暗チでクリスマス’13


「早く寝ろ」


リゾットに仁王立ちでそう言われ、名前は不服そうにその仏頂面を見上げていた。
齢も20を超えたというのに、どうしてこんなに早く寝なければならないのか。まだ時計は9時を指したばかりだ。


「まだ眠れないよ!!」

「子守唄でも歌ってやろうか?」


リゾットの子守唄だなんて、とても貴重な体験に「是非」と言いたくなる。しかし、今日だけはそんな甘言には揺るがない。何しろ今日はクリスマスイブなのだ。
寝て起きたらクリスマスプレゼントがあると言うなら別だが、もういい年になった大人の、しかも暗殺チームに所属するような女の枕元にプレゼントを振舞うほど、サンタはリッチなおじいさんではないだろう。


「もう少し位、みんなでお酒飲んでパーッと騒いでもいいじゃない!!」

「良い子は寝る時間だ。諦めろ。美容に悪いぞ」

「リーダーから美容の云々を言われるなんて気持ち悪いわ」

「うるさい、早く寝ろ」


うるさいのはリゾットの方である。
すでに暗殺チームの一員としてしっかりその任務を果たしてきた上に、男っ気がないおかげでクリスマスらしいイベントもない。せめてチームのメンバーとケーキを食べてお酒を飲むくらいしたい。


「まぁまぁ、ちょっとくれーいいじゃねーか」

「ホルマジオ!!!」


埒の明かない堅物リーダーの後ろからぬっと伸びた手が、帰宅したばかりの名前を抱きしめる。ホルマジオは名前の頬に自分の頬をグリグリこすり付け、慌てる名前をゲラゲラ笑った。どうやらすでに飲んでいるようだ。


「まずは寝る前に飯くらい食わせねーとな」

「そうよ!!お腹すいたーーー!!!」

「…仕方ない」


リゾットはそう言ってホルマジオから名前を引き剥がし、そのまま手を引いてリビングへと進む。
どうやら全員居るようで、入ると同時にそのやかましさに名前は耳を塞いだ。


「名前!!おかえりーー!!!」


飛びついていたメローネをひらりとかわし、寄ってきてくれたソルベとジェラートにハグとキスをした。二人とも仲良く晩酌を始めていたらしい。


「名前、遅かったじゃねーか」

「チョコラータのとこに書類を出さなきゃ駄目だったの。メール送っても良いんだけど、今日は近くまで行ってたから」

「マジかよ!!なんにもされなかっただろうな!!」

「メローネよりもずっとタチが悪いからな」

「大丈夫」


笑って答えた名前がテーブルに着くと、ペッシとイルーゾォが食事を運んできてくれた。リゾットに手伝いを頼まれたのだろう。


「グラッツェ」

「良いんだよ。名前も遅くまで仕事してたんだし」

イルーゾォの言葉に、ペッシもウンウンと何度も頷いてみせる。


「今日はクリスマスだから、ちょっと豪華なんだよ」

「イルーゾォ、私の分は狙わないでよ?」

「ね、狙うわけねーだろ!!ちょっと小腹がすいたから見てただけだし!!」


それを狙ってると言うのだ。
全く、彼の細い体のどこに大量の食料が消えているのか教えてほしい。切り分けられていたのであろう鳥の肉は、恐らく七面鳥なのだろう。どこから入手したのかは知らないが、たまにフラッとこんな豪勢な食事が出される。
これを食いっぱぐれていたら、リゾットを恨んだだろう。


「よぉ、名前。今日もお前は寂しくアジトで晩餐か?」

「なによ、兄貴だって」

「俺は良いんだよ。今日という日に誰かを優先しちまったら、他のシニョリーナが妬いちまって面倒だろう?」

「色ボケジジー」

「んだと?テメー…女の癖にそんな口ばっかり利いてっからクリスマスに独り身なんだろうが!!」

「良いもん。私にはギアッチョだっているし!!!」

「おい、そこで俺を巻き込むな。メンドクセー」

「リーダーだって優しいんだから!!」

「さっきは俺に文句を言っていたが?」


こんな状況で揚げ足取りはおよしになって。
喧嘩に巻き込まれかけたギアッチョは眉間のしわをより一層深くしているし、グラスにワインを注いで運んできてくれたリゾットは不服そうにしている。
今日に限って味方についてくれそうにない二人に、名前がプロシュートを振り返るとしたり顔で笑っている。非常に悔しい。


「何よ!!良いでしょう!?私はここに居たかったんだから!!兄貴だって、私が居て嬉しいでしょう!?!?」


こうなりゃ自棄
滅多にこんなに素直にこの仲間が好きなのだと言う事はないが、今日はクリスマスだし、致し方なくこの場にいるのだという風に勘違いされればプロシュートに負けるようで悔しい。
やけくそで本音を言ってプロシュートを睨み付けると、咥えたタバコに火を点けて紫煙を吐き出したプロシュートは「そうだな」と呟いてにやりと口角を引き上げた。






「そうだな、俺もお前が居てくれて嬉しいよ、名前」







「「「「「「「「「ー〜…ー☆!!!!!????!?!?」」」」」」」」」


プロシュートの珍しい言葉に、部屋中に声にならないどよめきが、悲鳴のようにワッと広がる。目を大きく見開いて唖然とする名前を横目に、プロシュートはふーーっと細く細く紫煙を吐き出して笑った。


「クリスマスくらい、正直に言っても良いって気分になったんだよ。オメーが珍しく素直だからな」

「んな…な、何それ!?何狙いなの!?」

「バカかお前。オメーみてぇなチンチクリンに貰いてぇもんなんか何もねぇよ」

「いや、怪しいな…プロシュートがそんなことを言うなんて」

「そうだ、俺達の名前にまで手を出したら…分かってんだろうな?」

ソルベとジェラートが名前を両サイドから抱きしめてプロシュートを睨む。
何故“俺達の”なのかは謎だが、リゾットが代わりに「誰のものでもない」と言って二人を交互に見ていたのでこの際名前自身からはツッコまないことにしておく。


「テメーら、人を何だと思ってんだ」

「「「「「「「「色ぼけジジー「良い度胸だ、テメー等全員枯らす!!」


プロシュートの怒号と共に全員が部屋をドタバタと逃げ回る。名前がキャーキャーと叫びながらギアッチョの影に隠れると、ギアッチョからジロリと睨まれた。文句を言わないところをみると、助けてくれるらしい。


「ギアッチョ大好きー!!」

「調子良いんだよテメーはよぉ」

「そう言って守ってくれるくせにー」

名前がからから笑うと、ギアッチョはチッと舌打ちをした。


「はいそこ、デレデレすんなよー」

「もちろんホルマジオも好きよ?」

「ほんと、テメーは良い根性してんな…。名前、そういうこと言うのは彼氏だけにしとけ?」

「相手が居ないんだから良いじゃない」


きょとんとする名前に、イルーゾォが「そーだ、そーだ!!」と何故か加勢。リゾットもプロシュートから逃れるようにひらりと現れて「名前はこのままで良いんだ」と頷く。
彼氏が出来ないままなんて悲しすぎるが、さらにはこの状況を維持しろと言う仲間にどう反応すべきか分からない。酷すぎる気もする。


「仕方ない、寂しい私を皆が慰めてよね!」


つまりは独身道連れ宣言なのだが、リゾットは「仕方ない」とあっさり頷いて名前を抱きしめた。
長身のリゾットに抱き締められるのは、名前としてもお気に入り。すっぽり収まる感じが堪らない。


「おい、捕まえたぞ」

ポスッと肩を叩かれて振り向くと、プロシュートがタバコの煙をフゥッと吹き、あまりの煙たさにゲホゲホ咽せた。
タバコに馴れてはいるが、普段吸わないので直撃は流石に咽せてしまう。


「ゴホッ…ひ、ひど…ケホッ」

「おいおい、あんまりだろプロシュート。からかったのは悪かったけど、それは可哀想だって」


ヘラヘラ笑いながら言っても効果はない。フンと鼻を鳴らすプロシュートの隣から、メローネが「大丈夫?」とグラスを差し出す。
何を考えているのか…。メローネが優しいとロクでもない予感しかしない。
しかし咽せて苦しい名前は躊躇いつつもグラスの水を飲み干した。リゾットも居るこの部屋で、メローネが悪さをしたりはしないだろう。
ジェラートもソルベも、ホルマジオも居る。安心できる人間が揃った部屋だから、安心していた。
何より、彼らが悪巧みするなんて考えもしなかった。



「…へ?」


グラッと揺れる視界の中で、メローネとプロシュートが笑う。リゾットの腕に支えられて振り返ると、メンバーが次々と「お休み、名前姫」と囁いた。
















「…ーんぅ…」

酷い気分だ。
二日酔いで頭はグラグラ揺れ、頭に鈍器が埋め込まれて内側から叩かれているみたいだった。
ダルい身体を起こし、ボヤケる視界がクリアになるのを待つ。
必死に目を細めながら辺りを見渡し、名前は目の前の光景に首を傾げた。俄かには信じ難い、夢のような光景だった。



「何コレ…」


何度目を瞬かせても、目を擦っても変わらないいつもの自分の部屋には、数え切れないほどの花とプレゼントが整然と並べられている。色とりどりの花と包装紙が、物の少ない殺風景な部屋をカラフルに彩っていた。






「リゾット!!!!!」



バンと大きな音を立てて部屋のドアを開いた名前を、リゾットはのんびりとしたいつもと同じ調子で振り返る。いつもは休みの日は遅くまで寝ているメローネも、昨日からかい過ぎて怒らせてしまったプロシュートもギアッチョもソファーに座っている。
イルーゾォも鏡から出てきているし、ソルベとジェラートも珍しく出かけていない。ペッシが朝食を手にキッチンから出てくると、朝から全員が揃っていることになる。



「これ…」


プレゼントを両手いっぱいに抱え、困惑気味の名前は狼狽して今にも泣き出しそうだ。
お酒の抜けきらない頬はいつもよりも僅かに赤く、寝癖のついた髪はまるで年端のいかない少女のようだ。


「はは、何だよそのナリは」


タバコを咥えて笑うプロシュートに髪を撫で付けられ、名前はポタリと涙を零した。
一度堰を切った涙は堪えられずにポロポロと流れ落ちる。


「ばっか、何泣いてんだよ」


ギアッチョが厭きれたように笑い、リゾットがコホンとわざとらしく咳を一つ。


「お前がいい子にしてたから、おまけされたんだろ」

「わーん…またリーダーが子供扱いするーーーーっ!!!!」

「ちょ、泣くな。おい!!」


「アアッハ!!リゾットが名前を泣かしたぞ!」

「コレは罰を与えないとな」

「今日のご馳走はリゾットの奢り決定だ」

「ペッシ、お前食べたいドルチェあったよな?」

「あ、兄貴!いいんですかぃ??」

「当然だ。我らがリーダーがそんなにけちだと思ったのか?」

「すげーやリーダー!!」

「お前達!!そんなに勝手に話しを進めるな!!」



賑々しく声の響く暗殺チームのアジトの外で、静かに粉雪が舞い始めていた。
ハラハラと静かに舞い落ちる雪が、楽しげに響く10人の声を、今日だけは社会の騒々しさから隠すように降り積もる。












ハッピー・メリークリスマス!!!
今年ももうすぐ終わりですね…。皆さん、それぞれのクリスマスを楽しんでくださいヽ(●´∀`)人(´∀`●)ノ





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