞けばミキタカなのに、どう見ても厳つくて小汚い感じ。
「ヒドすぎる…」
億泰じゃなくても悲しくなる。
「こんな企画あんまりだわー!!!」
私が豆を投げて、試合…もとい、豆撒きが開始される。
踵を返して逃げ出すミキタカに、仗助が豆を投げる。
そんなに全力で投げなくても…。
「こうなったらヤケだぜ!!食らえーっ!!!!」
億泰までもが本気で豆を投げ、ミキタカも本気で逃げ出す。
恐るべし宇宙人…足早いっ!!!
公園の中を駆け抜けるミキタカは、豆を投げる私たちから逃げつつ、そこで遊んでいた子ども達に突進していく。
「マズい!アイツ豆を撒かないやつは襲うって確認してたよな!?」
そうだった!!
ミキタカのそういう天然なところが癒やしだけど、今日だけはそれが仇になりそうだ。
仲間内だけの行事であると、説明するの忘れてたわ!
仗助に言われてその事に気づき、今更きちんとルールを作っておかなかったことを後悔した。
しかし、後悔先に立たずとはよく言ったものだ。
「待ってミキタカ!!」
鬼の姿のまま、ミキタカは子どもの方へ駆けていく。
と、突然ミキタカの身体が、本のようにパラリと開いた。
「「げっ!!露伴!!」」
「げっ!!とはなんだ。せっかく助けてやろうと思ったのに」
「露伴、助けてー!!」
億泰と仗助が嫌がろうと、無関係な子ども達にトラウマを植え付けずに済むならそれに越したことはない。
「仕方ないな。貸しだからな?」
やっぱりご遠慮願いたい。
言うより早く、露伴はヘブンズドアーでミキタカに何かを書き込む。
「何て書いたの?」
ミキタカは何故か、怯える子どもから一転してこっちに向かってくる。
全力疾走のミキタカは私を通り過ぎ…………。
通り過ぎ?
「ミキタカ!豆から逃げろよ!」
「こっちくんな!!!」
あまりの迫力に半泣きの仗助とそれを追うミキタカ。
さらにはそれを追う億泰。
全力で走り回る三人を眺めて、涼しい顔の露伴を睨んだ。
「イベントクラッシャーめ」
どうせ仗助を追いかけたくなるとか、その辺りに違いない。
「邪魔者が居なくなって一石二鳥じゃないか」
何がどう一石二鳥なのか。
全く……。
「ところで、カフェ・ドゥ・マゴで、なんか変わったスウィーツを限定販売してるって聞いたんだがどうだ?」
「変わったスウィーツ?」
「今日限定で、チェリーのケーキを太巻きの様にしたスウィーツらしい。常連客の案で作られた企画ものらしいんだ」
露伴がそんなことに詳しいなんて意外だ。
恐らく、仕事の担当者から入れた情報だろう。
ちょうど喉も渇いていたところだ。
露伴のオススメでカフェ・ドゥ・マゴにむかうことにした。
バレンタインじゃなくても、やっぱりイベントは楽しみが多くて良いよねー!
「「ちょ、…おい!オレらこのままかよっ!!!!」」
「仗助さんっ、勝負ですよーーー!!!」
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