友達以上恋人未満(5部メローネ)


「嫌な言葉だ……」


心底うんざりした声をあげて、メローネが机に突っ伏す。
名前がメローネに今の二人の関係を問われ、「友達以上恋人未満」と答えられたらしい。


「日頃の行いだな…」

プロシュートの言葉に、ホルマジオとギアッチョが頷く。


「リゾットもそう思うのか?」


急に話を振られ、グッと息を飲む。
正直な所を言って、どっちでもいい。
だが、さすがにそれは良くないだろう。


「どうだろうな」

曖昧に濁して、カフェラテに口をつける。
メローネはガックリ肩を落としたかと思うと、プロシュートにしがみついて大袈裟にショックだと喚き始めた。


「オレの愛が分からねぇのか!?」

「オレにしがみつくな!!」
「あ、兄貴を離せー」


わたわたとペッシがプロシュートからメローネを引き剥がそうと試みるも、メローネには敵わないのかビクともしない。
わざとらしくおいおい泣き真似をし、プロシュートに甘える。


「どうすればいい?」

結局それを聞きたいだけなんだろうが、余計な演技を入れたりするから嘘くさくなるんだろう。
げっそりしたプロシュートが(それでも兄貴と慕われるだけある)、スーツの襟を直してメローネと気持ち距離を取る。


「お前が『愛』とか言っても嘘くさいだろ」

ため息と共に発された言葉に、思わず頷いてしまった。
こちらを向いていたホルマジオが、飲み掛けたカフェラテでむせていたが、メローネにバレなかったからまぁいい。

「お前の行動は演技くさいんだよ」

「何だって!?」


大袈裟に驚くメローネを指差して、プロシュートは続ける。


「そうゆうところが演技くさいんだよ。今だって、さして驚いてないだろ」

「バレた?」


ウフフと笑うメローネの本心は一体どこなのだろう。
本音と建前の境が揺らぐメローネは、全部が演技に見えなくもない。
「でもさ」と割って入ったのは、ゲームをしていたギアッチョだ。
クリアと表示されているのを見ると、キリが良くなったから入ってきたのだろう。


「告白した時のメローネは赤くなって演技くさくなかったぜ…あの時のメローネは「よせよギアッチョ!!」


完全にギアッチョに弱味を握られている様子のメローネは、笑うギアッチョを無理矢理口を塞いで黙らせる。
ギアッチョがキレるかと思ったが、慌てるメローネに気を良くしたのか、ニマニマと笑って再びゲームを始めた。


「お前、本気だったんだな…」


同感。

慌てるメローネには演技臭さが全くなかった。
同一人物かどうか疑いたくなる。

「ホルマジオ!?信じてなかったのかよ!って、全員信じてなかっただろ!!」


その場にいる全員が目を丸くしている事に、メローネは今度こそガックリ肩を落とした。


「お前が一々演技くさくするからだっつーの」

プロシュートは顎に手を当て、「ふん…」と何かを思案してメローネを引っ張って部屋を出ていってしまった。


「プロシュートのやつ、どうしたんだ?」

「さぁな」


ホルマジオは驚いた様子だったが、部屋が静かになって良い。
ギアッチョがゲームの音を少し落とし、しばしの静けさを堪能しながら書類を捲る。




「変じゃない!?」

「大丈夫だ。いつもよりずっと良い」


ドタドタと煩く歩いてプロシュートとメローネが戻ってくると、さっきまでより一層大きな声でメローネが騒ぎ立てる。


「リゾット!変じゃねーか!?」


………………いつもの格好は変じゃないと思ってるんだろうか。

「いいんじゃないか?」


全員でメローネをおだて、外へ放り出した。

プロシュートはしたり顔で「絶対上手くいくだろうな」と笑っていたが…どうだろうな。
本質は変わらないからな。

















「チャオ」

引っ込みがつかなくなって、気乗りしないまま名前の働く店に着いてしまった。
重い足取りでいつもの窓際の席に腰かける。


「……ち、チャオ」

驚いた様子の名前と、しどろもどろの挨拶を交わす。
プロシュートが言ってた通りに真っ赤なバラを渡すと、名前は少し赤くなって遠慮がちにそれを受け取ってくれた。
何だかんだ言って、こんな事を喜んでくれる名前はやっぱりディ・モールト可愛い。


「今日は…いつもと違うけど何かあるの?」

花束を抱えて、名前が少し上目遣いで問う。
無意識でやっているのが憎い。
押し倒して今すぐここで自分のものにしたくなるのを、グッと堪えた。
そんな事をすれば間違いなく二度と口をきいて貰えないだろう。


「いや…変か?」

「ううん、いつもより格好良くて驚いた」

プロシュートが貸してくれたパリッとしたシャツとスーツを着こなし、髪も少し流して顔がいつもより良く見える。
視界は広いけど、馴れない感じが恥ずかしい。


「あんまじろじろ見るなよ」

「そうやって照れてると、メローネだって事忘れそう…」


いつもはどんなだと思っているのか聞いてみたいが、さっきまでの仲間の反応と同じものしか返ってこない自信がある。
ホルマジオには服着て歩く18禁だとまで言われた。
否定はしないけど。


「いつもそれなら良いのに。いつもは一番店の奥に座らせたがるオーナーが、今日は入り口付近の大きな窓の近くかテラスに座らせたがっていたよ」


そう言って名前は一番一目につく席を指差す。
オレは席にこだわりはないが、名前に会いにきているんだからスタッフの待機場所に近い場所に座りたいのは普通じゃないだろうか。



「ふむ…髪を流してマスクをしていない分、綺麗な顔が良く見えるし…下手したらそこらのモデルも太刀打ち出来ないかもしれないよね」

まるで他人事のように冷静に分析をする名前に、一抹の不安がよぎる。


「名前はこんなのが好きなのか?」

「ぇ?……んー、そうだね」

「プロシュートには会わせないようにしよう」

「ん?」



何でもないと首を振って、パスタをクルクルとフォークに巻き付ける。


「ボンジョルノ」

新たな客が現れ、名前はサッとメニューを持って客の方へ足を進める。
その動きに離れ難さなんか微塵も感じられない。もしかすると、自分が会いにこなくても名前は気にしないかも知れないと自嘲気味に笑ってパスタを頬張る。

いつもの様子で接客する名前に何気なく目をやって、これまでに無いくらい驚かされてしまった。


「へぇ、あんたが名前か」

「アイツにしては趣味がいいじゃねーか」


名前を舐めるようにじろじろ見て微笑むプロシュートと、同じように名前を見て納得いかない様子のホルマジオ。
さっさと席につけと促すリゾットと、珍しく外に出てきたイルーゾォはメニューに釘付け。
ペッシは出された水を飲んで、ソルベとジェラートがおてふきを全員に配っていた。

「ギアッチョが現れたらおしまいだ…」


名前はギアッチョとメローネが同じチームなのを知っている。
そんなギアッチョが現れたら、今現れた集団が自分の仲間だとバレてしまう。



「チャオ、名前」


「何してんだテメーら!!」

ギアッチョが現れた瞬間、思わず立ち上がって声を上げてしまった。

店中の視線が集まり、名前も驚いて固まっている。

「お前の愛しのバンビーナを見に来たんだよ」

「名前はバンビーナって歳じゃねーよ!日本人は若く見えるんッブ!!」


バカにするホルマジオに反論する言葉は、名前の手で遮られた。
スナップの利き方も、腰の入れ方も最高のビンタだった。


「女性に歳の話は禁句だメローネ」

プロシュートがやれやれと椅子を引いて腰掛け、ホルマジオは肩を震わせて笑っている。
気にするような歳でもないのに、女は難しい。




ヤンヤヤンヤと騒ぎ、リゾットが「いい加減帰るぞ」と言い出すまでギアッチョとホルマジオ、プロシュートの3人に散々からかわれた。

名前はすっかり全員と仲良くなっていた。


「また来るよ、名前」

プロシュートが名前の手を取って軽くキスをすると、名前は耳まで赤くして頷いていた。


(完敗かな…)


名前が仕事を終えるまでカプチーノを飲み、一緒に店を出た。


「プロシュート、カッコいいだろ」


帰り道でそう切り出すと、名前は何を言っているのかと目をぱちぱちとしばたたかせる。
しばらくして「そうだね」と頷く名前の手を、そっと取ってキスをした。


「め…メローネ?」


プロシュートにされた時のように赤くなる名前の手を離して、驚いて固まった身体を抱き締めた。
柔らかい髪を撫でて首筋にキスをすると、さっきまでのカフェの香りがした。


「どどど、どうしたの?」

「アハハ、名前…噛みすぎ」


首まで真っ赤になった名前の頬に手を添え、小さな額にキスをして離した。


「やっぱりディ・モールト可愛い」

額を押さえて目を皿のように丸くした名前が、夕陽でさらに赤く染まる。


「やっぱり…オレとは付き合えない?」


(プロシュートみたいな男が好き?)その言葉はあんまりにも寂しくて言えなかった。


名前はいつもより真剣なメローネに気づいて、小さな唇を引き結んで難しい顔をした。


「…やっぱ、日頃の行いか…」


笑おうとしても、自嘲しか出てこない。
こんなにもハマるなんて…。


「…チャオ」

小さく挨拶して背を向けると、予想しなかった衝撃が背中に走った。
後ろから回された自分よりも細い腕が、胸の辺りのシャツを小さく掴む。



「……なる…」


震える微かな声が、街の喧騒にかき消されながらも耳をくすぐる。




「彼女に、なる」





スタンド使いでもない名前が、時を止めたように感じた。


「名前…幸せ過ぎて、今なら死んでもいい」


何人もの女と遊んでおきながら、胸が張り裂けそうな程心臓が脈打つのは初めての経験だ。


「死んだら意味ないじゃん」


笑う名前を振り返って、正面から抱き寄せた。


「確かに、今死ぬのは勿体ない…」


きつく抱き締めたまま耳にキスをして、また固まる名前を笑ってサラサラの髪に顔を埋める。


「せっかく恋人になれたし、名前を抱かずに死ねるわけないよな」

「またすぐそっちに持っていく!!」


頬を膨らませてそっぽ向く名前は、やっぱり耳まで赤い。


「でも、そうじゃないプロシュートよりオレを選んだんだろ?」



押さえきれずに笑うと、名前はこれからの日々を考えたのか、大きなため息を溢した。



「大丈夫!!スリリングでディ・モールト楽しい毎日を約束するよ!」










長かった…。
これ、shortで大丈夫?
名前様の、メローネとの受難の日々はこれからです(笑)




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