二部




「暇だな…」

ワムウは木の上でポツリと呟くエシディシを見上げて、こっそりため息をついた。
時間がありすぎる彼らにとって、一番の敵は暇とも言える。
カーズが出掛けてしまうと、残った三人は暇を持てますのが常だった。
狩りなどに出かけてもいいのだが、それは既に済ましてしまってもう腹も減っていない。


「そう言えば、人間の作った暦の上では、今は二月でしょうか」

ワムウがポツリと呟き、サンタナが頷いた。
どうやら彼も暇だと感じていたらしい。


「それがどうかしたのでしょうか?」

「いや・・・」

ほんの思いつきで話したのだ。
彼らの求めるような暇つぶしになるような話が出来る確信はない。
ワムウが言いよどんでいると、エシディシはくるりと回って木の上から降り立ち、ワムウの前に腰を下ろした。


「どうせ暇だったんだ。言ってみろ」

「ハッ・・・。以前食した人間が言っていたのですが・・・」


渋々切り出すワムウの隣に、サンタナも座り込む。
兄を慕うようなサンタナの期待の眼差しも、いつもは嬉しいのに今日は痛い。


「いや、今日は本当に大層な話じゃないのですが………、二月にはバレンタインというイベントがあるらしいのです」

「バレンタイン?どんなイベントだ?」

「何でも国によって違いがあるらしいのですが、日本ではチョコレートを贈るそうで…」

「へぇ…。人間ってのはどうにもお祭り好きだな」

「日頃の感謝を込めて、友人や同士に贈ったりもするそうです」

「ふむ、ではワムウ。今年は私にチョコレートを贈ってみろ」

「は?」

キョトンとしたワムウに、エシディシが笑う。
退屈しのぎに仲間で遊ぶ事にしたらしい。


「ではオレも…」

「お前は良い」

あっさり断られて少し寂しげにするサンタナを見て、エシディシはさらに楽しそうに笑う。


「サンタナ、お前はワムウに作ってやれ」

不意に背後から声が聞こえ、ワムウとサンタナは慌てて振り返った。

「か…カーズ様!」

月の光を浴びて、長い漆黒の髪をサラサラとなびかせたカーズが、ワムウを指差してサンタナを窘める。
そうしていれば、まるで子を躾る父親のようでもある。


「お前はワムウに一番世話になっているのだ、ワムウにチョコレートを贈らず、誰に贈るのだ」

サンタナは反論しかけて、「分かりました」と答えた。
ワムウは確かに、必要以上に自分を可愛がってくれるが、それはワムウが勝手にやっている事なのだ。こちとらもう少し放っていて欲しいくらいなのに……。
とは言え、面倒を見てくれるその事にも気持ちにも、嘘偽りはないのだ。


「ではエシディシは私に寄越せ」

「嫌だよ、面倒臭せぇ」

「良いではないか。お前の好きな暇潰しくらいにはなるだろう」

「うーん……。珍しいなお前がそんな行事に参加するなんてよぉ」

「時間は充分過ぎるほどあるのだ。そういう余裕をなくしてしまってはつまらんだろう」

(((何か楽しい事でもあったな……)))


随分機嫌の良いカーズが輪に加わり、バレンタインデーの確認が行われる。
妙なことになってしまったと後悔したところで、乗り気なカーズを止める手立てなどあるはずもない。
大男が妙なテンションで盛り上がりを見せながら、夜はゆっくり更けていく。





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