クリスマス with 荒木荘
「名前!!メリークリスマスだwryyyyy!!!!!」
突然の来訪者に、名前は閉じていた目を静かに開いた。
暗闇に浮かぶ人影が誰かなんて、火をよりも明らかである。
「重いです…DIO様」
「ぬ、貧弱貧弱ぅ!!!!」
誰だここにハイなDIOを放ったのは。
文句も言えずにグッと押しとどまる名前は、DIOをグイと押しのけて身体を起こした。
時刻はちょうど12時。
どうやら12月25日に変わると同時に踏み込んできたらしい。
−ピンポーン
躊躇いがちに押されたチャイムが深夜の家に響き、DIOが瞬間嫌な顔をする。気にせず押しのけてドアを開けると、吉良が眉を寄せて立っていた。
「すまない。一応出て来れないように棺おけを縛り付けていたんだが…いつの間にか中身が空になっていた」
「いいえ、お気になさらず。吉良さんもお疲れ様です」
この人いつか過労で死ぬんじゃなかろうか。
疲れ気った顔をしているが、吉良が名前の言葉に薄く笑い返す。
「こんばんわ、名前さん」
「こんばんわ、ドッピオ。今日はボスは?」
「ボスは…もうすぐ駆けつけるとさっき電話がありました」
エヘヘと嬉しそうに笑うドッピオに、吉良は「は?」と眉を寄せる。次から次へと押しかける隣人に、名前も堪えられずに吹き出した。
「アハハ、もう本当に予想通り過ぎるっ!!!早めに仮眠とって置いたので、良かったらどうぞ」
そう言って扉を大きく開いた名前の部屋にするりとドッピオ…ではなくディアボロが滑り込む。小脇に抱えたプレゼントがなんともイタリアーノらしい。
吉良も勧められるまま遠慮がちに「お邪魔します」と部屋に踏み込む。
「遅いぞ!!」
「カーズ様、出来れば玄関からお願いします」
どうして非人間組みは窓から進入するのだろう。窓の鍵を閉めていると割られかねないので、怖くて鍵を閉められない。
「貴様、鍵を閉めんとは無用心すぎるぞ」
「あぁ、一番言われたくない人に…」
最近テレビで防犯についての知識を得たらしいカーズの助言に頭が痛くなる。
うっかり窓の鍵を閉めようもんなら、窓ガラスをスパッと斬ってはいる男に言われたくない。例えば吸血鬼や究極生命体にも効果のある防犯グッズがあるならすぐに買いたいくらいだ。
いくら馴れたとは言え、恋人でもない男に起こされるなんて年頃の男としてちょっとどうかと思う。
「私が入れるように窓を開けているのだ。わからん奴め」
「貴様でなくとも、私だって入れる。貴様こそ、その事を分かっておらんではないか」
究極生命体と吸血鬼のどちらが強いか確かめてもいいが、吉良が疲れきった顔をしているので二人を呼んで卓袱台周りに座らせた。
どうせDIOなら来るだろうと踏んでいた名前は、前もって準備しておいた物を取り出して卓袱台に並べる。
小さな卓袱台いっぱいに並べたのはクッキーやマフィンと、サンタクロースの乗ったクリスマスケーキ。
「深夜に来るとは思ってなかったので、食べれなかったら持って帰ってくださいね。日本式のクリスマスですけど…」
気恥ずかしそうに笑う名前は、そう言ってラッピング用のかわいらしい小袋を取り出して配る。それにも小さなサンタクロースがあしらわれていて実に女性らしい。
「ディアボロさんはマフィンは避けてくださいね」
「む…分かった。仕方ない」
名前の言葉の意図することを悟り、ディアボロは大人しく頷く。自分の作ったマフィンをのどに詰まらせて死亡されるのは本意ではない。
クリスマスケーキを切り分け、フォークを配って並べる。こんなクリスマスは初めてなのか、カーズとDIOは興味深そうに手元を見ている。
「イチゴもサンタも分けれるように作ったんですよ」
「手作りか」
「どれ…」
カーズ様は本来ケーキなど食べるのか謎だし、DIOの口に合うのかどうか分からないが一応ケーキを手作りしてみた。
ドキドキしながら口に運ばれるケーキを見届け、もぐもぐと咀嚼するカーズとDIOを交互に見ていると、「まぁまぁだな」とDIOが呟く。
もう一口食べる様子を見ながら胸を撫で下ろしていると、カーズが皿を突きつけて来た。
「何ですか?」
「次のケーキを持って来い」
気に入ってもらえたようで何よりです。
まだ余っていたケーキを取り分け、私にも出せと騒ぐDIOに最後の一切れを渡した。
深夜によく食べるものだと感心したが、彼らにとってはちょうど昼時だったらしい。なるほど昼夜が逆転している。
「名前、悪かったな。その…これはいつものお礼だ」
吉良が差し出した小包を驚きながら受け取って開くと、小さな飾りのついたブレスレットが入っていた。
「爆弾…」
「違う」
「フフッ…冗談ですよ。ありがとうございます」
「名前、私からも受け取ってくれ」
「あらあら、ありがとうございます」
ディアボロの小包はどうやらマフラーだったようだ。
上品な赤いマフラーが質の良い箱に綺麗にたたまれて収められていた。この辺の財力は本当に組織のボスだと感じさせられる。お礼出来ない金額の贈り物は気が引けるのでご遠慮しているのだが、マフラーくらいならいいだろうと無理に巻かれてしまった。
「しかし寒いな…」
「当たり前だ、雪が降っているからな」
カーズが眉を寄せて答え、名前は目を丸くした。この数年積雪は遅くなっている一方で、クリスマスに雪が降るなんて久しぶりだ。
それに、冬に雪が降るのは当たり前だがクリスマスに降るそれは別物だ。
「ホワイトクリスマス!!」
「は?なんだって?」
天才と称されるカーズ様もこういうイベント事には疎いらしい。興味の問題だろう。
「ホワイトクリスマスですよー。幻想的ですね」
「ふーん…」
やはり興味なさそうだ。
「サンタがソリに乗って飛んでるかもしれませんよ!?」
「夢を見すぎだろ」
「飛んでるのはサンタじゃなくてカーズじゃないか?」
DIOとディアボロのツッコみに、自分だけが浮かれていると気づく。
カーズが飛んでいても、幻想的ではない。むしろ新聞沙汰だ。
両腕が羽のふんどし男現る。
いや、男版ハーピーといった扱いかもしれない。
「名前、すごい顔してるぞ…」
「失礼ですよ、吉良さん」
貴方に言われたくないと言う言葉は飲み込んだ。
どうも超人異人のペースに巻き込まれていけない。
「名前、サンタが欲しいなら私が連れてきてやろう。テレビで居場所はチェック済みだ」
「ご遠慮します」
「おい、そんなにカリカリと怒ると皺が出来るぞ」
「そんな名前も可愛らしい」
「イタリアーノってのは面倒な奴だな」
駄目だ。この人達のペースを崩せない。
「名前、正月はどこにも行かないのだろう?」
「初日の出を拝みに行きます」
これには少なくともDIOとカーズがついて来れないだろう。
「そう言うと思ってな、完全紫外線カットの完全防御服を開発しておいた」
自慢げに「クリスマスプレゼントだ」と笑うカーズとDIOに、名前はため息をついてお正月はジョースター家に、お邪魔することを密かに決意した。
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